毛布の中に、寒さが少しずつ這いこんでくる。まどろみと覚醒の間を漂っていた僕の内側で、体内時計が朝を告げた。
目を開くと、星が消えゆく空を背に、見張りに立っているルーの輪郭が、黒くくっきりと見えた。
身震いして身を起こした。跳ね上げた防水布の上も、そこら中に厚く積もった枯葉の上も、
一面真っ白に霜が降りて、触ればバリバリと音を立てる。
「おはよう、コリューン」
ルーがこっちを振り向いた。吐く息が、真っ白だ。
「おはよう、ルー。…うー、寒。この装備で野宿するのは、そろそろ限界だな」
「もう、すぐ冬だもんね。冬支度がいるわね」
「ん。…さてと、行動開始としますか」
僕は、そう言って腕をぐるぐると回した。ルーは両手を組んで、ぐるっと回転させ、両手の隙間から空を見上げた。
足元の毛布の塊がもぞもぞ動いて、不機嫌そうなマーロの顔と腕がぬっと突き出した。
「じゃーん、けーん、ホイ!」
不機嫌そうな顔のまま、マーロは黙って空の皮袋を下げ、水場へと降りていった。
その間に僕は、焚き火の熾に乾いた枯葉と枝を突っ込んで炎を掻き立て、
ルーは油紙に包まれた塩豚を取り出して、ナイフでフライパンに削り落とす。
「これからどんどん、こういう人里離れた場所での冒険は辛くなるね」
ルーがかじかんだ手を炎にかざしながら言った。
「街道沿いなら、野宿しないですむけどね…そんなことで依頼を選ぶのも何だしね」
「けど、天気さえよけりゃ、冬の野宿も悪くないよ。なんたって、夜明けがきれいだ」
僕が、そう答えている間にも空はどんどん明るくなって、ほとんど裸になった森が、昼間のはっきりした色あいに変わっていく。
「それに、こんな、体がすっかり冷えちゃってるときくらい、熱い飲み物がうまい時ってないからね」
僕は、ばたばた足踏みをしながらホウロウのカップを並べ、小なべに茶の葉をぶち込んだ。
マーロが、ややさっぱりした顔で帰ってきた。その前髪がぬれている。
「顔洗ったのかい? この寒いのに、よくそんな元気があるね」
と言ったら、
「平気さ、これくらい。いまからそんな事言ってちゃ、冬が思いやられるぜ。コリューン、あんた、歳なんじゃないか?」
と、まだちょっと不機嫌な返事が返ってきた。
乾パンと塩豚を熱い茶で流し込んで、手早く後片付けを済ませた後、僕らは枯葉を踏んで目的地へと歩き始めた。
じきに、朝の木漏れ日と、落ち葉の影が、地面の上に金色の毛織物のような模様を描くはずだ。
これは、べに龍が大昔、ワンゲル部員をしていた頃の思い出を元に書いたものです。
実経験を下敷きにしてみたらと、思った以上に書きやすかったですね。
|