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信頼の砂糖菓子


晩秋の橙色の日の光が、斜めに深く、冒険者宿の部屋にさしています。

ドーソン・トードは、窓辺に立っていました。
見るともなく窓の外に目を向けて黙ったまま、 大きなマグカップの冷めた紅茶をまずそうにすすりながら、 窓枠に置いた紙袋から砂糖菓子をつまみ出してはぼりぼりとかじっていました。
同居人のかえるも、窓枠に腰掛けて、同じ袋の砂糖菓子をしゃぶっています。

「…なに、考えこんでるケロ?」
かえるに言われて、ドーソンは暗い茶色の目をぼんやりとかえるのほうに向けました。

「別に、特に考え事をしているというわけでもないのだが…。 この菓子は、ユーンにもらったものでな」
「ケロ?」
かえるは、首をかしげて問い掛けるように鳴きました。
「美味しいケロ。でも、それがどうかしたケロ?」
「うむ。実は、礼の言葉と一緒にもらってしまったのだ」
「…ケロ?」

「今日、ちょっとした用事で、森のそばを通った。
すると、ユーンが血相変えてとんできてな。 人間が森の木を切ってるから、止めさせてくれと、そう言うのだ」
「ケロ! …それで?」
「ああ。行ってみたら、確かに木こりのグループが、 樹を切り倒そうとしているところでな…」
「で、ドーソン、やめさせたんだケロ?」

ドーソンはあいまいに首を振って、紅茶を一口がぶりと飲みました。
「だが、話し掛けてみると、相手もモノの分かった玄人の木こりでな…。
森のことを…先々の、自分たちの子孫の代の事まで考えて、 切る樹と切らない樹はきちんと区別していたのだ。彼らなりの基準でな。
少なくとも、決まった種類の大きな木を手当たり次第に切り倒す、 欲の塊のような連中ではなかった」
「ケロ。それは、よかったケロ」

かえるが、砂糖菓子をくわえたまま明るく言うと、ドーソンはあいまいにうなずきました。
「むう…。だが、それでも、エルフの…ユーン達の側の基準から言えば切りすぎなのだ」
ドーソンは肩を落としました。
「それを、木こりたちに納得してもらえたかどうか…。
ユーンの方にも、木こりたちの言い分にも理がある事は話したが… 納得してもらえたかどうか。 一応、その場はそれなりの落としどころへ持っていって、事を収めたつもりだが…」

ドーソンは、袋に残った砂糖菓子をつかみ出し、 一度に口に放り込んでバリバリと噛み砕きました。
「双方、生活がかかっているのだ。奇麗事ですむ問題ではない。 人間とエルフは、どこまで歩み寄れるんだろう…」

かえるは、目をくるくるさせました。
「ケロ。…そんな難しいこと、僕には分からないケロ」
言いながら、砂糖菓子をくわえなおして、
「でも、ユーンがこれくれた、っていう事は、少なくともユーンは納得して… 感謝してくれてるんだケロ」

「まあな」
と、ドーソンは指を舐めながら答え、
「だがどだい、森を共有することは無理なんだろうな…」
と言って、残った紅茶を一気に飲み干しました。
それから、砂糖菓子の袋を見つめて、
「…しかし、いつかは…その無理難題に挑戦しなくては。
いつか、きっと…」
そう、呟くように言いました。


かえほんをプレイしていた時は…エルフ族は、 人の手の全く入らない原生林の中で、自分達独自の暮らしを営む種族…ってな、 イメージを持っていたんです。
で、ユーンのシナリオや挨拶イベントには色々と驚かせられました。
しかし、今思えば、「指輪物語」などに登場するエルフの洗練された暮らしは 生の原生林の中では難しそうだし、エルフもエルフ独自の(魔法的な方法を含む)やり方で、 森をしっかりコントロールしていそうです。
下草を刈ったり、木を間引いたりもしていそう。
…だとすると、エルフの森で木を切るのは、 里山の木を持ち主の許可なく根扱ぎにするような暴挙にあたるわけですね …共存は、ますます難しい…。



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