私が聞いた演奏会から、特に印象に残った演奏会について批評を書かせていただきました。
掲載された演奏会批評は以下のとおりです。
| 2010.02.17 東京クァルテット(大阪・いずみホール) |
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2010.02.17 東京クァルテット(大阪・いずみホール)
2008年、大阪・いずみホールで開催された「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会シリーズ」に出演した東京クヮルテット。
この時の演奏を聴いていた私、2年ぶりに大阪にて演奏することを知ったときから、今回の演奏会も大変楽しみにしていました。
今回のプログラム、なんでも結成40年を記念して、ニューヨークデビューと日本デビューを飾ったプログラムをそのまま再現ということです。
弦楽四重奏というスタイルの頂点であるベートーヴェン、それを20世紀の傑作2曲でサンドイッチするというプログラムは、なんとも清新で強い意気込みを感じます。
・ベルク:弦楽四重奏曲 op.3
・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調
op.74《ハープ》
・バルトーク:弦楽四重奏曲 第1番 op.7,Sz40
<アンコール>
・ハイドン:弦楽四重奏曲 第76番 ト長調 Op.76-1 より 第4楽章
・バーバー:弦楽四重奏曲 ロ短調 より 第2楽章Adagio
東京クァルテット
マーティン・ビーヴァー(ヴァイオリン)
池田菊衛(ヴァイオリン)
磯村和英(ヴィオラ)
クライブ・グリーンスミス(チェロ)
このクァルテット、メンバーは何度かの交代を経ているのですが、同じ団体でありながら、常に進化し、新しさが出てきているように思います。
最近リリースされているCDを聞いていても、そのことを強く思いますし、前回聞かせていただいたときも、伝統という古めかしい言葉とは全く正反対な音楽の姿勢を感じたものでした。
1曲目のベルク:弦楽四重奏曲 op.3、確かに難解な無調音楽ですが、案外幻想的でもあり、叙情性が味わえるような演奏内容でした。
そして、攻めるところは攻めるという姿勢は常に保持していたようでした。
いきなり難曲ですから、メンバーにも気合が入っていたような、そんな気分を感じました。
そして、メンバーの技術力の凄さをまず認識させてくれたような演奏でもありました。
そして、2年前の公演でも聞かせていただいたベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 op.74《ハープ》。
今日の方が若々しく溌剌としたベートーヴェンと思いました。
往年のベートーヴェンの演奏に慣れている方々にすれば、違和感があったことでしょうが、私としてはいろんな新しいアイデアが見えてきて、そのものが興味深くおもしろく思いました。
遅いテンポの部分は想像よりも速めに軽く処理されていて、いわゆる歌心を大切にした横の流れを重視したとも思えましたし、速いテンポの部分はこれまでに味わったことのない速度で完璧なテクニックとアンサンブルを味あわせてくれます。
「こんなにもアグレッシブな方向性で破綻しないのか」なんて心配が過ぎってしまうのですが、そんな心配などどこ吹く風邪のよう。
実に簡単に会場の空気をエキサイティングにさせてくれます。
20分の休憩後にはいよいよバルトーク:弦楽四重奏曲 第1番 op.7,Sz40。
私も曲のことは知っていましたので、事前の学習は出来ていましたが、やはりこれは名曲です。
クァルテットの最上級の名曲とは、ベートーヴェンの後期の作品とバルトークなのでは、実はそう思っています。
かつては現代音楽として敬遠されていたこともあったのでしょうが、21世紀となれば、バルトークはもはや古典の範疇に入れることも出来るでしょう。
そう思うと、実はとっても目が覚めてしまうような、びっくりするぐらいエキサイティングな演奏でした。
いろんなことで完璧、ちょっとした傷など気にしないほどの猛烈な勢いのある演奏、これはびっくりしました。
客席にいた私は、ベートーヴェンでもいい学習が出来たとテンションがやや上向きでしたが、バルトークで完全に体温上昇が発生していました。
ある意味、楽器が全てストラディヴァリウス「パガニーニ・クァルテット」ということもあり、案外荒々しい音が少なく、そして猛烈な音量を感じさせることもなかったのですが、凄まじい集中力とエネルギー、これは圧巻でした。
客席からブラボーの声が頻繁に聞こえていたのも納得です。
さて、アンコールも2曲。
1曲目はハイドン:弦楽四重奏曲 第76番 ト長調 Op.76-1 より 第4楽章。
この楽団、2年前にもこの曲を全楽章取り上げてくれました。
この時の新しいハイドン像に深く感銘を受けた私でしたが、今回も自由闊達、気持ちのいいハイドンを聞かせてくれました。
この団体のハイドン、私はとても好きです。
とっても意外なアンコールは、2曲目のバーバー:弦楽四重奏曲 ロ短調 より 第2楽章Adagioでした。
これは、いわゆる弦楽のためのアダージョとして有名になったバーバーの弦楽合奏曲の原曲。
私もこの曲をコントラバス奏者として演奏したことがありまして、大変好きな曲です。
というか、涙が出るくらい愛している曲です。
まさか、アンコールとして聴くことが出来るとは、それだけでも嬉しくてたまりませんでした。
そして、会場の空気が異様な静寂と緊張の空気が流れました。
深い祈りの調べは、やがて並々ならぬ叫びへと移って行くのですが、最高潮に到達した時の余韻と金縛りに近い感覚を味わった時、思わず涙が流れそうでした(実際は泣いていませんけどね)。
終わってみると「よくもこんなにも演奏体力必要とするプログラムを組んだものだ」と40年前の意気込みに驚きましたし、それをもう一度再現してみようとした現在のメンバーの凄さも思いました。
そういや、日本人メンバーはもう還暦を過ぎているはず。
なのに、どうしてこんなにも若々しい音楽なんだろう、もうびっくりしてしまいました。
演奏家としての私も、この演奏会から学ぶものはかなりたくさんありました。
ということで、今後もこの楽団の動向を見ていくことは確実です。