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二百十日の暁星


「かえるクン! しっかり!」
 差し伸べられたティシアの手に、ぼくはひしとしがみついたケロ。
「こ、怖かったケロ〜!」
 ぼくは、べそをかいていたケロ。仕方ないケロ。
 昨日の昼過ぎ、嵐の中で、窓をちょっと開けてみたとたん、風に吸い出されたんだケロ。
 もみくちゃになって、くるくる回って、下に落っこちたり上に吹き上げられたり…飛ばされてる間、 生きた心地しなかったケロ。
 延々飛ばされて、挙げ句の果てにつるつるの教会の塔のてっぺんに引っかけられて …一晩必死でしがみついていたんだケロ。
 ずっと下の方では、暗くなってからも僕を捜してティシアやアルターがうろうろしていたケロも、 上にいるぼくには全然気が付いてくれないし…。
 これで泣かない方がおかしいケロ。

 朝になって、ようやく気が付いてくれたティシアが、盗賊の本領発揮、 するすると塔を登って来てくれて…今、ようやく助かったんだケロ。
「もう、かえるクンったら! 心配したんだから!」
 ティシアは、片手で尖塔に捕まって、もう一方の手でぎゅっとぼくを抱きしめてくれたケロ。
 ティシアの服はずぶぬれだったケロ。昨日からずっと、探し続けていてくれたんだケロ…。 感激して、また涙が出てきたケロ。
「ごめんケロ〜」
 見つけてくれないのに腹を立てて、塔の上で悪口言ったりして、悪かったケロ…と、 お腹の中で付け足したケロ。
「でも、無事で良かった…」
 ティシアも、ちょっと涙ぐんでいたケロ。

「おーい、大丈夫かー!?」
 下から、アルターのばかでかいわめき声が届いたケロ。
「うん、大丈夫!!」
 叫びかえしながら顔を上げたティシアが、はっと息をのんだケロ。
「見て、かえるクン、きれい!!」

 ぼくも顔を上げてみたケロ。
 …本当に、綺麗だったケロ。夜明けの雲が、すっかりバラ色に染まって、 その間から澄み切った空が見えて。お日様の周りの雲は、金色に染まって。 街は暗く沈んで見えて、高い屋根だけが、登ったばかりのお日様の光に金色に輝いて。 …すんごく綺麗だったケロ。

 と、次の瞬間、ティシアがぼくごとずるっと下に滑ったケロ。
「ぎゃあ!!」
 ぼくが叫び、
「うわーッ!!!」
 アルターの悲鳴が響き渡ったときには、もうティシアは塔の装飾をしっかりつかんでぶら下がって 笑っていたケロ。
「ごめん、ごめん。滑っちゃった…」
 と、ぼくに笑いかけてから、
「ほら、アルター兄ィ!! 見て見て!! 空、すっごくきれいよ!!」
「馬鹿やろう!! 何のんきなこと言ってんだ!! いいから、動くなよ、ティシア!!! 今…」
 ティシアの歓声の後から、アルターのわめき声ががんがん響いたケロ。
 …と、その声がぴたりと止まって、
「…どうかなさったのですか、こんな朝早くに?」
 シェリクの落ち着いた声が聞こえたケロ。そっと下を見ると、教会の扉が開いて、 僧服と頭が出てくるのが見えたケロ。
 けど、その瞬間目が回って、ぼくはまた上を見てうめき声を上げたケロ。
「ティシア、早く降りて欲しいケロ…」

 すぐに、すぐ下の窓が開いて、ぼくは無事救出されたケロ。
 その後、ティシアはカゼ引いて半日ほど寝込んで…。 アルターとシェリクから2種類の説教を受ける羽目になったんだケロ。



ティシアの番外編。「投稿図書館」で赤緑 葵様のかわいいお話につけた後日談 (ティシアバージョン)です。
実は、ごく小さなかえるなら、少々高いところから落ちても平気なんですけどね…。 まあ、このかえるクンは結構大きいですから、落ちたら怪我するでしょうが。


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