冷えた空気が、ぴりりと鼻やのどに突き刺さる、冬の朝。
「おはよう、ドーソン」
今起きてきたばかりのレティルが、酒場の、階段のすぐ脇の席で、
なにやらゴソゴソやっているドーソンに気付いて声をかけました。
ドーソンはさっと顔を上げて、
「おはよう、レティル。いいところに来てくれた。ちょっと見てくれんか」
と、手招きをしました。
「なにをしているの?」
テーブルの上に置かれた、無骨な麻袋と華やかな包装紙の取り合わせに、
レティルは目を丸くしました。
包装紙はドーソンの無駄な努力の跡を見せるように、あちこち破れ、
しわくちゃになっています。
「うむ。見てのとおり、袋を包んでいるのだ…が、どうも上手くいかん…」
と、ドーソンは、困ったような唸り声をあげ、
「どうすりゃ上手く包めるか、コツを知っていたら、教えてくれんか」
「…コツなんていわれても…こんなもの、きれいに包んだりはしないわよ、普通」
「むう。それは、そうなんだが…友人に贈るとなると、このままというわけにも行くまい?」
「贈り物?…中身はなんなの?」
レティルは麻袋の荒い表面に書かれた文字を読み取ろうと、覗き込みました。
「塩だ」
「塩?」
「ユーンに贈るのだ。…森では塩は貴重品だからな」
実はドーソンは、早朝の散歩中、ユーンにばったり出会って、食事に招かれていたのです。
日頃から何かと世話にもなっているし、何かお礼の品を、と、思いついたドーソンが、
ドーソンなりに喜んでもらえそうな品を考えた結果が、これだったのでした。
「塩か…なるほどね」
レティルは、ちょっと考えて、
「塩なら、もっと包みやすいものに入れ替えてしまえばいいんじゃない。箱とか」
ドーソンが、はっとしたように唸りました。
「むう、そうか、その手があったか!」
急いで塩と包み紙を抱え上げたドーソンは、バタバタと階段を上がってそれを自室にしまうと、
またバタバタと降りてきて、
「ありがとう、レティル!」
一声のこして、酒場の外へ大またで出て行ってしまいました。
「…朝早くから、何やってるのかしら」
見送ったレティルが、思わず呟くと、
「早い、なんて時間はとっくに過ぎてるぞ…おはよう、レティル」
と、酒場のマスターが笑いながら、朝ご飯の皿をカウンターに置きました。
この塩は、ドンゴロスの袋に入った茶色っぽい岩塩のイメージです。
コロナは内陸らしいので、塩も岩塩じゃないかと。
古来、人間にとっても、塩は国の専売品になるほどの貴重な必需品なわけで。
森のエルフが、人間が食べて美味い料理を作るなら、塩はさらに貴重な品に違いありません。
…てな訳で、こんな話を思いつきました。
まあ、人間の街に行かなくてもエルフにはエルフの塩の供給源がありそうですが…。
麻袋のラッピングにも、色々方法はありそうですが…。
私があまり知らないので。(風呂敷を使うのが一番って気も)
文章が無駄に長くなるので、ここには書いていませんが、チビドラはちゃんといます。
ドーソンが包み紙と悪戦苦闘しているテーブルの脇に座っていて、
ドーソンが酒場を出て行くときには、声をかけられてあわてて後からついていっています。
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