「ねえ、かえるクン、ちょっと聞いてよ…」
ぼくの新しい同居人、新米冒険者のティシアは、初めて知り合った日の夜に、思いがけないことを教えてくれたケロ。
ティシアは、昨日までかえるの姿だったんだケロ。呪いを受けて、かえるになっていたそうだケロ。
しかも、呪いのせいで、過去のこともぜんぜん覚えてないんだケロ。
「…でさ、そのラドゥっていうじーちゃんが、あたしを神殿に連れて行って、人間の姿にしてくれたわけ。
けど呪いが強いから、この姿でいられるの、一年だけなんだって。
だから、一年以内に呪いを解かなきゃならないのよ」
「ケロ! そんな事情があったケロか!」
ぼくが目を丸くすると、ティシアは心底意外そうな顔をした。
「あれ? …かえるクン、もう信じちゃったの?」
「え? じゃ、今の話…」
ぼくが唖然として聞き返すと、ティシアは真顔で、
「今の話はホントの本当よ。でも、とても信じられるような話じゃないでしょ、フツーは?」
「だって、ラドゥと言ったら、この辺では知らない人はいないっていう大賢者ケロよ。
そのラドゥが言ったんだから、間違いないケロ」
ぼくがそう説明すると、ティシアは妙に納得した顔になったケロ。
「そうなの? へー、あのじーちゃん、そんなエライ人だったんだ…」
それから、ぼくに向かって、
「でもね、もし、かえるクンが、ある日突然、知らないじーちゃんに、『おまえは元々かえるではないのじゃ』とか何とか言われたら、
信じる?」
「そうケロねぇ…状況によるケロ」
「今のあたしなら、絶対信じない…すぐにはね。ついて来いと言われたって、おとなしくついて行ったりしないわ。
なのに、あの時のあたしは、あっさり信じちゃって、はるばる神殿まで、のこのことついてったのよ。
今思ったら、信じられない。
でも、それって、あたしに呪いがかかってるんだってことの一番の証拠になるのよね」
「ケロ?」
ぼくは、首をかしげて見せたケロ。
「あたしね、今までずっと、そんな風に馬鹿みたいにポーっとしてて、何も考えてなかったの。
どんなことがあったって、すぐにどんどん忘れちゃってたし…。
きっと、呪いのせいよ。
今のあたし…ホントのあたしは、そんなボンヤリじゃないもん」
「なるほど、ケロ」
「だからね、あたし、この一年で、絶対に呪いを解くよ。またあんなボケッとしたかえるに戻るなんて、絶対ヤだからね!」
ティシアは、そう宣言して、いきなりぼくの乗っていたテーブルをバンと叩いたケロ。
ぼくがびっくりしてテーブルから転げ落ちるほどの勢いだったケロ。
「あ、ごめーん!! 大丈夫?」
「…イテテ…」
今は、ボケッとはしてないケロも…大ボケはかますんだケロね、ティシア…。
それは、4月の初めの日。「断固として勝つ」が花言葉のオダマキが、小さなつぼみをはぐくむ頃の事だったケロ。
「清明の決意」から改題しました。二十四節気の「清明」は、ちょうどきのこイベントの頃だという事に、
後になって気が付いたので…。
ティシアの今のこの気持ち、この決心が、一年を通して彼女を動かしていくことになる…予定です。
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