あれは、花言葉「希望をかなえる」のレンギョウの植え込みの下に、黄色の花びらが散り敷く4月下旬のことだったケロ。 「あ〜れ〜も〜カネ、これ〜も〜カネ、みんなカネ〜♪」「…な、なんちゅう歌を歌ってるケロ、ティシア」 朝一番、変な替え歌を歌うティシアに、ぼくはツッコミを入れたケロ。 ティシアは、買いたてぴかぴかの短剣や盗賊の七つ道具を磨いている手を止めて、ぼくを振り返ったケロ。 「だって、切実に要るんだもん、おカネ。 ぎりぎり冒険出来る装備そろえて、ちょっと訓練したら、あっという間におカネなくなっちゃったのに、 まともな冒険の仕事…依頼が全然こないのよ。バイトは疲れるばっかで、あんまり儲かんないし…。 訓練費ためてるから、今ん所、ヘアピン一つ買うのにも、町じゅうで安いの捜したりで、大変なのよ」 ぶーたれながら、また道具磨きを始めたティシアの横顔に、ぼくは言ってみたケロ。 「でも、食事と部屋はただケロ。あせらないでバイトしてればいいんじゃないケロ? そのうち、依頼も来るケロ」 「だって、やっぱりギルドでちゃんとした訓練受けとかないと、本番で困るじゃない。盗賊って、高度な専門職なんだから」 高度な専門職…たしかに、ある意味職人芸ケロかねぇ。 と、突然、ティシアは不気味に笑ったケロ。 「…いっそ、どこかのお金持ちの家にでも忍び込んでみようかな。訓練にもなるし、儲かるし…」 「そ、それはだめケロ! 泥棒は悪いことケロ!」 思わず大声を出したら、ティシアはちょっとバツが悪そうに笑ったケロ。 「うん…分かってるよ。言ってみただけ。 でも、あーあ、どこかに、義賊に入られても文句言えないくらい悪いお金持ちっていないかなぁ…」 …こ、この子は…何考えてるんだケロ。 「どんな相手でも、泥棒はだめケロ!」 「どうして?」 …本気で不思議そうな顔をしないで欲しいケロ。 「冒険者は信用商売ケロ、こそ泥なんかしたら、本当に依頼がこなくなるケロ」 ぼくが一生懸命に言って聞かせたら、ティシアは、ひらひら手を振りながら、わざとらしく笑ったケロ。 「そんなに、マジにならないでよ。言ってみただけだってば。 勝手に盗みなんかしたら、盗賊ギルドからも追放されちゃうよ」 「分かってれば、いいんだケロ。いそがば回れ、だケロ」 「うん。そう言えば、ルー姐も言ってたっけ…地道にやってれば、そのうち腕も上がって、 隠されたお宝を見つけたり、モンスターから分捕ったりできるようになるって…」 のろのろと言うティシアに、ぼくは力をこめて、 「そうケロ、地道が一番ケロ!」 ティシアは素直に、こくりとうなずいたケロ。でも、すぐまたため息をついて 「…あーあ、でも、早くおカネに困らない腕前になりたいなぁ…」 ティシアの希望がかなうのは、まだまだ先のことになりそうだケロ。 4月〜6月頃って、何度やっても、金欠できついです。 丹念に冒険に出て、挨拶イベントもきっちりこなして回っていれば、十月頃には、腐るほどたまってくるんですがね。 それでも、食費と宿泊費がロハというのはすごく有り難いですが…なんだかそれはそれで、条件が良すぎて、 「ゲーム」でなければウラが心配になりそうです。 マスターは、冒険の依頼者から、冒険者斡旋料はもちろん取ってるでしょうが …実はバイトの仲介料も、取ってるんでしょうかね? |