赤竜編・目次にもどる


街祭り


 いわし雲の浮かぶ、秋の夕暮れ。
「ただいまケロ…遅くなって、ゴメンケロ」
 鮮やかな緑色の、小さな姿が、ひょっこり部屋の窓から顔を出した。
ルームメイトの青がえる君だ。
「お帰り!」
 今日は珍しく、僕の方が先に冒険者宿に帰って来ていた。
「かえるのお祭り、どうだった?」
「とっても楽しかったケロよ」
 もともと、青がえる族は、親切で社交的なかえる族だ。
冒険中にも、見ず知らずの青がえるから、案内や警告をもらうことが、しばしばあった。
 僕のルームメイトも、街や人間について事情通なだけでなく、 かえる仲間との付き合いも広く、出かけることも多かった。

「コリューンも、お祭りだったケロ?」
「うん、今日は、盗賊ギルドのお祭り。とっても楽しかったよ」
「明日は、教会で子供のお祭りやるケロよ。よかったら、行ってみたらいいケロ。
表通りに集まってくる子供たちを見てるだけで、楽しくなれるケロよ」
「へえ、行ってみようかな。
…だけど、こんなに連日お祭りばっかりはしごしてて、いいのかな?」
「いいケロよ。年に一度の収穫祭のシーズンケロ。今祝わないで、いつ祝うケロ?」
「でも、お正月でもないのに、遊んでばっかりになっちゃうよ」
「そうか、コリューンは知らないケロね。
コロナでは一年の節目のお祝いは、収穫祭ケロよ。
元日は、暦の上では新年だケロも、普段の日と全然変わらないケロよ」
「そうなんだ…それで、かえるも?」
「うん、11月には、皆で集まって、一年の締めくくりのお祝いをするんだケロ」
「…全然、知らなかったな。僕は、長年かえるやってたって言うのに…」

 なんだか、ちょっと残念だった。
こんないい友達と会うことも、祭りに参加することも無く、ずっと一人でいたなんて…。
「…あのさ」
「なんだケロ?」
「もしもだよ。もしも、万一、呪いが解けなくて…またかえるの姿に戻ってもさ、ここにいていいかい?
そして、君の友達に紹介してくれないか?」
「縁起でもないケロ。…でも、もちろんケロ! 何があったって、ぼくたち、友達ケロ」
「うん!」



赤竜編・目次にもどる
ページトップにもどる