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一陽来福


 今年も、あと十日ばかり。この時期は、日の落ちるのも早い。冒険者には、嫌な季節の始まりだ。
 僕らは、すっかり暗くなった道を、うっすら積もった雪明りを頼りに、ひたすら急いでいた。

「もう、村が見えてもいいころなのになぁ…」

 あまりの暗さに、思わずぼやきが出る。

「たしか、もうちょっと向こうだったよ。でもさ、もう頼まれたものは手に入れたんだから、のんびり行こうよ、コリューン」

 リュッタが元気に言ったけど、その声にもちょっぴり焦りが混じっている。

「お、村が見えたぞ」

 不意に、マーロが声をあげる。同時に、炎の明かりが目に飛び込んできた。人家の明かりにしては大きすぎる明かりだ。
 僕らは、蛾のように一直線にその明かりを目指して突き進んだ。

 村の真中で、村人達が盛大なかがり火を燃やしていた。
 こっちまで、歌声と手拍子が響き、いい匂いが流れてくる。リュッタが目を輝かせて駆け出した。

「こんばんはー!」

 歌がやみ、皆いっせいにこっちを向いた。僕らを見るや、手招きをして、口々に、

「はい、今晩は」

「おう、よく来たよく来た」

「よういらっしゃった、さあ、こっちへ」

 たちまち、僕らはたくさんの笑顔に囲まれた。村人達は、

「この前来た冒険者じゃないか、無事で帰ってきたか、良かった良かった」

「ほれ、もっと火の近くに来なされ、寒かったじゃろ」

 と、場所を空けてくれ、

「挨拶は後だ、まず一杯飲めや」

「ほら、これ食べや、腹、減ったろ」

 と、酒やら、かがり火で焼いた果物やら、素朴な焼き菓子やらを両手いっぱい渡してくれた。
 あれよという間に、椅子まで出てきた。そしてまた、歌が始まる。

「わーい、どうもありがとう!」

 リュッタはいつもの調子で跳ね回り、村人の中に混じって手を叩く。
 村を上げての歓迎モードに、僕らも、おたおたとお礼を言った。

「そうか、今日は冬至だったね」

「ああ、すっかり忘れてたな」

 そうだった。今日は、お日様が帰ってくる日。新しいお日様のお出ましをお祝いする日。 …そして、遠来の旅人が幸福を持って来る日だったんだ。
 なんだかうきうきと、あったかい気持ちになった。

「ねえ、お礼にさ、おいら達も歌って、踊ろうよ!」

 リュッタが笑顔をそこらじゅうに振り撒きながら叫んだ。
 僕は笑ってうなずいた。

「えっ、俺もか?」
 わっと湧き上がる拍手と歓声に、マーロの声はかき消されてしまった。
 僕らが歌う、コロナの祭りの歌に、早速手拍子が起こり、リュッタの周りで、皆がくるくると踊りだす。

 これだから、冒険者はやめられない。


当時の頃ですので、おそらく、コリューンの荷物の中には、黄金の像が入っています。 クリスマスも、新暦の正月も冬至に近いのは偶然ではないそうなので…。こんな『行事』をでっち上げてみました。


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