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星と願いと


 見上げると、見事な天の川だった。
 月はかなり明るかったが、星々もそれに負けずに輝いている。

 僕ら…僕とレティルとラケルの3人は、レティルの依頼でこの谷間に出るという、巨大な怪物を退治に来ていた。 怪物はすでにやっつけたのだが、この辺りには「普通の」モンスターも多く、油断は出来ない。
 僕は目を下ろし、星明かりで夜の谷間を見回した。今のところ谷は平和で、ヨダカの甲高い声だけが響いている。

 月の位置を見て時を確かめ、僕は見張りを変わってもらうため、そっとラケルを起こした。 ラケルは黙って立ち上がり、僕に頷いて見せた。
 が、僕はしばらく、立ったままで、ラケルと並んでまた星を見上げた。それから、そっと声を掛けた。

「…ラケル」
「何?」
「今日は、悪かったね」  ラケルが振り返った。暗すぎて、表情は見えなかったが、ラケルが怪訝そうに頭を動かすのが見えた。 僕は、言葉を続けて、
「パトリックのことさ」
と、今度の冒険で助けることになった、お坊ちゃん貴族の名前を挙げた。
「ああいう、楽しみのためだけに狩りに来て、山を踏み荒らすような人間の捜索につきあってもらったり、 そいつの落とし物まで捜してもらったりして。…不愉快だったろ」
 ラケルは面食らったようで、ちょっと黙っていたが、
「それは、いい気持ちはしなかったけど。でも、いいよ。
 あいつも、もう狩りは懲りたみたいだし。それに、あんな間抜けな奴に捕まるような子はどこにもいないもの」
 僕は、ほっとして息をついた。
「そうか…良かった」
 それきり会話は途絶えた。

 僕が、もう毛布にもぐろうと思ったとき、今度はラケルが声を掛けてきた。
「コリューン…」
「なんだい?」
「レティルは、どうして僕のことをこんなに信用してくれるんだろう?」
 戸惑ったような声だった。突然の妙な質問に、僕も戸惑って聞き返した。
「信用…?」
「僕に足跡の追跡を任せちゃったり、自分の昔のことを話してくれたりさ……まだ、会ったばっかりなのに」
「ああ、そういうこと…レティルはプロの冒険者だもの。それ位の人を見る目は持っているさ」
「人を見る目?」
 疑わしげに問い返してくるのへ答えて、僕は、
「ああ。冒険者やってれば、信頼出来る仲間を見抜く目は、自然についてくるものさ。
 冒険者は、一度冒険に出てしまえば、自分自身と仲間しか頼れるものはないからね …そして、自分だけでは、どうにもならないことも多いから、 仲間は慎重に選ぶし、一度信頼した仲間は大切にするのさ」
 と、説明した。
「ふうん……」
 ラケルは、そう答えたきり、黙り込んでしまった。

 『人間』を信じる、ということを覚え始めたばかりのラケルにとって、今日は考えることが山ほど出来た 一日だったに違いない。

 僕もまた、しばらく黙って星を見た。
 人間からもエルフからも疎外されがちなハーフエルフが、冒険者の道を選ぶことが多いのは、 決して偶然ではない。
 地位にも種族にもこだわらず「その人」を見る、それは冒険者として誇らしいものではあるが …ラケルにはもっと広く受け入れられる世界があって欲しい。いささか複雑な心境だった。

 けれど、僕はただ、
「君は、そんなプロの冒険者のお眼鏡にかなったってわけだ。威張っていいよ」
 そう付け加えてラケルの肩を叩いた。そして、
「じゃ、お休み…月があの梢にかかったら、レティルと交代したらいいよ」
 と、ラケルを残して横になった。

 寝転んだ僕の目のすみを掠めて、明るい流星が走って消えた。



実はこのネタは、元々ドーソン用にとっておいたものでした。
しかし、コリューンのにした方が書きやすいことと、実際のプレイでラケルを連れて行ったのはコリューンだけ だったこと…それに、ぼやぼやしていると書くほうがネタを忘れそうだったことから(笑)、コリューンの話 として書かれることとなりました。

ファースト・プレイでは、まだ技能のシステムが良く分かっておらず、「レンジャーなら足跡追跡とか、 野外の隠密行動などができるに違いない」とTRPGみたいに考えて、ラケルを連れて行ってました。
ですが、人探しなどのイベントでも、ごく普通に歩いて捜すだけだったので、一人で勝手にだまされた…と、 ちょっとがっかりした覚えがあります…(笑)


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