冬枯れの森に、夕暮れが迫っていました。
いちめんに空を覆った白っぽい雲が、次第に暗い灰色に変っていきます。
でも、小川沿いの小道を、白い息を吐きながらたどる3人の男たちは、元気いっぱいでした。
生きたトネリコの木の杖を手にしている、くすんだ青い髪の男…ドーソン・トードなどは、
よく響く声で陽気な鼻歌まで歌っています。
しんがりを行く、僧髪僧衣の若い男…シェリクが静かに笑いながらそっとドーソンに言いました。
「上手く出し抜きましたね」
ドーソンは、鼻歌を止め、決まり悪げに振り返りました。
「ばれてたか。…やっぱり、神さんに怒られるかな」
シェリクは苦笑しました。
「まあ、許していただけるでしょう…あまり、公正な手段とはいえませんが、この際仕方がないですよ」
「ちょっと、ちょっと」
先頭を歩いていた、ハーフエルフの少年…ラケルが声をあげて立ち止まり、振り返って尋ねました。
「どういう意味だよ、それ。さっきの勝負は、インチキだったの?」
さっきの勝負とは…。ドーソンと、この森に住む妖精とが行った、ちょっとしたゲーム対決のこと。
悪戯妖精が、森に住む七匹のかえる達の宝箱を、自分の魔法で封印した…その封印を解く魔法の鍵を賭けて、
ゲーム勝負が行われたのです。
そしてドーソンは、妖精が思っても見ないほど鮮やかな手腕を見せて、あっさりそのゲームに勝ったのでしたが…。
「…むう。ミもフタもない言い方だが…確かにインチキだ」
ドーソンは唸りました。
「精霊に手伝ってもらったんですね。ごくわずかですが、不自然な魔力の流れを感じました」
シェリクが言うと、ドーソンはうなずきました。
「確かに、誉められた手ではないが…負けるわけには、いかなかったのでな…」
妖精の封印した箱には、かえる達の宝物に混じって、ドーソン達が探すよう依頼を受けた、
大切な品物もしまいこまれていたのです。
「でも、だからって、そんな汚い手を使わなくたって…」
ラケルは口を尖らせて言いました。
こういうゲームは、古来、いわば神聖なものとされてきたのです。
だからこそ、どんなに奔放な悪戯妖精であっても、このときばかりは真面目にルールを守り、
その結果には厳粛に従うのです。
そんなゲームにおいていかさまするのは、許すべからざる「冒涜」でした。
ドーソンは苦い顔でうなずきました。
「分かっている。だが…おぬしなら分かるだろう?
かえるは、伊達や酔狂で緑色をしているのではないのだ」
「ああ…分かってるよ」
ラケルはしぶしぶうなずきました。
実は、かえるの宝箱には、妖精がちょっとした悪戯心で入れ替えた、かえる達の本来の体の色も封じられていたのです。
森に溶け込む自然な緑色から、突然けばけばしい色に変えられてしまったかえる達は、
おちおち住処の外にも出られず、こうしている今も困っているのでした。
「ああいう小さき森の民には、生まれつき森の精霊の加護があるからな…。
自由気ままに飛び回って、めったに危ない目に遭うことのない、永遠に無邪気なあやつらには、
いつも狙われている弱い生き物の事情など、どう説明しても分かってはもらえまいよ…」
ドーソンはどこか遠い目をして、ため息混じりに言いました。
かえるでいた頃の、危なかった経験を思い出していたのかもしれません。
大はタカやクマから、小はモズやネズミに至るまで、肉を食べるあらゆる生き物に狙われていた頃の…。
突然生まれもつかぬかえるに変えられて、森に放り出され…ただ1匹で、よく生き残れたものです。
ドーソンは、誰にともなく言い訳するように言葉を続けました。
「冒険の依頼に失敗するのは、まだ仕方がない。
だが、かえるたちが、こんなくだらないことで大事な命を落とすことになったら、あんまりじゃないか。
あの妖精だって、ちょっとした悪戯のつもりが、そんな結果になったら悲しかろう。
こういう事情であれば…森の大精霊だって、誓い破りにも目をつぶってくださろう」
「だから、分かってるってば!」
ラケルがむっとしたように答えました。ドーソンは苦笑いして、
「すまん…くどかったな」
そして、景気をつけるように、手の中で虹色に輝く魔法の鍵を振って拍子を取りながら、
再び鼻歌を歌い始めました。
「さあ行こう〜♪」
3人はまた、歩き出しました。ドーソンの鼻歌が、遠ざかっていきます。
「♪いざ、宝を求めて〜ふふん、ふん、ふん〜♪」
このシナリオでは(魔法学院のゲームと同じく)プレイ中に、メモという名の外付け記憶装置に
頼った人も多かったのではないでしょうか。
私もその1人です。なんとしても、かえる達みんなに元の色を戻してあげたくて。
で、それをお話に仕立て直したのが、これです。
ちょっとシェリクには悪いのですが…私としては、このシナリオ、
プレイ中はティアヌのことより何より、かえる達の方が心配でした。
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