証拠に基づいたカイロプラクティック
                                                           増田 裕 D.C. DACNB
 
 前世紀の90年代初期、英国の医師会機関誌BMJにある論文が掲載された。ちょっと手元にないので、論文名と著者名を挙げられないが、それによると、西洋医学の各種治療法の内、たかだか15%しか、その有効性の機序が明らかとなっていない。あとの85%は経験的に有効である蓋然性が、高い、ということである。
 
 例えば、アスピリンは鎮痛、解熱、抗炎剤などの作用があることが分かっていて、長く使われてきた汎用医薬品であるが、その機序が明らかとなったのはそんな昔のことではない。
 
 科学的だと言われる西洋医学にしてこの程度である。医療は臨床科学だから、どうしても正確な機序が分からないことが多い。したがって、カイロプラクティックがその有効性の機序を十分に明らかにしないでいても、あながち不当ではない。

 しかし、である。
 
 カイロプラクティックの歴史をひもとくと、BJパーマー
(注1)は、カイロプラクティックの有効性を証明しようとして、不断の努力を続けた巨人の1人である。
 レントゲンの導入に始まり、ナーボスコープ
(注2)を治療前後の変化の指標として使い、さらには当時実験的な脳波計にも挑戦している。BJクリニックにはMD(メディカルドクター)のスタッフもいて、血液検査や尿検査も行っていた。今日、証拠に基づいた医療(Evidence Based Medicine)が強調されている。
 
 カイロプラクティックの世界でもこれに同調する動きがある。古い治療家の中には、「結果を出しているからいいじゃないか」と反発する向きもあるかもしれない。しかし、「文字に残さないものは、無いに等しい」のである。別の言い方をいすれば、これまでは結果を出せば良かった。
 
 これからは、何故そういう結果が出たのか説明できなければならない。思うに、証拠に基づいたカイロ・ケア(Evidence Based Chiropractic Care;EBCC)の研究がもっと進められる必要がある。その際、留意したいのは、その枠組みである。例えば
免疫学者の安保徹氏は「EBMと言っても、その基本的前提が間違っていたら、いくらデータを集めていても意味はない」と述べている。
 
 
例えばステロイド治療と言う間違った前提の上にいくらデータを集めていても意味はない。同様なことがカイロプラクィックにも言える。その枠組みで重要になるのが、神経学であろう。痛きも神経学の範 である。しかし、この主観性に治療効果の有効性を求めるわけにはいかない。
 
 西洋医学のなかでも麻酔科の専門医がペインクリニックを開いているが、この人たちの利用効果の基準はまさに、主観性
(注3)に依拠している。星状神経ブロックがどれだけ心臓に影響に悪いかを与えているかと言う問題意識はない。
 
 
鎮痛と言う点からだけみれば、矯正は脊柱のどこをアジャストしても、その刺激は小脳に入り、前庭核を経由して脊髄の両側に下降して、脊髄後角の 様質にシナプスして鎮痛作用を及ぼす。
 いわば整体はこれを地でいっている。どの部分も(体の)左右から均等に刺激を入れる。非特異性。このため地の全般的健康、ホメオスタシスを犠牲にしているおそれ大きい。

 
 中枢神経のどこかに機能低下がるか。その機能低下が末梢の症状とどう関係しているか。これが問題である。
特異性の視点(注4)その上で、今日の科学の最新知識を導入して、カイロプラクティック・ケアの有効性を明らかにしていく必要がある。
 
 これまでの可動域検査、整形外科的検査、モーションパルぺーションの伝統的方法だけでは、どうしたって適応症は筋骨格系に限られてしまう。例えば、血圧、血中酸素濃度計は必須であろう。結集酸素計は、われわれ治療院を素通りして一般家庭に入ってきている。また、瞬間器の専門家二十年も昔から導入してすでに検査法として確立している心拍間隔変動係数測定器、また、サッカードなどの眼球運動の測定器
(注5)。色々費用はかさむが、これもカイロプラクティックの発展の為には必要である。微妙ながら、私はこの研究の一翼をになう気持ちでいる。

編者(田中)注
注1;1895年にはカイロプラクティックを創始したダニエル・デビット・パーマーの息子。カイロ研究において科学かの努力をした。
注2;ナーボスコープ。脊柱両端の皮膚温度を測定することにより、脊柱の異常を調べる器械。
注3;ここで言う「主観性」とは、患者自身が「痛みが無くなったかどうか」と言う意見を治療の成功としていること。しかし、これは根本的な障害の原因を無くしたことは言えない。
注4;背骨のどこを(左右を含めて)刺激しても、一時的な痛みの抑制現象は起こる。しかし、中枢神経系の問題点を検査で検出し、その神経の治療を考えなければ、痛みは取れても問題点は残り続け、再発を繰り返すばかりか、神経刺激の経路を計算治療しないと、逆にさらに全体の中枢神経バランスを崩し、他の部分が悪化する可能性が高い。つまり、体の左右両方から均等に刺激することは神経学的に正しくなし。
注5;これからは中枢神経、特に自律神経の検査を行うときに使用する。
証拠に基づいたカイロ・ケア
CHIRO-JOURNAL/科学新聞社/7/7/03