雅楽講座
〜雅楽について〜
Believe In Snow
the
back 楽琵琶
gakubiwa
信雪 蔵
The face 楽琵琶
gakubiwa
雅楽の歴史
雅楽は、もともとシルクロード各地にあった音楽や舞が中国大陸や朝鮮半島を経て、奈良時代に日本に伝わったものです。輸入された歌舞音曲は日本人の心情に合ったものへと国風化されました。平安時代には整理され、日本古来の音楽としての神楽などとともに、現在伝わっている雅楽と同じ ような演奏形態、舞が確立されていきました。後に生まれた能や歌舞伎にも影響を与えてはいますが、庶民層に親しまれたこれらの芸能とは違い、明治になるまで雅楽は閉鎖的な世界で伝承されていました。また、宮廷の儀式音楽として、社寺の伝統行事で、または平安時代には貴族の教養の一つとして盛んに演奏されました。現在では伝統的な野外の舞台の他に、ホールなどでも演奏され一般にも公開されています。
楽所
がくそ
奈良時代には雅楽を伝承する雅楽寮(うたまいのつかさ)がおかれていましたが、西暦1000年ごろ楽所(がくそ)がおかれました。京都の大内楽所(おおうちがくそ)、奈良の南都楽所(なんとがくそ)、大阪の天王寺楽所(てんのうじがくそ)がそれで、この三つは天下の三方楽所(さんぽうがくそ)といわれています。明治の東京遷都にともない、現在の宮内庁式部職楽部に多くの楽人は召されました。そして、その後も三方楽所の伝統はそれぞれの地で受け継がれています。このうち、奈良の南都楽所は社団法人として現在に至り、国指定重要無形民俗文化財の春日若宮おん祭りをはじめとする奈良の伝統行事における雅楽の伝承に努めています。また日本の伝統芸能として国内をはじめ海外からの要請も多く、広く活動しています。
楽器編成
雅楽は「管絃」(かんげん)という洋楽でいうオーケストラ編成の音曲のみの演奏と、「舞楽」(ぶがく)という舞をともなうものとがあります。現在の雅楽で通常、「管絃」の演奏に使われる楽器は鳳笙(ほうしょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)の三つの管楽器と楽箏(がくそう)、楽琵琶(がくびわ)の二つの絃楽器、楽太鼓(がくだいこ)、鉦鼓(しょうこ)、羯鼓(かっこ)の三つの打楽器です。
これらの楽器の多くは、正倉院御物の中に見られるものと同じです。管楽器においては篳篥が主旋律を、龍笛が副主旋律、鳳笙が和音をつかさどります。打楽器のうち最も重要なのが羯鼓で、その演奏団体のコンサートマスター的な役割の人物である楽頭(がくとう)が携わることになっています。その曲のスピードを決め、リズムを刻む指揮者的な役割を担います。楽太鼓は野外で演奏するときには、それよりかなり大型の鼉太鼓
(だだいこ)を使うことがあります。南都楽所では伝源頼朝寄進の鼉太鼓 を春日若宮おん祭りで使ってきました。
龍笛
ryuuteki
高麗笛
komabue
篳篥
hitiriki
鳳笙
housyou
雅楽の楽器編成表
雅楽 | ||||||||||
雅楽 |
舞楽 |
国風歌舞 |
謡物 |
|||||||
管 絃 かんげん |
道 楽 みちがく |
左 方 舞 楽 さほうの ぶがく |
右 方 舞 楽 うほうの ぶがく |
東 遊 あずまあそび |
和 舞 やまとまい |
御 神 楽 みかぐら |
催 馬 楽 さいばら |
朗 詠 ろうえい |
||
管 | 三管 | 鳳笙 | 鳳笙 | 鳳笙 | (鳳笙) | 鳳笙 | 鳳笙 | |||
篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | 篳篥 | ||
龍笛 | 龍笛 | 龍笛 | 高麗笛 (龍笛) |
高麗笛 | 神楽笛 | 神楽笛 | 龍笛 | 龍笛 | ||
打ち物 | 三鼓 | 羯鼓 | 壱鼓 (振鼓) (鶏婁鼓) |
羯鼓 | 三ノ鼓 | |||||
楽太鼓 | 荷太鼓 | 楽太鼓 (鼉太鼓) |
楽太鼓 (鼉太鼓) |
|||||||
鉦鼓 | 荷鉦鼓 | 鉦鼓 (大鉦鼓) |
鉦鼓 (大鉦鼓) |
|||||||
絃 | 二絃 | 楽筝 | 和琴 | 和琴 | 和琴 | 楽筝 | ||||
楽琵琶 | 楽琵琶 | |||||||||
笏 | 笏拍子 | 笏拍子 | 笏拍子 | 笏拍子 | ||||||
(歌) | 歌 | 歌 | 歌 | 歌 | 歌 |
* 「雅楽の楽器編成表」は、それぞれの演奏形態で使用する楽器をまとめました。同じ色のところを縦に見てください。
* 「国風歌舞」と「謡物」歌曲です。
* 右方の「抜頭」(ばとう)、右方の「還城楽」(げんじょうらく)、「陪臚」(ばいろ)などの曲は、右方の舞楽であっても、笙と龍笛を用います。
* 特殊な演奏方法として舞楽の管方(かんがた)に絃楽器を加える管絃舞楽という方法もあります。
* 大法要での道楽では左方の楽頭は振鼓(ふりつづみ)と鶏婁鼓(けいろうこ)を右方の楽頭は壱鼓(いっこ)を用います。通常の道楽(みちがく)では壱鼓が用いられます。
* 鼉太鼓と大鉦鼓を用いることもありますし、鼉太鼓のみを使う場合もあります。その場合右方の曲には右方の鼉太鼓を左方の曲には左方の鼉太鼓を使います。
鼉 太鼓
dadaiko
舞楽
ぶがく
舞楽はその伝来の起源によって「左方の舞楽」と「右方の舞楽」に分かれます。
「左方の舞楽」は中国大陸から伝わったものを中心としていて、舞ぶりは豪壮優雅です。その伝来から左方の楽曲を「唐楽」とよんでいます。メロディで舞う「左方の舞楽」の楽曲は激しく風のような龍笛の音と、天空からさす光をあらわす笙の音色が主旋律の篳篥を包み込んで華やかに奏でられます。
「右方の舞楽」は朝鮮半島、渤海から伝わったものを中心としていて、舞ぶりは繊細優美です。伝来から右方の楽曲を「高麗楽」とよんでいます。リズムで舞う「右方の舞楽」の楽曲は、三ノ鼓のくすんだ打音とともに、篳篥のうねるようなメロディと繊細で高い音色の高麗笛の音とが溶け合い、哀愁を帯びています。
また、日本で作られた舞楽も右方か左方のどちらかに振り分けられています。
国風歌舞
くにぶりのうたまい
* 日本古来の音楽や舞踊も雅楽の中にはあります。「国風歌舞」とかいて「くにぶりのうたまい」とか「こくふうかぶ」とよびます。歌曲を中心とするもので、洋楽でいうところの組曲のようになっています。「御神楽(みかぐら)」などは全曲を演奏すると何時間もかかります。
御神楽(みかぐら)は宮中や特定の神社などで演奏されるものです。笛は神楽笛を使います。秘曲として宮中や特定の神社で演奏されてきたもので、歌を中心とするものです。
和舞(やまとまい)は大和地方の風俗舞を起源に持つ舞です。春日祭で奉納されています。
東遊(あずまあそび)も風俗舞で京都の葵祭や奈良の春日若宮おん祭で奉納されます。奈良では子供が舞うのを、通例としていて、高麗笛を使う比較的明るい雰囲気の楽曲です。
笏拍子
syakubyousi
笏拍子(しゃくびょうし)は国風歌舞や謡物(うたいもの)で拍子を打つのに使います。左の板を縦にして、拍子木のように打って拍子をとります。
参考・『龍笛譜』古譜 信雪 蔵
現在使用の雅楽譜と表記方法が違います。
写真・文章の無断転載を禁止します。ここでは現代の南都(奈良)方の雅楽を中心に解説していますが、
文責はいっさい「信雪」個人にあります。