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2月の小さな話


 その1.どぶろく

「こんにちは! ロッド、ロンダキオンの調子はどう?」

「おう、コリューンか。心配すんな、順調だ。まぁ、あと一月ってところだ。大船に乗った気で待ってろ。
 それよりな、故郷からどぶろくを送ってきたんだ。一人で飲むのはつまらんから、話相手でもして行けや」


「どぶろく? …ウィスキーじゃなくて、どぶろく?」

「ああ、どぶろくさ。ドワーフ族のウィスキーといえば世界的に有名だが、 あれはもっとずっと北のドワーフ族の酒でな。 オレらの酒って言えば、このどぶろくなんだ。憶えておいてくれ」

「へぇ、なるほど。でも、話相手になるのはかまわないけどさ。自分だけで一杯やる気? 僕にも飲ませてよ」

「うーむ。こいつは素人にはちょいときついからなぁ。お前さんはやめといたほうが無難だぞ」

「もったいぶらないで、一口でいいから飲ませてよ。濁り酒だろ? 蒸留してないんだろ? 大丈夫だって」

「む。そんなに言うなら、ためしに一口飲んでみな」

「ありがとう! どれどれ…
(トクトクトク)…へぇ、きれいな乳色だね。
…うわぁ、か、変わった匂いだね。
(グビ)…く、くあ、こりゃきついね。これ、ホントにどぶろくかい?
…酒としてもえらくきついけど、クセもきついねぇ。味はわるく無いけど、とても沢山は飲めないよ」

「そうだろ? ドワーフの洞窟でなきゃ出来ない、秘伝の製法で作ってあるからな。
悪いが、お前さんはこっちの、ドワーフ特性の岩キノコ茶で我慢してくれや」


「岩キノコ…? へぇ、そんなお茶、初めて聞いたよ。うん、それでいいよ。ぜひ飲んでみたいな!」


 その2.チョコレート

 その日、僕は悩みっ放しであった。

「…コレ、どれぐらい、深い意味があるのかなぁ。  彼女も、もう充分大人だし…まさかコレが…コクハクってことはないよなぁ。
…大概の冒険では世話になってるし…『これからもよろしく』って意味の挨拶だろうなぁ。
 …でも、まてよ。他のを作って、渡してる様子も無かったし…。 もし、清い少女の心からのアレだったりしたら…どうすりゃいいんだ?
 どうお返ししたモンかなぁ。…普通に仲間として、お返しすりゃいいのかなぁ。 それとも、なんかアレな返事をしなきゃならんのかなぁ。  …だとしたら、どう言やいいんだろ?
 …まいったなぁ。若い女の子の気持ちって奴は、僕にゃ、どうにも…」

「コリューン、まだ悩んでるケロ?  悩むこと無いケロ。コリューンの素直な気持ちを返せばいいケロ」

 見かねた宿がえる君が、繰り返し言ってくれる通りなのだが…。

「そうは言ってもなぁ…」

 机の上の「ソレ」とにらめっこして、僕はまた考え込んでしまう。
 「ソレ」とは…ルーから貰ってしまった、手作りのチョコレートである…。


 その3.ジャン

「コリューン、朝帰りケロか。 一体、どこへ行ってたケロ?」

「教会に、銀器泥が出るからって頼まれてね。シェリクと一緒に張ってたんだよ」

「そりゃ、お疲れ様ケロ。で、泥棒は捕まえたケロ?」

「ああ。だけど、こそ泥のクセに馬鹿力のある奴でね。 僕とシェリク…戦士とモンクの2人がかりで無かったら、振り切って逃げられるところだったよ」

「へぇ…すごい力だケロ」

「苦労したよ。だけど、司祭様は、結局説教しただけで放免なさってしまったよ。
まあ、あの泥棒…ジャンっていったっけか?  常習犯では無さそうだったし、諭されて、すっかり神妙な顔してたし、多分大丈夫だろうけど」

「名前がジャン? …で、力が強くて、銀器を泥棒しかけて司祭様に助けられた?
それなら、絶対大丈夫ケロ。その泥棒、すごく立派な人になるケロよ。革命の日も近いケロ…」


「…あのね。残念だけど、その泥棒、フルネームは『ジャン・バル・ジャン』では無かったよ…」



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