第22回 兵庫県支部講演会
2001年6月10日 尼崎市立労働福祉会館
自閉症の判定基準
東京学芸大学教授  太田 昌孝
 
 ここでは、まず、自閉症の判定基準とは何かということについて話す。第2には、判定基準の作成の目的と前提について述べる。第3には、厚生科研費の分担研究として行われている最新版判定基準案(α3.1版)に沿ってその考え方と内容を簡単に紹介する。
1.自閉症の判定基準とは何か
 1)障害の判定基準とは
   障害者基本法に従うと、判定基準とは、「何らかの医学的状態(病気)」があり、「そのために、長期にわたり日常生活または社会生活に相当な制限を受ける」状態になっていることを規定する基準である。
 2)自閉症の医学的診断基準
   精神医学に関する診断基準マニュアルの主なものには、世界保健機構(WHO)による国際疾病分類第10版(ICD−10)とアメリカ精神医学会(APA)による精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM−W)がある。その中には自閉症の診断基準があり、両者はほとんど同じである。世界的に共通な診断基準がはっきりと存在している。
 3)発達障害の診断基準の枠組み
   自閉症などの発達障害について、診断のための必須を見ると、精神遅滞では知能遅滞と適応障害が必須となっている。多動症候群すなわち注意欠陥/多動性障害(ADHD:DSM−W)あるいは多動性障害(ICD−10)では、行動障害は必須であり、適応障害もまた必須の条件となっている。しかし、自閉症では、行動障害が必須になっているが、適応障害は必須としてあげられていない。
 4)自閉症の判定基準
   障害者基本法によって考えると、自閉症の判定基準とは、自閉症の診断とそれに関連する症状を含みながら、それに起因する生活の困難さを合わせた基準であると言える。
 5)診断基準の判定者および自閉症の範囲
   判定者としては、熟練した医師、福祉関係に一定の造詣がある者、臨床心理士などの習熟した心理関係者、習熟した教師などを想定している。判定者の条件は別途に検討する必要があると考える。自閉症の範囲としては、広汎性発達障害、自閉症圏障害、自閉、自閉傾向などという用語で表される状態を含んでいると考えている。
2.判定基準作成の目的と前提
  1)判定基準の作成と目的
    第1には、すべての自閉症児・者について、知能の高低や年齢にかかわりなく症状の重さと社会適応の障害の程度を適切に判定する基準を作ることである。自閉症では行動障害が強く非常に不適切なあるいは不利な処遇になりがちである。このことは高機能自閉症あるいはアスペルガー症候群を持った人たちでは、如実に現れていることが強調される。第2には、それに伴い、こういうものを作ることによって自閉症児者の社会参加の質的向上に貢献できるようにすることである。第3には、その判定基準の使用により、適切な支援方法や体系作りをするための基礎資料を得ることである。
  2)作成の際の問題点
    判定基準を作る際に、どういう法律の下で適用するかという現実的な問題がある。自閉症は可能な限り単一の福祉法で処遇されたほうがよいと考える。基本的には知的障害者福祉法の範囲内で考えて、思春期以降になり、他の精神医学的な問題が生ずれば、精神保健法の適用という方向が現実的であると考えられる。このような方向で自閉症対策と知的障害をはじめとする他の障害対策とうまく整合性がとれないのであれば、法律の手直しとか、あるいは新しい方向の追求が成り立ち得るだろうと思う。
3.判定基準の試案(α3.1版)の基本
  1)現在の判定基準案
    現在の判定基準案は2001年3月に改訂した自閉症判定基準α3.1版に沿って述べる。なお、α3.1版は家族の記入する調査票、行動質問票、機能の全体的評価尺度、太田ステージ評価などを加えたバッテリー(組)となっている。
  2)判定基準案の基本構造
    判定基準案の基本的な構造は、「自閉症の症状重症度の尺度」、「生活制限の程度の尺度」、「知能の構造的障害の程度の尺度」の3つの尺度とそれらの尺度から求められる「総合判定」に分かれている。「自閉症の症状重症度の尺度」とは、自閉症に特有な行動を含めて評価する尺度である。自閉症の診断基準に見られる行動はこの中に含まれている。次いで、「生活制限の程度の尺度」とは、自閉症の症状や知能の構造的障害以外で起こってくる生活のしにくさ、あるいは自閉症に伴ってくる生活のしにくさも一括してここの中に組み入れた。「知能の構造的障害の程度の尺度」とは、知能の遅滞と不均衡さについての尺度である。また、「島状に高い能力」の評価もできるようにしてある。「総合判定」は、この3つの尺度から総合して、一定の基準に基づいて算出し、段階が付けられるようになっている。
  3)判定の客観化のために
    第1に、全体についての解説としてのガイドラインを作成した。第2に、判定指針をもうけ3つの尺度の全ての下位項目について定義と基準を設けた。第3に、定義、尺度の命名について、できるだけわかりやすく、簡潔な表現や名前にした。
  4)障害・症状の持続について
    また、判定に際しては、障害が長期にわたり、固定、永続しているということも評価の重要な点である。自閉症をはじめとする発達障害では、障害が永続するということと、本人が発達することあるいは支援により適応がよくなることという点との矛盾の競り合いがある。この案では、だいたい3カ月程度と決めて、一定程度持続する最も悪い状態を見て判断することにした。
4.判定基準案の尺度の内容
 1)自閉症の症状重症度尺度
 2)生活制限の程度
 3)知能の構造的障害の程度
 4)総合判定の程度
   この尺度は自閉症の症状重症度と知能の構造的障害と生活の制限の程度とを含んでいるので、自閉症者の社会的不適応さをかなり適切に判断していると考えられる。今後としては、尺度の妥当性、信頼性、概括的評価と総合判定の手順、療育手帳や年金などの社会的処遇との関係などについて検討していく予定である。また、本人の意思の尊重と本人と親などの関係者からの情報の収集の方法の検討や評価の簡便化も今後の課題となろう。青年期になって初めて医療機関などにかかったときの診断や判定基準の運用の問題もある。多動症候群(ADHDあるいはHD)や学習障害などの自閉症と近縁な発達障害関連についての考慮も必要になると思う。
5.α3.0版についてのアンケートとα3.1への改訂
  広い範囲の専門家、臨床家などに意見を聞きα3.0版の洗練化を図るためにアンケート調査を、自閉症研究部会部員と児童相談所などの判定機関とを対象にして行った。アンケートの結果から基本的な点において賛同を得られたので、大幅な変更を行わないことにして、アンケートの自由記載欄や返送された解説編や判定指針編に対する書き込みなどを参照して、用語の統一と文意の正確さ及びわかりやすさを中心にして判定基準案α3.1版への改訂を試みた。主な改訂は総合判定の方法の変更とそれに伴って記載の順序に変更を加えたことである。すなわち、まず最初に「概括的症状重症度」「概括的生活制限の程度」から評価をし、その結果と「概括的知能障害の程度」から総合判定をすることにしたことである。第2番目の改訂は、「知能の構造的障害の程度」の尺度における「島状の高い能力」の項目については、適切性について意見が分かれた。狭い範囲に限られた能力であることと生活上あまり有用性が高くない能力の評定であることを強調する記載とした。
最後に
 ここにお集まりの皆様をはじめ、自閉症協会会員や関係者の皆様からいろいろな意見や批判をいただき、さらに判定基準案の言葉を直したりして、適切化を図る予定である。これらを行った後、できるだけ早くフィールド・トライアルを行い、多くの臨床例のデータでの検討の方まで持っていきたいと思っている。是非、自閉症協会宛に、意見などをお寄せください。また、この判定基準が行政に反映され、自閉症児者とその家族及びそれを取り巻く人々の生活の質の向上に役に立つことを願っています。
謝辞
 厚生省障害福祉課の十菱龍課長をはじめ、直接児童相談所などへの協力依頼のお手紙をいただいた同課の大塚晃専門官、その他ご協力をいただいた皆様方に心から感謝申し上げます。
文献
1.太田昌孝、山崎晃資、石井哲夫、大野智也、久保紘章、栗田廣、佐々木正美、白瀧貞昭、中島洋子、山家均 自閉症の判定基準についての検討(第4案):江草安彦(主任研究者)厚生省心身障害研究 自閉症児(者)及びその周辺の発達障害に関する研究 平成9年度報告書 pp9−19 1998
2.太田昌孝、永井洋子、金生由紀子、鏡直子、佐々木敏広、飯田順三、清水直治、山崎晃資、石井哲夫 自閉症判定基準の開発に関する研究 第40回日本児童青年精神医学会総会 札幌 1999年10月
3.太田昌孝、永井洋子、金生由紀子、鏡直子、佐々木敏広、飯田順三、清水直治 :自閉症の判定基準の洗練化とフィールド調査に関する研究ー自閉症判定基準α2.2版の作成ー江草安彦(主任研究者)、厚生省心身障害研究 自閉症児(者)及びその周辺の発達障害に関する研究、平成10年度報告書 pp83−102 1999
4.太田昌孝 自閉症の判定基準案について pp20−28 心を開く No.28 日本自閉症協会 2000
付録 判定基準案(α3.1版)の尺度の項目
T.「自閉症の症状重症度」の項目
S1 対人関係の相互性の障害
S2 言葉などによるコミュニケーションの障害
S3 興味や関心の狭さや同じ活動の繰り返し
S4 感覚の異常(過敏と鈍感を含む)
S5 奇妙な考えとそれに伴う行動障害
S6 行為と運動の障害
S7 不安と気分の不安定さ
S8 興奮やパニック及び攻撃行動
S9 知的発達障害以外の合併する精神障害の程度
SG 概括的症状重症度
U.「生活制限の程度」の項目
<3歳から6歳頃>
LY1 食事の自立
LY2 洗面の自立
LY3 排泄の自立
LY4 衣服着脱の自立
LY5 入浴の自立
LY6 余暇活動(ひとりで家で適切にまた安全に過ごせることも含む)
LY7 外での危険を避けることができる
LY8 睡眠
LY9 年齢相当の相互性のある会話ができる
LY10 幼稚園、保育園などでの集団生活
<6歳過ぎ18歳頃まで>
LM1 食事(食事の準備や後片付けも含む)
LM2 身辺の清潔保持(入浴・洗面・着衣・用便や月経の始末)
LM3 買い物
LM4 家族と会話のやりとりができる
LM5 家族以外のものとの会話のやりとりができる
LM6 余暇活動(ひとりで家で適切にまた安全に過ごせることも含む)
LM7 刃物・火事の危険あるいは戸外での危険(交通事故など)から身を守ることができる
LM8 交通機関などを適切に利用することができる
LM9 学校での通常の教科学習
LM10 学校での集団生活
<18歳過ぎ>
保護的環境ではなく、例えばアパートなどで単身生活を行った場合を想定し評価する。
LA1 適切な食事摂取
LA2 身辺の清潔保持
LA3 金銭管理と計画的買い物
LA4 意思伝達と協調的な対人関係
LA5 身辺の安全の保持と危機に対する対応
LA6 公共施設の利用
LA7 社会情勢や趣味・娯楽への関心と文化的社会的活動
LA8 就労について
LA9 通院・服薬の管理
概括的生活制限の程度(年齢にかかわらず)
0 日常生活または社会生活については援助の必要はない
1 日常生活または社会生活は一定程度の制限を受ける
2 日常生活または社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする
3 日常生活または社会生活に著しい制限を受けており、常時に援助を必要とする
4 身のまわりのことはほとんどできない
V.「知能の構造的障害の程度」の項目
I1 知能発達の遅滞の程度
I2 知能の不均衡さの程度
I3 島状の高い能力
I4 概括的知能の構造的障害の程度
 
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