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人間はより凶悪


春まだ浅い3月。
真冬の底冷えが居座る半地下の研究室で、研究員が午後の休憩を取る時間。
ちょうど顔を出していたドーソン・トードも、 ちゃっかりとレラと一緒に香り高い熱い紅茶にありついていました。

お茶を飲みながら、しばらく世間話をしているうち、ドーソンは、いきなり言い出しました。
「ダークエルフってのは、皆ああなのかな…どう思う?」
「…『ああ』って、どういうこと? ダークエルフの何が問題なの?」
ドーソンの話の急転ぶりととぶっ飛び方にももうすっかり慣れて、 レラは両の眉をピクリとさせただけで素早く言葉を返すことが出来るようになっていました。

「むう」
話が先走ったと気付いて、ドーソンはちょっと決まり悪げに唸りました。
「あのな。俺は…ダークエルフという奴は、人類をしのぐ高い知性を誇る種族だと 聞いていたのだが」
「ええ」
「邪悪な闇に沈み、恐るべき魔力を身に付けた、 人間とエルフにとって最も恐るべき敵手…って言われているだろう」
「私もそう聞いているわ」
「…だが、俺が今まで実際に会ったダークエルフどもと来たら…子供っぽいほど単純だ。 そうは思わんか?
強い力をもたらす物品をただひたすら追いかるだけの、単純な奴らばかりだろ」

「話に聞く限りでは、オルフォス王国を滅ぼした連中はその通りだったみたいだけど」
レラが答えました。
「リザリアは? 彼が、神龍の鏡を狙うのは、そう単純な理由からだとも思えないわよ」

ドーソンは、「どうかな」と小さく笑って首を振りました。
「あいつも、ただ単に『無敵の力』を手に入れたがっているだけのように見えるがな。
今まで、何度も鏡の欠片を狙って邪魔ばかりしてくれたが… しつこい割に、そのやり口が単調で幼稚だ。
俺があいつなら、もっと効果的な罠や策略を使っている。
…さらに言えば、人としてどうか、なんてややこしいことを考えさえしなけりゃ、 ずっと強力な策だって思いつける」
「…貴方ならそうでしょうね」
レラは苦笑交じりにうなずきました。
「彼は案外、高潔なのかもね。ダークエルフなりのポリシーを守っているのかもしれないわ」

「それはありえない」
ドーソンは言下に否定しました。
「何故そう思うの?」
レラがちょっと不思議そうに問うと、ドーソンは自信たっぷりに、
「奴は、よりによってマンティコアなんぞをペットに選ぶような奴だぞ」
「ああ…まあ…ね」

マンティコア。非常に強力なモンスターです。
さそりの尾、ドラゴンの翼、ライオンの体を持つ生き物。ですが…

「…あの、知性の欠片もない瞳と三重の牙つきの口。 それが、妙に賢しげなじじいの顔にくっついているって取り合わせが、最悪ではないか。
何より性格が見た目そっくり。人間と動物の最悪の部分を継ぎ合わせたような生き物だろ」

レラも、うなずかざるを得ませんでした。

「四六時中魔法なり鎖なりで縛っておかなくては、安心できないし、 誰かを襲わせる以外に、何の使い道もない。
強いからってだけで、あんな生き物を飼うなぞ、正気の沙汰ではない」

ドーソンの口調がだんだん変な方向に熱を帯びてきました。
レラはまたか、とこっそり苦笑して、話をそらしました。
「それじゃあ、もし貴方だったら、どんなモンスターを使うのかしら?」

「…そうだな…」
ドーソンは、濃い茶色の目を細めて考え込みました。
「グリフォンやヒポグリフなら、パワーは劣るが、比較的飼いならしやすいな。 姿もいいし、きれい好きで品がいい。騎乗も出来るし、上手く使えば戦力としても遜色がない。
強さを基準にするなら、小型種ワイバーンか…。慣らしにくいが、多少は融通も利くし…」

そうして、またしばらく黙って考えていましたが、
「…だが、友にするなら、なんと言っても白い龍の子が最高だな!」
そう言って、膝の上でちっちゃなとぐろを巻いているチビドラを抱き上げてほお擦りしました。

レラはまたこっそり苦笑してうなずき、チビドラの背中をなでてやりました。


リザリア達に思い入れのある方々には申し訳ありませんが…これはかえほん中の「ダークエルフ」達へのツッコミです。
まあ、赤竜編、青竜編とタイムテーブルが同じになるから、白龍編の大ボスも、本当に陰険なダークエルフになれなかったのでしょうが…。

私はリザリアは、生きている時間の長さや、 ダークエルフを部下にしていることからダークエルフだと思い込んでました。 (フロスティは考古学的研究対象になるくらい昔に消えたという脳内設定。 ゲーム中は、妄念にとらわれた亡霊説に傾きかけていたんですが、 最後にちゃんと死んだのでこれはこれは否定)。
なので、投稿図書館で「ダークエルフでは無い可能性」を指摘された時は目から鱗でした。

マンティコアは、ゲームにもよく出てくる怪物ですが、 姿はともかくここに出てくる性格はべに龍オリジナルです。あしからず。

…ところで今回、久しぶりに読み返して思いました。
レラさん、よくまあ、こんな男とティータイムにだべっていられるなぁ。(笑)



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