腰痛の原因がわからない

(整形外科医の驚くべき現状)

日本整形外科学会認定整形外科専門医、DC

日本カイロプラクティック総連盟会長

竹谷内宏明

 
 現代医学の診断・治療技術の発展には目覚ましいものがある。
 
その一方、整形外科領域とされている頚部痛(頸部捻挫、上肢の疼痛、しびれを含む)、腰
痛(下肢の疼痛・しびれを含む)、膝関節痛に限っても、病態の捉え方、治療方法は、筆者
が大学病院の整形外科に在局した昭和四十年代と現在では殆ど変わらず、旧態依然の状況
と言っても過言ではない。
 
 医学界が構造異常と病気の関係に目を向けなければ、今後何十年経過しても、今の状況
は変化しないのではないか。それは、誰よりも日本国民の大きな不幸である事を、カイロ
プラクティック(以下、カイロ)関係者は声を大にして言わねばならないと思う。

(一)整形外科教授の本音


 現職の整形外科の教授の腰痛に関する発言を二、三、紹介する。
 ある公立医科大学の教授は
 
 
「腰痛は整形外科医にとっては、もっとも身近な病態である。しかも、その病態が全く解
  明されていないと言う点でも、その右にでるものはない」

 

と述べている。また、ある私立大学の教授は
 

 
「現在の日本では労働に起因する腰痛(筆者注=労働とそれ以外の腰痛の区別はそれほど
 重要ではない)の研究が非常に立ち後れており、特に整形外科領域の研究の遅れが目に付
 き、整形外科医として劣等意識を持ちました。」

 
と書いている。さらに、ある教授は医学雑誌の対談で、

 
「例えば、慢性の腰痛は整形外科の重要な問題になっているですけれども、整形外科医が
 まともにつき合っていないと言うか、まともに治せない病気なんですね。それは何が原因
 かよく分からないからだと思うんです。」

 
と述べている。

 

 腰痛に悩んで整形外科を訪れる患者さんが聞いたら、それこそ腰を抜かしてしまうよう
な教授陣の本音はなかなか一般には伝わらないが、これらはいずれも専門誌に活字になっ
た部分の抜粋である。三人の教授の発言から伺えることを整理すると、

 
@ 今の医学では慢性の腰痛は原因が全く分からない。
 A 対処の方法も確立していない。
 B 整形外科では本気で患者を診ていない(診られない)。医師が雑誌や教科書で慢性の腰
   痛に関して様々な原因と治療法を述べていても、「何もわからない」のが実態である。


 
多くの患者が悩んでいる「むち打ち損傷(頚椎捻挫)」の場合も同じで、今の医学では完
全には、対処出来ない。理由はその原因が理解できないからである。それこそ、放置して

も治る例は別にして、筆者は頸椎のサブラクセーションに注目してカイロで治療する以外
に方法はないと思っている。

(二) 整形外科医の矛盾
 
 殆どの患者が納得できない矛盾を、整形外科医が日常の診療の中で、平気で説明してい
ることが少なくない。腰痛で受診し、レントゲンを撮り、
 
 「異状在りません。放置していても治るでしょう」

 異状の指摘が無ければ、腰痛の原因は説明できず、それではわざわざ忙しい時間を割い
て、長時間待たされるのを覚悟で受診する意味はない。また、高齢者が腰痛を訴えて受診
し、レントゲン撮影後必ず言われるのは、

 
「年ですね、薬を飲んで様子を見てください」

であろう。

 
高齢者がレントゲンを撮れば、腰椎に老化の所見が診られるのは当たり前のことである。
 その所見が腰痛の原因であれば、高齢者はすべて腰痛に悩まされることになるし、老化
を元に戻せない以上(若返らない以上=編者注)、治らないことになってしまう。

 
 多くの患者はこの矛盾に納得しないまま、腰痛に耐えなければならない。同様なことが、膝関節症
で受診する高齢者にも言える。レントゲンを診て

「年ですね、注射しましょう」

 と言われる。膝関節痛で医師が膝関節以外に注目することが在るだろうか。(編者注=つま
り、膝関節が痛いときに、その原因を膝関節のレントゲン上の異常だけしか診ないで、神
経や体のバランス異常など、考えられるであろう他の要因を考えない。)
 
 蛇足ながら、膝を支配している神経が腰椎からでていることを医師は学んでいる。腰を
無視して膝関節しか診ないのは手抜きと言われても仕方ないであろう。日常によく見られ
る腰痛、膝関節痛に限定しても、このような矛盾がまかり通っている事実は不思議としか
言いようがない。

(三) 医学教育の矛楯

 多くの患者と若干の医師の発言から判断すると、最近の医師は診察の際、あまり患者に
触れることがないようである。
 
 
MRI、CT、レントゲン写真を重視し、それらと検査所見から診断を下し、処方する傾向が見られる。一例を挙げると、椎間板ヘルニアと診断され、筆者のクリニックを訪れた患者に、どんな検査をされたかを聞いたら、画像だけで、基本検査であるストレート・レッグ・レイジング・テスト(注1)もされず、その上、手術までほのめかされたという。

 その様な症例は決して稀ではない。医師が多忙なのは理解するが、それだけが理由であるとは思えない。手当の原点である患者に手を触れる行為の必要性、重要性があまり最近では教育されていないのではないか。


 注1:治療者が、患者を仰臥位(上向き)にして、足をまっすぐにさせ挙上するテスト。
    神経根症状における重要なテスト。
(四)   整形外科の腰痛に対する新しい概念

 
 ごく最近ではあるが、一部の専門家が腰痛の捉え方は従来通りに、生物学的な「脊椎の
障害」であるという概念では限界があると主張し始めた。
 そして、腰痛は、さまざまな要因によって生じる生物、心理、社会的疼痛症候群として捉えるべきであるとする。
 
 換言すれば、腰痛を解明するには、解剖学的損傷部位を考慮すると同時に、神経や筋の生理学的障害として捉え、心理的・社会的因子の関与も評価の対象として考え始めている。
 
 この概念が主流になるのか否かは、もうしばらく様子を見なければならないだろう。 

(五) 終わりに
 
 紙面の都合で、整形外科とカイロプラクティックについて多くを述べる事には、限界がある。けれども、これまでに触れた、整形外科医の本音も矛盾も教育の欠陥もカイロとその理論に目を向ければ、決してすべてではないが、多くのことが解決すると考えている。

 両者が対立する必要はないし、医学界がその理論を理解できなくとも、謙虚にその存在を受け入れ、適応疾患をカイロの専門家に任せればよいのである。それにより現代医学の盲点が補完され、多くの悩める人が救われると断言できる。
 
四月末から五月の上旬にかけて、第七回WFC(編者注=WHOが認定する非政府組織、世界カイロプラクティック連合)世界大会がオーランドで開催された。参加して感じたのは、WHOは、カイロを含む代替医療に注目し始めていると言うことである。これから、ますますWHOとWFCとの連携が強くなることが予想される。それは筋骨格系の症状に関して、諸外国の患者の満足度調査で、医師よりカイロの方が満足度が高い結果がでていることと無関係ではない。

 現代医学の欠点や矛盾を指摘する以前に、カイロ業界側にも反省すると事は多い。WFCは今回の総会で「パリ政策宣言」の欠陥を補うために、三番目に、職業としてカイロ治療をおこなう者の身分の定義を追加した。これにより「教育」「身分」、そして「職業」としてのカイロの定義が一層明瞭になり、我が国でカイロを説明する基準が明確化した。この基準の下に日本のカイロ業界が集約すれば、法制化がいつになろうとも、カイロの名誉と国民の信頼は守られると確信している。カイロ関係者の良識に期待したい。
CHIRO-JOURNAL/科学新聞社/7/17/03
 所長のコメント  2005年カイロプラクティック徒手医学学会の席上で、福島県立医科大学 整形外科 菊池臣一教授が、「整形外科がやっている腰痛治療より、カイロプラクティクの治療の方がよほど根拠があります」とおっしゃっておられたのが、印象的でした。科学者として公平に物事を考えられる先生だと感心しました。ただ、カイロの業界にも問題があります。国際基準の教育をうけたカイロプラクターであるかどうかが問題です。日本では、学位のないカイロ治療院がほとんどです。当然、学位があるからと言って、名医かどうかはわかりません。一般の医師が、大学を出ただけで名医なんて事は無いのと同じです。しかし、大学を出ていないというのは問題です。それは、カイロも同じで、学位があると言うことは、最低限の安全性に関する教育を受けていることは間違いないのです。