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蟷螂と斧


 「これから街の子供たちに剣を教えに行くんだ。コリューン、一緒にどうだ」
 朝一番に、アルターに誘われて、一緒に出かけた。

 僕らが広場に姿を現すと、元気な声をあげて、どっと腕白どもが集まってきた。
 教えるのは、剣技の基本中の基本。姿勢や持ち方、体の動かし方などだ。
 だが、腕白たちは思った以上に熱心で、地味な練習も嫌がらなかった。
どの目もきらきらして、言葉にも態度にも、アルターへの憧れと尊敬が浮かんでいた。

 「ねえ、コリューンさん」
 ふと、年かさの少年が声をあげた。つと手を伸ばして、僕の愛用の戦斧の柄に触れて、
 「コリューンさんは、斧を武器に使ってるんだね。どうして?」
 「そりゃ、威力が大きいからね」
僕は答えて、斧を軽く構えて見せた。
「細い武器なら、受けられてもへし折ってしまえるし、しぶとい植物モンスターでも、一撃当てれば戦闘不能に追い込めるんだ」
 と、軽く振って見せる。
 「それに、武具職人のロッドはドワーフ族だろ。
(ドワーフの武器といえば戦斧か鶴嘴(マトック)てことは知ってるよね?)
斧のことは知り尽くしているから、最高の物が手に入るしね」
 「それじゃ、コロナでは戦斧が最強なの?」
 「いやいや。斧には弱点も多いのさ。本来、武器じゃないからね。
重いし、扱いにくいんだ。まず受け流すのが難しい」
 と、こんどは、受けの基本形をとって見せた。
 「それに、どうしても動きが鈍くなる。すばやい敵は相手しにくいんだ」
「ふうん」
 「その点、アルターの使っているような両手剣なら、バランスもよくて扱い良いんだよ。
威力もかなりのものだし…そうだろ、アルター?」
 と、斧を構えたまま、いきなりアルターの方に振り返った。

すると、アルターは目をぱちぱちさせたあと、やおら
 「それもあるが、なんたって、カッコよくてサマになるぜ」
 と、真顔で答えて、愛用の両手剣を正眼に構えた。
 「なんじゃ、そりゃ」
 僕はツッコミとともに、ゆっくりと基本形の攻撃型を繰り出した。
アルターも、基本の型で受け、型通りの受けからの切り返しを寄越した。
 そのまま、模擬戦闘に突入した僕らを、子供たちが取り巻いて、歓声をあげる。
 「すげぇ、ほんとの戦いみたいだぜ」
「かっこいー!」
 その声に僕らもつい、いい気になってしまった。

調子に乗って、互いのスピードが上がった。
切り込んできた剣を跳ね上げる、が、攻撃に移る前にすばやいフェイントに牽制される。
続いて繰り出された突きをよけ、不意打ちの足払いをしかける、
と、すんでに跳び下がられて互いの間が開く
…熱くなりかけたそのとき、その間に割って入ってきたものがあった。

 それは、一匹の幼いカマキリ。
僕らは、思わずぴたりと動きを止めた。
とたんにわっと拍手され、我に返った顔と顔を見合わせ、照れ笑い。
 アルターが、そっと子カマキリを拾い上げて、一番年下の子の手のひらに乗せた。
 「よーし、それじゃ、ここらでちょっと休憩しようぜ」



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