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運命の定義


冬のコロナの大通りに、冴え冴えと一番星が輝き始める頃。
大通りの冷たい風をついて酒場にやってくる常連客たちに混じって、 ドーソン・トードが冒険から帰って来ました。
「お帰り、ドーソン」
と、声を掛けたマスターの膝の後ろから、
「ウキュ」
白い仔竜・チビドラも、ひょこりと顔をを出しました。
そして、いつもの隅からは、
「おかえりなさい。そろそろ、コロナに帰ってこられる頃だと思っていましたよ」
と、言いながらミーユが歩み出てきました。
「うむ。ただいま」
ドーソンは、にこりと会釈を返しました。

旅装のまま、マスターの心づくしの夕食を腹に入れたドーソンは、 ブランデー入りの熱い紅茶の入った大きなカップを手に、 ちょうど一曲終えて一息入れたミーユと、のんびりと世間話を始めました。
「聞きましたよ、ドーソン。今回の冒険も上首尾だったそうですね」
「…さすがに、耳が早いな。ああ、思った以上の成功だった」
ドーソンは、淡々と答えました。冒険が成功しようが失敗しようが淡々としているのは、 いつものことなのですが…。
いつも以上の淡白さに、ドーソンの膝の上のチビドラが小首をかしげて見あげ、 物問いたげな声をあげました。
「キュ?」…何かあったの? 
ドーソンは、チビドラの目を見返しました。
「いや、別に、何かあったわけではないが…。 おぬしらは、『運命』というもの、どう信じている?」
チビドラは、きょとんとするばかりです。いきなりな話の飛び方に、 さすがのミーユもあっけに取られました。
「は?」
ドーソンは、そんな1人と1匹の反応には気付かないかのように、
「俺は、未来をあらかじめ定める『運命』なんてものは、信じておらぬが…」
「ときには、そんな運命を感じることもありますよ、私は」
ミーユは素早く落ち着きを取り戻して、答えました。
「あなたがこの町に来たときも、そうでした…でも、今、なぜそんなことを?」
問われていることにも気付かないかのように、ドーソンはかぶりを振りました。
「俺には、どうしても、未来があらかじめ決まっているなどとは信じられぬ。
実は、今度の冒険ではな…」


今度の冒険では、ドーソンは己の出自を求めるカリンに付き添って、 滅びた王国の遺跡に行ってきました。
そして、カリンが滅びた王家の最後の生き残りとして、『精霊の遺産』と呼ばれる宝物を 継承するのを見届けたのですが…。
その時、受け継ぐもののあまりの大きさに、カリンは一度、ドーソンに相続を代わってもらえないか、 と言い出しました。

「カリン…これは、おぬしの過去、おぬしの『運命』だ。俺の、ではない」
その時、ドーソンはきっぱりと言ったものです。
「おぬしが行くべきだ。
…俺は、俺の『運命』で、手一杯だ」


「キュー?」
チビドラが、訳が分からない、と言うように声をあげました。
…ドーソンは、運命を信じてないんじゃなかったの?
ミーユも不思議そうに眉をひそめています。
ドーソンは、ぼそぼそと説明しました。
「俺の信じる『運命』ってのは、未来を左右しうる『自分につながるあらゆる過去と現在』だ。
それをひっくるめて、一つの言葉で呼んだら『運命』という呼び方になる。
例えば、コロナのばばが以前、俺が『大変な運命を背負っている』と言ったが、それはつまり俺が、 大変な過去を負っていて、それが今現在も、俺の未来を動かそうとしている…と、そういう意味なのだ。
…俺は、そう信じている」


そして、カリンは『精霊の遺産』と共に、ドーソンが信じるところの『己の運命』をも見出したのです。


「ところが、だ…」


冒険を終えてコロナに帰ってきたとき、カリンは一つの信念を抱いていました。

『ドーソンの力になるために、私はこの力を授かったのだと…信じています』


「そう言われて、俺は愕然としたね。まさかカリンが…占いの本質をよく知っているはずのカリンが、 『運命』が未来を支配する力そのものだと信じていたとは」
ドーソンは、ため息をついて、紅茶をすすりました。
「…で、俺は反論したんだ。
オレの信じる運命は、そんなモンじゃない、自分の人生を、ヘンな信念で無駄遣いするな…と、な。
そしたら…」
ドーソンは、もう一度ため息をついて、
「すっかり引かれてしまった…。
どうやら、少し意地になって熱く語りすぎたのかもしれんな。
まあ、気にするようなことでもないのだが…正直、運命の専門家の直弟子から、 あんな目で見られると、さすがにがっくり来てな…」

「ムキュキュウ」
チビドラが呆れたように、ミーユの方を見あげました。
…カリンの「あんな目」っていうのは、多分、ドーソンの思っている意味とは全然違うんじゃないかなぁ?
ミーユも、チビドラにそっとうなづきました。
…ドーソンには、言っても判らないでしょうけどね。


『継承の儀式』のシナリオでは、主人公が精霊使いだと、継承のときに選択肢が出て来るんですよね。
カリンに、「継承を代わってくれないか」と言われたときには、ちょっとビックリしました。
「カリンが行ってくるべき」という選択肢を選んだとき、 いや、この選択肢の「くるべき」の言葉を見たときに、私の中で ドーソンの『運命』への信念の脳内設定も生まれました。
こいつ意地でも甘い方へは行きたくないんだな…と、思われた方、正解です(笑)



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