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白い安らぎ


深夜。
冒険者宿のかえる君は、ふと目を覚ましました。

「?」

重いまぶたを持ち上げ、朦朧とする頭を枕の上で回しました。
誰もいないはずの、階下の酒場から、不審な物音が聞こえます。

「!」

ようやくかえる君の頭がはっきりしてきたとき、隣のベッドの掛け布団がむくむくと動いて、 白い竜の子、チビドラの寝ぼけた顔がぴょこりと出てきました。
「君にも、あの音、聞こえるケロ?」
かえる君が声をかけると、
「キュウキュウ、キュウ」
チビドラは眠そうな声で答えて、ちょろりとベッドからすべり出ました。
そして、トテトテと部屋から出て行ったのです。

かえる君は、コトンコトンと階段を下りていくチビドラの足音を聞きながら、 しばらく迷っていましたが、思い切って暖かい布団の中から、 冷たい早春の夜の空気の中に出て行きました。

チビドラの後を追って、階段を降りていくと、真っ暗な酒場の中、カウンターのあたりに、 蛍のような青白い光が一つ、ぽっとともっているのが見えました。
そのかすかな光で、カウンターに誰かが1人座っているのが分かりました。 精霊使いのドーソン・トードです。
ドーソンは、魔法の明かりをつけたトネリコの杖をカウンターの脇に立てかけて、 なにやらぼんやりと考えながら、 大きなマグカップに入ったものをちびちびと飲んでいるところでした。

かえる君は、カウンターの端っこから上によじ登って、 そっとドーソンの方に跳ねていきました。

その気配に、ドーソンはふっと顔を上げました。
「起こしてしまったか…すまんな。どうも眠れなくて」

かえる君は、「いいよ」とちょっと首を横に振って見せると、 ぴょんとドーソンの目の前に着地しました。
「何、飲んでるんだケロ?」
「牛乳だ」
赤い顔で、ドーソンはしれっと答えました。
「本当は、熱い紅茶なぞ欲しかったのだがな。
…この夜中に、勝手にかまどの火をおこすわけにも行かぬのでな」
そう話すドーソンの吐く息は、はっきりと酒の臭いがします。
かえる君は疑わしげな視線をドーソンに注ぎました。
ドーソンはにやりと笑って、
「うむ、この寒いのに冷たい牛乳だけではやっとれんからな。ブランデーを少々入れた」
「少々ケロ? 一杯のブランデーに少々の牛乳を入れたんじゃないケロか?」
かえる君はそう指摘して、カップを覗きました。
「それにこの香り…高級なブランデーだケロ。 それをこんな大きなカップで飲んだら、マスターの…」

「まあ、そうカタイ事言うな」
と、ドーソンは低く笑って、
「それより……聞いてくれ。チビドラは、たいした奴だ」
話をそらしたことは、かえる君にも分りましたが、それはあえて言いませんでした。 代わりに、
「そう言えば、チビドラはどこ行ったケロ?」
そう聞くと、ドーソンの顔に、ふわっとやわらかな表情が浮かびました。 目に驚くほど優しい光をたたえ、
「ここだ」
その目で自分の膝の上を指しました。
チビドラは、ドーソンの膝の上で、白いマリのように丸くなって眠っていました。

「まったく…チビドラには、いつも驚かされるよ」
「ケロ?」
かえる君は首をかしげて鳴きました。ドーソンは、かすかに上下するチビドラの体を 見つめたまま、かえる君のもの問いたげな鳴き声に答えました。
「離れていても、俺の気持ちが読めるようなのだ…。
俺が、誰かここに…傍にいて欲しい、そう思うとき、ふと気がつけば、必ずこいつが傍にいる。
それも…一番いて欲しいと思う、まさにそのやり方でな…」
どちらかといえば無骨なドーソンの手が、注意深く、やさしくやさしく、 チビドラの滑らかな背中をなでました。

「うーん、ケロ…」
かえる君は、思わず唸りました。
チビドラは、酒場に下りる前に、かえる君にこう言っていたのです。
「どおそんが、したのへやで、へんな『まぜまぜおさけ』のんでる。いってあげなくちゃ」
と。

ドーソンはチビドラをなでる手を止めずに、そんなかえる君の顔を見て、
「『ただ傍にいる』ということにおいて、チビの右に出る奴はいないな」
そう言った後、ふとその深い茶色の瞳をそらして、
「こいつさえ、傍にいてくれれば、俺は寂しくないよ…」
囁くように、そう告白しました。


正直、私はゲーム画面のチビドラは好きじゃないんです。
ここに出てくるチビドラの姿は、あれよりリアルな小動物的な竜のイメージ。
竜好きには、自分好みの仔竜の姿が思いのままに妄想できるのさっ(笑)



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