健康コラム of あらい内科医院

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No.9

№9 花粉症

1.アレルギー性鼻炎と花粉症

 アレルギー性鼻炎と花粉症とがどう違うのか分からない方が多いと思います。先ずこの二疾患の関連について説明をした上で、春先から始まる花粉症について解説をしていきたいと思います。

 アレルギー性鼻炎は鼻粘膜のI型アレルギー性疾患で、①発作性反復性のくしゃみ、②水様性鼻漏、③鼻閉を三主徴とします。
 アレルギー性鼻炎の病因抗原の大部分は吸入性抗原で、食物抗原のアレルギー性鼻炎発症への関与は極めて低いと考えられています。
 また、アレルギー性鼻炎は通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)とに分類されています。通年性アレルギー性鼻炎はハウスダストやダニを病因抗原とし、季節性アレルギー性鼻炎である花粉症は季節毎に散布される各種の花粉を病因抗原として花粉によるアレルギー性結膜炎(眼のアレルギー)を高頻度に合併します。
 このように花粉症はアレルギー性鼻炎のかなり大きな部分を占める疾患であり、花粉症の中では春季のスギ・ヒノキ花粉症が最も重要な位置を占めます。各アレルギー性鼻炎の有病率を図1に示します。

図1 1998年と2008年の有病率

鼻アレルギーガイドライン2013より

2.アレルギー発症のメカニズム

 アレルギー疾患は先進国に多い疾病で、現代においては日本人の約50%が何らかのアレルギー疾患に罹患しているとされます。

図2 アレルギーとは体の免疫反応の一つ

 アレルギー疾患発症の仕組みを図2で説明します。
 花粉やダニなどアレルギー反応を引き起こす物質はアレルゲン(抗原)と呼ばれ、体内に入ると粘膜に付着します。これらは本来無害なものですが、時に「有害な異物」と体が認識し免疫細胞がIgE抗体を作ります。このIgE抗体がマスト細胞に固着すると抗原抗体反応を起こす準備が完了(感作の成立)します。そして再度アレルゲンが体内に侵入しIgE抗体と結合し抗原抗体反応が起きた結果マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンを主とする化学物質が放出され、くしゃみ、水様性鼻漏(鼻みず)、鼻閉等の症状が出現します。

3.花粉症の診断

 花粉症は他のI型アレルギー疾患と同じく、遺伝性素因が重要です。遺伝形式については、家族調査からアレルギーにならない素因が優性に遺伝すると言われています。
 花粉症の診断には、アレルギー性か否かの検査と原因抗原を同定する検査があります。
 前者には問診、X線検査、鼻鏡検査、血清非特異的IgE抗体検査、後者には特異的IgE検査(花粉ごとの抗体検査)、皮膚テスト、誘発テストがあります。非特異的IgE(血清総IgE値)検査はアレルギーの有無の診断には有用ですが、アレルギー性鼻炎単独、特に花粉症単独の場合には正常値を示すことが多く、他のアレルギー性疾患の喘息、アトピー性皮膚炎の合併例では高値を示すことが多いとされています。
 図3に各種花粉の飛散時期を示します。花粉飛散時期を参考に特異的IgE抗体検査を施行し、病因抗原が同定されることが効果的な確定診断であると言えましょう。

図3 主な花粉症原因植物の花粉捕集時期(開花時期)

鼻アレルギーガイドライン2013より

4.花粉症の治療

(1)治療目標
 治療の目標は、患者を次の状態にもっていくことにあります。

①症状はない、あるいはあってもごく軽度で、日常生活に支障のない、薬もあまり必要ではない状態。
②症状は持続的に安定していて、急性増悪があっても頻度は低く、遷延しない状態。
③抗原誘発反応がないか、または軽度の状態。

 症状の苦痛の強さは患者により異なりますが、重症度分類で軽度以下なら多くは薬物投与なしで普通の生活ができます。しかし、ときに急性増悪があり、その際のみ薬物の投与が必要となるでしょう。
症状が安定と言うことも具体的に定義しがたいのですが、通年性アレルギーで、年に数回、2週間以内程度の症状増悪なら安定といえましょう。抗原誘発反応の陰性化も寛解状態判定の具体的パラメータになります。
 花粉症の治療法には、抗原の除去と回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法(電気凝固法、凍結手術、レーザー照射法、超音波メス凝固)などがあります。
 近年の花粉症に対する治療の進歩は、新しいアレルギー性鼻炎治療薬の開発にあります。
 しかし薬物療法は対症療法または発作予防にとどまり、根治療法には至っていないのが現状です。生活支障時に症状改善のために用いても、服薬を中止すれば短期間で再発してしまいます。長期予防的投与を行いつつ自然治癒を待つことは小児喘息などと異なり花粉症においては極めて困難です。
 現在、治癒または長期寛解を期得できる唯一の方法は、アレルゲン免疫療法です。しかし本法は少なくとも2~3年にわたる長期の注射施行を要し、効果発現が遅く、治療中にショック等の激しい副作用の出現をみることがあるために一般的な普及に至っていないのが現状です。
 表1に現在実施されている花粉症治療のめやすを示します。

表1 重症度に応じた花粉症に対する治療法の選択

鼻アレルギーガイドライン2013より

(2)花粉症予防
 アレルギー療患治療ガイドラインには花粉症の症状発現予防として抗原回避の重要性が述べられてますが、これは三次予防として位置づけられます。
 生後まもなくから抗原感作までに予防することが一次予防、感作成立後から発症を予防することが二次予防と考えられます。
 現実的な問題として、一次予防、二次予防の実施は困難であり、三次予防により花粉症症状の軽減を図ることが重要と思われます。
 表2に三次予防法を示します。

表1 重症度に応じた花粉症に対する治療法の選択

鼻アレルギーガイドライン2013より

5.おわりに

 花粉症について、その病因や発症のメカニズム、治療と予防などを理解して頂けたものと思います。
 もうすぐ、花粉症の中でも最も重要なスギ・ヒノキ花粉症の発病時期である春がやってきます。本文を参考に適切な対処をされることを希望します。



No.8 肺炎

No.8 肺炎

はじめに

 2011年に肺炎が日本人の死亡原因疾患の第3位になりました。第1位は悪性腫瘍(がん)、第2位は心疾患、第4位は脳血管疾患です。(図1)

成人肺炎診療ガイドライン2017より

 肺炎の年齢階級別死亡者数では、全体の96%以上を65才以上の高齢者が占めており、肺炎死亡者数が増加している主な原因は日本社会の高齢化によるものと推測されます。(図2)。

成人肺炎診療ガイドライン2017より

 肺炎は発症の場や病態から、①病院外で日常生活をしている人に発症する市中肺炎、②入院後48時間以上経過してから新しく発症した院内肺炎、③長期療養型病床や介護施設の入所者、病院退院後90日以内の人、要介護者、外来通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、抗癌化学療法、免疫抑制薬などによる治療)を受けている医療・介護関連肺炎の3群に大別されます。
 市中肺炎患者は基礎疾患を有することが少ないのに対し、院内肺炎患者は何らかの基礎疾患を有していることに加え、薬剤耐性菌が原因菌となるリスクが高いことから、死亡率が市中肺炎患者よりも高いわけです。医療・介護関連肺炎は、医療ケアや介護を受ける高齢者に発症する肺炎で、死亡リスクは市中肺炎と院内肺炎との中間に位置し、繰り返す誤嚥性肺炎に代表される予後不良の終末期肺炎も含まれます。
 本編では、日常生活上よくみられる市中肺炎を中心に説明していきます。

市中肺炎

 市中肺炎は、「肺実質の、急性の、感染性の、炎症」と定義されます。
 肺炎は病因により、感染性肺炎と非感染性肺炎とに分類されます。非感染性肺炎にはアレルギー性物質を吸入して起こる過敏性肺炎等があり、感染性肺炎の中にも抗癌化学療法やエイズ患者等に発症する日和見感染(カビ等の感染による)がありますが、これらは本編の市中肺炎から除外して説明を加えていきます。
 15才以上の日本人の市中肺炎の患者数は年間188万人と推定され、その70%を65才以上の高齢者が占めます。患者の70%は入院し、年間74000人が病院で死亡していると推定されています。

(1)市中肺炎の診断

 肺炎に伴う症状として咳、痰、発熱、呼吸困難、胸痛などがあげられます。ただし高齢者の場合には、典型的な呼吸器症状を示さず食欲低下や活動性の低下など肺炎と直接関係のない症状が前面に出ることがあり注意を要します。
 肺炎の確定診断は胸部X線像および胸部CT検査などの画像診断によってなされます。
 血液・生化学検査では、白血球増加や炎症反応(血沈亢進、CRP陽性)が認められます。
マイコプラズマ肺炎ではマイコプラズマ抗体の陽性化がみられます。
 喀痰および血液中の原因菌の検索も確定診断のため重要ですが、原因菌の検出されないことが多い現状です。
 肺炎は原因菌と病原体により、細菌性肺炎と非定型肺炎とに区別する分類もあります。市中肺炎の原因菌と病原体を図3に示します。

成人肺炎診療ガイドライン2017より

(2)市中肺炎の治療

 市中肺炎の治療にあたっては、肺炎と診断されたものの病因菌が決定されるまでの間に施行されるエンピリック治療(経験的治療)と、病因菌が決定された後に施行される標的治療とがあります。診療現場では病因菌が判明しない場合も多く、初期治療として広範囲の病原菌に有効な薬剤による広域治療が推奨されています。
 市中肺炎は、細菌性肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎桿菌等)と、非定型肺炎(肺炎マイコプラズマ、クラミジア属、レジオネラ・ニューモフィラ、コクシエラ属)に大別され、発病の頻度の高い肺炎球菌肺炎、インフルエンザ菌肺炎、マイコプラズマ肺炎等が重要です。
 細菌性肺炎にはベータラクタム系薬(ペニシリン系、セフェム系等)が有効であるのに対し、非定型肺炎ではベータラクタム系薬は無効であり、マクロライド系薬、キノロン系薬、テトラサイクリン系薬が有効です。
 市中肺炎のエンピリック治療にはペニシリン系薬+マクロライド系薬またはテトラサイクリン系薬の併用が施行されることが多く。その際の要点と注意点を表1に示します。

    成人肺炎診療ガイドライン2017より

(3)肺炎球菌ワクチン

 肺炎球菌は細菌分類上グラム陽性双球菌に分類される上気道の常在菌で、莢膜の性質により90種以上に分類されます。
 日本国内で成人に使用できる肺炎球菌ワクチンは2種類あります。1つは65才以上の高齢者と2~64才の高リスク群を対象に1988年から使用されている23価莢膜多糖体型肺炎球菌ワクチン(PPSV23)、もう1つは2014年から65才以上の高齢者に使用できるようになった13価蛋白結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)の2種類です。前者は広範囲の莢膜型肺炎球菌をカバーできる特徴を持ち、後者はカバーできる莢膜型肺炎球菌は少ないものの前者より高い免疫効果が期待できる特徴があります。現在どちらが優位であるかの判定はなく、ワクチン接種を受ける人の状態に応じて選別されるべきと考えられます。

No.7 気管支喘息(第2報)

No.7 気管支喘息(第2報)

健康コラム第7回目は、気管支喘息(第2報)についてお話をしたいと思います。

1.はじめに

 初回(NO.1 気管支喘息)に喘息について記しましたが、ここ数年間で喘息の診療に顕著な進歩が認められることから、最新の喘息診療と管理方法についてお知らせしたいと思います。
 喘息は「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動性を持った気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳嗽(せき)で特徴づけられる疾患」であるとする疾病の定義は、NO.1 気管支喘息に書かれていることと変わりはありません。喘息は多様な病因や増悪因子、誘発因子により多様な病像を呈する「症候群」としてとらえられています。
 最近の調査では、日本人成人の喘息罹患率は約8%と推定され急速な増加を認めます。
 また日本人の喘息による死亡者総数は1980年で6370人であったのが、2013年には1738人にまで減少しました。喘息治療法の進歩によるものです。
 しかし、適切な治療による慢性気道炎症の改善が得られなければ、気道損傷による非可逆性の気流制限(喘鳴、呼吸困難、咳嗽など)をもたらし、重症の通年性喘息発作患者へと憎悪進行してしまう可能性があります。

2.喘息の診断

 喘息発作状態である患者さんの場合の診断は容易ですが、気道狭窄の軽微な場合や症状が咳のみの場合には喘息の診断が困難なことが多くあります。咳嗽が長く持続するような時には呼吸器内科専門医を受診するべきでしょう。

 喘息診断のための要点を表1に、喘息と鑑別すべき他疾患を表2に記します。

表1 喘息診断の要点(JGL2015より)

 1.発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳(夜間,早朝に出現しやすい)の反復
 2.可逆性の気流制限
 3.気道過敏性の亢進
 4.アトピー素因の存在
 5.気道炎症の存在
 6.他疾患の除外

  • 上記の1・2・3・6が重要である。
  • 4・5の存在は症状とともに喘息の診断を支持する。
  • 5は通常、好酸球性である。

表2 喘息と鑑別すべき他疾患(JGL2015より)

 1.上気道疾患:喉頭炎、喉頭蓋炎、vocal cord dysfunction (VCD、声帯機能不全)
 2.中枢気道疾患:気管内腫瘍、気道異物、気管軟化症、気管支結核
 3.気管支~肺胞領域の疾患:COPD
 4.循環器疾患:うっ血性心不全、肺血栓塞栓症
 5.薬剤:アンジオテンシン変換酵素阻害薬などの薬物による咳
 6.その他:自然気胸、過換気症侯群、心因性咳嗽

3.喘息の治療

 喘息の病因である気道炎症を制御し、気道過敏性を抑制することに加え、病因の1つであるアレルギー抗原回避や、喫煙といった喘息症状悪化要因からの回避も重要です。
 喘息治療薬は、継続的に使用し喘息症状のコントロールを目指す長期管理薬と、喘息発作治療のために短期的に使用する発作時治療薬の2種類に分けられます。
 長期管理薬には、抗炎症作用を持つ薬剤(ステロイド製剤)と長時間作用性の気管支拡張作用を持つ薬剤(ベータ2刺激薬、抗コリン薬)があり、両者の合剤もあります。またこれらの薬剤には各々吸入薬と内服薬、注射薬があります。
 気管支喘息の慢性気道炎症に対し強い抗炎症作用を持つステロイド吸入療法(ICS)が、治療の第1選択となります。吸入療法でコントロール不充分な場合には、ステロイド内服・注射や免疫治療薬を用います。

 喘息の病状と治療薬選択の要点を表3に記します。

表3.喘息治療ステップ(JGL2015より)
LABAは治療ステップ3-4で使用が推奨されている。

 

治療ステップ1

治療ステップ2

治療ステップ3

治療ステップ4








吸入ステロイド薬
(低用量)
吸入ステロイド薬
(低~中用量)
吸入ステロイド薬
(中~高用量)
吸入ステロイド薬
(高用量)
上記が使用できない場合は以下のいずれかを用いる 上記が不十分な場合に以下のいずれか1剤を併用 上記に下記のいずれか1剤、あるいは複数を併用 上記に下記の複数を併用

 

LABA(配合剤使用可) LABA(配合剤使用可) LABA(配合剤使用可)
LTRA LTRA LTRA LTRA
テオフィリン徐放製剤 テオフィリン徐放製剤 テオフィリン徐放製剤 テオフィリン徐放製剤
※症状が稀なら必要なし   LAMA LAMA
    

 

抗IgE抗体
      経口ステロイド薬

追加治療

LTRA以外の
抗アレルギー薬
LTRA以外の
抗アレルギー薬
LTRA以外の
抗アレルギー薬
LTRA以外の
抗アレルギー薬

発作
治療

吸入SABA 吸入SABA 吸入SABA 吸入SABA

  • ICS:吸入ステロイド薬
  • LABA:長時間作用性β2刺激薬
  • LAMA:長時間作用性抗コリン薬
  • LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬
  • SABA:短時間作用性β2刺激薬

4.喘息の管理目標

喘息の管理目標は下記の5項目が挙げられます。

(1)健常人と変わらない日常生活を送る事ができる
(2)非可逆的な気道リモデリングへの進展を防ぎ正常に近い呼吸機能を保つ
(3)夜間・早朝を含めた喘息発作の予防
(4)喘息死の回避
(5)治療薬による副作用発現の回避

 特に皆さんの注意を喚起したいのは、近年咳症状があるというだけで、吸入ステロイド薬があまりにも安易に使用されていることです。不適切な長期にわたるステロイド吸入は副作用として、細菌感染や真菌(カビ)感染を惹起し重篤な状態を招くことがありえるので注意が必要です。

5.おわりに

 喘息治療は大きく進歩し、喘息発作のコントロールのみならず、喘息死亡者数の減少をもたらしました。1年のうち短期間しか喘息症状のない患者さんには、無投薬の時間を作ることも困難ではありませんし、それが正しい喘息管理と考えられます。
 喘息患者であっても適確な喘息治療と管理により健常者と変わりない快適な生活を送ることが可能となりました。


No.6 結核症(肺結核症)

No.6 結核症(肺結核症)

健康コラム第6回目は、結核症(肺結核症)についてお話をしたいと思います。

1.はじめに

 肺結核という病名を聞いても怖がらない若い世代の日本人が多くなってきました。しかし肺結核症は1950年代までは、日本人の死亡原因疾患の第1位を占め「亡国病」とまで言われた人々にとって恐怖の疾病でした。
 日本の新登録結核患者数は表1に示す通りで、強力な抗結核薬が登場した1970年代以降急激な減少を示しています。しかし世界保健機構(WHO)の集計では、2014年の全世界の結核患者数は900万人とされ、今日においても人類にとって克服困難な疾病であることに変わりはありません。

 年次 1951年 1986年 2014年
患者数 約59万人 57000人 19615人 

表1.年次別新登録結核患者数

 結核症は肺のみならず、消化器、泌尿生殖器、骨等の臓器器官に発病しうるので、本稿では「結核症」という言葉を用いますが、肺結核症が全体の80%を占め、以下に書かれる説明のほとんどは肺結核症を対象としたものと理解して読んで頂けばよいと思います。


2.結核菌の感染

 未感染者が結核菌に感染することを初感染といい、既感染者が感染した再感染と区別されています。初感染は、結核患者が咳をした時などに飛散する結核菌を吸入することによって起こります。感染後4~8週で免疫機能作用により、菌は肉芽組織に封入され菌の散布や病巣の進行は抑えられ発病せずにすむのが大半です。また、同時期にツベルクリン反応も陽性化します。

初感染成立後は免疫が成立持続し、再感染をきたしても発病することは稀で、初感染後長い年月を経て発病する結核症の大部分は、長年潜在していた初感染巣の結核菌によって起こるものです。
 すなわち、初感染結核の発病予防や、初感染前のBCG接種による結核免疫獲得、あるいは結核免疫低下予防などが結核症発病予防のため重要であると言えます。
 初感染巣の再燃は、栄養不足や癌による体力低下、糖尿病、ステロイド長期治療、エイズ患者等免疫力の低下した条件で起こされます。


3.結核症の診断

 1882年コッホ(独)により結核菌が発見され、患者病巣より結核菌が検出されれば確定診断とされるようになりました。
 以下に各種検査について記します。

1)病歴と症状 家族歴、咳、痰、発熱、倦怠感
2)ツベルクリン反応
発赤、硬結、水疱
3)結核菌検査
結核菌塗抹検査、結核菌培養検査
結核菌群核酸増幅同定検査(遺伝子検査) 
4)胸部X線検査
肺炎像、空洞、石灰化像、集検
5)血液生化学検査
白血球増多、血沈亢進、結核菌特異的IFNr 
6)内視鏡検査
内視鏡検査所見、検体採取(生検)
7)薬剤耐性検査 結核菌の薬剤感受性検査



4.結核症の治療

1)化学療法
 結核治療の主眼は結核菌を攻撃することにあり、化学療法が第一の手段となります。
 優れた抗結核薬が相次いで開発された今日では、それらを組みあわせた化学療法により治療期間は短縮され、外科的治療の適応は少なくなりました。
 1940年代以降、パス(PAS)、ストレプトマイシン(SM)イソニコチン酸(INH)、エタンブトール(EB)、リファンピシン(RFP)等の抗結核薬が開発され、これら薬剤の2~4種類の組みあわせによる化学療法により、多くの結核患者の菌陰性化を得られるようになりました。最近では、数種類の抗菌薬も結核治療に使用できるようになりました。

2)外科治療
 化学療法の進歩により、結核の外科治療法の適応例は、非常に少なくなりました。
 外科療法の適応となるものは、強力な化学療法を施行しても菌陰性化が見られない症例です。その他には、大量喀血、自然気胸、膿胸などを合併する患者等が適応となることがあります。


5.まとめ

 結核症は激減したとはいえ、まだ人類にとって克服された疾病ではありません。
 結核菌感染拡散の予防と、初感染結核の生涯を通じての再燃防止が最も重要な課題であることを理解して頂ければ幸いです。
 小児期に施行されるBCG接種は、初感染前に結核免疫獲得することを目的としており、その重要性に異論はありません。

No.5 咳嗽(せき)

No.5  咳嗽 がいそう (せき)

健康コラム第5回目は、 咳嗽 がいそう (せき)についてお話をしたいと思います。

1.はじめに

 咳嗽(せき)は、日常診療においてきわめて高頻度に見られる自覚症状の1つで、医療機関受診理由のうち最も多い症状の1つです。
 咳嗽は気道(呼吸の際の空気の通路)内に貯留した分泌物や、吸引された異物、あるいは気道内に発生した腫瘍などの呼吸の障害となるものを気道外に排出するための生体防御反応と考えると理解しやすいと思います。
 上記の異常状態以外にも、刺激性ガスやほこりあるいはアレルギー性物質の吸引、冷気や湿度の高い空気の吸入なども咳嗽の原因となります。これらの気管支粘膜や気管支平滑筋への機械的あるいは化学的刺激が知覚神経終末へ伝達することにより、咳嗽が発生するわけです。

2.咳嗽の分類

 咳嗽は、持続期間により3週間未満の急性咳嗽、3週間以上8週間未満の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分類されます(図1)。

図1.日本呼吸学会「咳嗽に関するガイドライン第2版」より引用図1.日本呼吸学会「咳嗽に関するガイドライン第2版」より引用

 この分類により、咳嗽の原因疾患がある程度推定できるわけです。すなわち、急性咳嗽の原因の多くは感冒を含む気道の感染症であり、持続期間が長くなるにつれて感染症の頻度は低下し、慢性咳嗽においては感染症そのものが原因となることはまれとなります。
 また咳嗽は喀痰の有無によって、喀痰を伴わない乾性咳嗽と、咳嗽のたびに喀痰を伴う湿性咳嗽とに分類されます。乾性咳嗽の治療対象が咳嗽そのもの(気道内異物、腫瘍、刺激性ガス、ほこり、アレルギー反応などに対する治療)であるのに対し、湿性咳嗽の治療対象は気道の過分泌(気道感染症、アレルギー、気管支粘膜の慢性炎症などによる)を減少させることになるわけです。

3.咳嗽の原因疾患と診断・治療

 咳嗽は、ほぼ全ての呼吸器疾患が原因となり得るばかりでなく、心不全をはじめとする心疾患もその原因となり、正確な鑑別診断がなされる必要があります。
 肺炎や肺がん、間質性肺炎、肺結核、肺塞栓症など重篤化しやすい疾患を見逃さないため、病歴においては発熱、呼吸困難、血痰、胸痛、体重減少などの有無に厳重な注意をし、胸部X線検査や喀痰検査、血液検査の炎症反応を参考にして原因疾患が確定されるべきでしょう。必要であれば胸部CT検査や気管支鏡検査が、追加施行されるべきです。

  • ①急性咳嗽
    •  急性咳嗽の原因疾患として最も頻度の高いのは、ウィルス性の普通感冒です。その他のものもほとんどが感染症で、インフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ感染症、肺炎、クラミジア感染症などであり、発熱を伴うことが多いのが共通した特徴です。鑑別されるべき疾患としては、気管支喘息、COPD、心不全などがあげられます。
    •  急性咳嗽の治療には、鎮咳・去痰薬や抗生物質、抗菌薬、抗ウィルス薬などが用いられ、効果をあげることができます。
  • ②遷延性咳嗽
    •  3週間以上継続する遷延性咳嗽では、感染症の原因として、百日咳、マイコプラズマ感染症、結核、気道感染後咳嗽などがあげられます。
    •  臨床検査として、喀痰検査、胸部X線検査、胸部CT、呼吸機能検査、血液検査などを施行し、原因疾患に応じた治療を行うことが大切です。
    •  なお、遷延性咳嗽に該当する症例の中に、次項③、慢性咳嗽症例が混入していることがあり、正確な鑑別診断がなされるべきです。
  • ③慢性咳嗽
    •  8週間以上継続する慢性咳嗽症例には、呼吸困難や胸痛、睡眠障害をきたし、日常生活に多大の支障をもたらすものもあります。
    •  原因疾患は表1に示されるように、各種呼吸器疾患や副鼻腔気管支症候群(膿の気管支への流入による気管支拡張症発症)、逆流性食道炎(胃液の胃食道逆流による喉頭刺激性咳嗽)、降圧薬(ACE阻害薬)副作用としての乾性咳嗽等々があります。
    •  確定診断がつけば、表1の治療の頃に示されている対応により良好な治療効果を得ることができます。

表1.慢性咳嗽の鑑別診断と治療

      

   病        歴

   検      査

      

  気管支喘息

  家  族  歴

  喘鳴聴取

  呼吸機能

  ステロイド吸入 他

  慢性気管支炎

  喫     煙

  喀痰検査

  X線検査 

  禁煙,気管支拡張薬

  咳喘息

  アトピー素因

  アレルゲンテスト

  呼吸音聴診

  呼吸機能 

  B2刺激薬

  アトピー咳嗽

  アトピー素因

  呼吸機能 

  抗アレルギー薬

  ステロイド吸入 

  肺がん

  血     痰

  喀痰細胞診

  気管支鏡検査 

  手術

  放射線治療

  化学療法 

  副鼻腔気管支症候群

  慢性副鼻腔炎

  副鼻腔X線・CT

  マクロライド系抗生剤

  逆流性食道炎

  胃酸過多症状

  内視鏡検査 

  プロトンポンプ阻害薬

  ACE阻害降圧薬

  ACE阻害薬服用

  高血圧

  休薬,薬剤変更

  心不全

  心 臓 喘 息

  ECG

  X線検査

  心エコー検査 

  強心利尿薬

  その他

       

4.おわりに

 咳嗽は高頻度に見られる臨床症状で、場合によっては大きな苦痛をもたらすこともありますが、本稿に記しましたように適切に対処すれば多くが治癒可能な疾患でもあるわけです。
 3週間以上継続する咳嗽がある場合には、その対応に習熟している呼吸器専門医を受診されることをおすすめします。

No.4 肺がん

No.4 肺がん

健康コラム第4回目は、肺がんについてお話をしたいと思います。

1.はじめに

 日本人の肺がん死亡者数は、2011年に7万人を超えました。男性が約5万人、女性が約2万人で、日本人の全がん死亡者の20%を占めます。男性は1993年から、女性は2007年から、肺がんががん死の第1位を占めるようになりました。
 胃がん等の他のがんに比し肺がんの治癒率は低く、20~30%にすぎません。
 肺がんの発病原因には、まず喫煙があげられます。非喫煙者に対する喫煙者の肺がん発病リスクは、男性で4.5倍 女性で4.2倍です。
 喫煙以外にも石綿(アスベスト)吸引による肺がん発症は広く知られ、近年では労災認定を受けられるようになりました。
 肺がん発がん遺伝子研究も進展し、遠からず解明されることが期待されます。
 肺がんの病理組織学的分類によれば、腺がん50%、扁平上皮がん30%、小細胞がん15%、大細胞がん等が5%です。
 肺がんはその進行度により、病期0期~病期Ⅳ期の5期に分類されます。病期0~Ⅰ期の治癒率は80%以上であるのに対し、Ⅳ期の治癒率は4%以下にすぎず、早期発見が重要であることはあきらかです。

2.肺がんの発生部位分類

 肺がんの分類には、前章に記した病理組織学的分類と、がん発生部位による分類とがあります。臨床医学的には発生部位により、肺門部肺がんと肺野末梢部肺がんとに分けた分類がよく使用されます。
 肺門部肺がんは肺門部の比較的太い気管支上皮から発生する肺がんで、扁平上皮がんと小細胞がんが多くを占めます。
 肺野末梢部肺がんとは、肺胞に近い細い気管支から発生する肺がんで、腺がんが大多数を占めます。

(1)肺門部肺がん

 症例をお見せします。
 胸部正面X線像(図1a)では、心臓左縁中央部に接する腫瘍陰影(y1b.png)と、左横隔膜上に肺がんによる気管支閉塞で生じた閉塞性肺炎像(y2b.png)を認めます。
 気管支鏡検査にて、気管支を閉塞するポリープ様腫瘍(図1b)を認めます。

 切除された肺標本(図1c)では、気管支腔内に白色の肺がん(y1b.png)と、その下方に閉塞性肺炎(y2b.png)が見られます。扁平上皮がんでした。
 肺門部肺がんでは、がんにより太い気管支の狭窄や閉塞をきたすことが多く、長期にわたる咳嗽や血淡を主症状とする例が多く見られます。

n4_1as2b2.png図1a.胸部正面X線像 n4_1bs.jpg図1b.気管支鏡像 n4_1cs2b.png図1c.切除肺


(2)肺野末梢部肺がん

 近年のCT検査の普及により早期発見が飛躍的に増加した肺がんです。

 症例をお見せします。
 胸部正面X線像(図2a)と、胸部CT像(図2b)で、右肺中央部に直径1.1cm大の腫瘤状影(y1b.png)を認めます。
 切除肺の弱拡大病理標本(図2c)で、中心部の腫瘍塊と周辺肺胞へのがんの浸潤が認められます。肺線がんでした。
 肺野末梢部肺がんは早期においては無症状であることが多く、検診や他疾患観察中に撮られた胸部X線検査で発見される症例が多くみられます。

n4_2as2b.png図2a.胸部正面X線像 n4_2bs2b.png図2b.胸部CT像 n4_2cs.jpg図2c.病理標本(弱拡大)


3.治る肺がんを見つけるために

 肺がんを「治癒困難な怖いがん」と思っている方が多くおられます。
N4_3.png図3.肺がんの発育
 図3でお示しするように、肺がん細胞が1個発生してから腫瘍塊を形成する時間と腫瘍サイズとの関連は、放物線状の曲線で描かれます。この相関は肺門部肺がんでも肺野末梢部肺がんでも同様と理解していただいてよいでしょう。
 臨床的には腫瘍1.0cm以下の肺がんを胸部X線検査で発見することは困難ですが、1.0cm以上の肺がんをX線検査や気管支鏡検査で見つけることは易しいことです。
 腫瘍径2.0cm以下の肺がんは肺門・肺野両タイプの肺がんとも、リンパ節転移を認めることは稀で「治る肺がん」と言えましょう。
 腫瘍径2.0~3.0cmの肺がんでは、2.0cm以下の肺がんに比し、リンパ節転移や他臓器への血行性転移のある可能性が少し高くなります。
 腫瘍径1.0cmごとの垂線で示される時間(年)を見て下さい。X線像上認識可能な1.0cmから2.0cmまでの腫瘍径である3年程の期間、あるいは腫瘍径3.0cm以下である5年程の期間に発見すれば、肺がんは高い確率で治癒させることができるのです。
 腫瘍径3.0cm以上の肺がんは進行がんである可能性が高く治癒率も低くなります。
 「治る肺がん」の早期診断のためには、1~2年に一度胸部X線検査を受けることをおすすめします。呼吸器科専門医であれば、治癒可能な肺がんを見落とすことはありません。

No.3 COPD(慢性開塞性肺疾患) 

No.3 COPD(慢性開塞性肺疾患) 

健康コラム第3回目は、COPD(慢性開塞性肺疾患)についてお話をしたいと思います。

1.はじめに

 COPDはChronic(慢性)Obstructive(開塞性)Pulmonary(肺)Disease(疾患)の略で気管支の炎症や肺の弾力低下などにより呼吸機能が低下し息がしにくくなっていく病気です。

 COPDには、炎症が起こり気管支が狭くなる「気道病変タイプ」と酸素と二酸化炭素の交換を行う気管支の先端の肺胞がこわれる「気腫タイプ」があります。前者を慢性気管支炎(図1)、後者を肺気腫(図2)とに分類されますが、病態が同じためあわせてCOPDと呼ぶようになりました。

manseikikanshien_s.jpg(図1 慢性気管支炎) haikisyu_s.jpg(図2 肺気腫)

2.症状(図1 慢性気管支炎)

代表的な症状は、「息切れ」「せき」「たん」などですが症状からはなかなか病気であると自覚しにくく齢のせいと見過ごされてしまいがちです。

治療しないで放置すると肺機能の悪化が進行し生命にも関わる病気であるため早期の受診が大切です。

3.原因

 COPDは空気中の有害物質を吸い込むことが原因で発症します。

 かってイギリスで産業革命の起こったころ、工場から排出される粉塵をを吸入した人に「せき」や「たん」の症状を多く認め天気汚染がCOPDの原因とされた時期もありました。

 しかし現在では、最大の原因は喫煙でCOPD発症の8~9割を占め、全喫煙者の2割がCOPDを発症するといわれています。

 長年の喫煙習慣が積もってゆっくり進行するため40~50才になってから発症するケースが大半で10年以上の喫煙歴のある人や1日何十本も吸うヘビースモーカーに特に発症リスクが高くなることがわかっています。

4.治療

 一度壊された肺胞は元には戻らないためひとたびCOPDが進行すると完全に治すことはできません。

 しかし、治療・管理をしっかり行えば呼吸機能悪化の進行を緩め、生活の質を保つことは可能です。

 そのためには、まず最大の原因であるたばこをやめることが大前提となります。その上で薬物療法により息切れなどの苦しい症状を軽くし運動療法などの呼吸リハビリテーションで運動機能の低下をくい止め、残された呼吸機能を維持・増進することが重要です。

 COPDが進行し、低酸素状態になった患者さんには酸素吸入(在宅酸素療法)を施行することにより、呼吸器症状の完全と生命余後の延長が可能となります。

No.2 禁煙外来

No.2 禁煙外来

健康コラム第2回目は、禁煙外来についてお話をしたいと思います。
人類の喫煙の歴史は、1492年コロンブスのアメリカ大陸発見に始まるとされます。コロンブスは現地人の喫煙習慣をヨーロッパに持ち帰り、その後約150年で喫煙は世界中に広がりました。

 日本語の相手をいたわる言葉の「一服してください」の一服とは喫煙のことを指します。

 タバコは嗜好品として500年以上にわたり用いられてきましたが、19世紀以降の医学的研究は喫煙による心身への深刻な障害をゆるぎない根拠によって明らかにしました。この為、今日では航空機や列車やバスそれに公共施設と等々多くの場で禁煙が実施されるようになりました。

 タバコによる害は、一酸化炭素・タール・ニコチンの三者による害に割りつけて考えると理解しやすいですね。

(1)一酸化炭素による組織の酸素欠乏がおこり、心臓血管病変、皮膚、骨、胎児発育障害等の傷害を受ける。
(2)タールには、ベンゾピレン、ニトロソアミンなどの発がん物質や、砒素、カドミウムなどの有害物質が多数含まれる。
(3)ニコチンは中脳に存在する脳内報酬回路に作用し、心理的依存や身体的依存が形成され多彩な離脱症状を呈する。

 喫煙が嗜好習慣ではなく「ニコチン依存症」であるゆえんです。上記三者による障害は下記の疾病や臓器障害として発症します。

A:発がん 喉頭がん・肺がん・咽頭がん・口腔がん・食道がん・膵がん・肝がん・膀胱がん
B:循環器疾患 くも膜下逆血・脳梗塞・狭心症・心筋梗塞・大動脈瘤・閉塞性動脈硬化症
C:呼吸器疾患 肺がん・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・気管支喘息・自然気胸・間質性肺疾患
D:その他 胃潰瘍・アルツハイマー病・骨折・メタボリックシンドローム

喫煙がいかに健康を害するものかをご理解いただけたでしょうか?
 いまだに「タバコだけが悪いわけではない」という俗説があるようですがQ&Aで解説します。

  • Q.タバコで肺がんになると言われるがタバコを吸わない人で肺がんになる人もいるし、いくらタバコを吸っても肺がんにならない人もいる。タバコだけが悪いわけではないのでは?
  • A.我々人間は多くの発がん遺伝子を持っています。強い発がん遺伝子を持つ人は喫煙しなくとも発がんし、弱い発がん遺伝子を持つ人は喫煙しても発がんしないと考えられます。問題はその中間に位置する遺伝子を持つ人たちで喫煙しなければ発がん遺伝子が作動せずにすんだものを喫煙による発がん遺伝子が作動開始するものと考えられます。

(付)
 今日では、ニコチン依存症の治療薬として従来のニコチンパッチに加え経口薬パレニクリン(商品名 チャンピックス錠)も保険適用を受け、ニコチン依存症の治療が容易になりました。
当院での禁煙外来治療も可能です

No.1 気管支喘息

No.1 気管支喘息

健康コラム第1回目は、気管支喘息についてお話をしたいと思います。

 戦後60余年間に、われわれ日本人の生活環境は大きく変化しました。工業の発達や車の普及による大気汚染、機密性の高い家屋の換気不全、カーテンやカーペットのほこりやダニの発生、食品添加物や化学薬品、文明社会のもたらすストレスなどです。

 ぜんそくは、これらの生活環境因子が関連して起こる『慢性の気管支の炎症』と定義されています。生活環境因子の変化により、40年前には一般人口の1%であったぜんそく患者が、現在では約3%に増加しています。

 また、小児のみならず、あらゆる年齢層に発病します。

 ぜんそくは20数年前までは気管支のけいれんによる狭さくによって発作が起こるものだと考えられてきましたが、最近では気管支の炎症と粘液産生による気道狭さくが主体であり、これによってゼィゼィ、ヒューヒューというぜん鳴や呼吸困難をきたすと理解されています。

 現在、ぜんそくは発作の頻度や強度によって4段階に分類され、それぞれの段階に応じて対応の目安が定められています。それによると、

ステップ1( 軽症 ・ 間欠性 )
ぜん鳴、せきなどの発作が週2回以下で、日常生活に支障をきたさない段階
ステップ2( 軽症 ・ 持続性 )
発作が週2回以上で1日1回以下の段階
ステップ3(中等性・持続性 )
発作が毎日起こり、それが週2日以上続く段階
ステップ4( 重症 ・ 持続性 )
発作症状が持続し、呼吸困難のため動けなくなる段階

と分類しています。

 しかし、これはあくまでガイドラインですから自己判断せず、一度、呼吸器の専門医に相談されるほうがいいでしょう。ぜんそくの治療は、発作を抑え、健常者と同じ日常生活を送ることを目的としますが、ステップ1の場合は日々の服薬は特に必要ありません。

 ステップ2以上で、継続的な治療が必要だと診断された場合は抗炎症薬の服薬のほか、ステロイドの吸入薬を使用します。吸入ステロイドとは、ステロイドを気管支内に吸入し、炎症を鎮める治療薬です。

 これは、直接気管支内に入って作用しますから、気管支以外の身体に影響を及ぼすことは少ないといえるでしょう。

 ステロイドの経口薬は、ステップ4の激しいぜんそく発作には喘息発作には効果的ですが、一方で、全身への副作用も否定できません。具体的には、糖尿病や骨粗しょう症、結核などの感染症を患いやすくなるといわれています。ぜんそくの症状がおさまったら、少しずつステロイド経口薬からの離脱を考え、長期にわたる服用を避けるほうが望ましいでしょう。

 アレルゲン(アレルギーのもと)が分かっている場合はそれを遠ざけることはもちろん、日頃から汚れた空気の場所を避け、うがいをまめにして気道の中をきれいに保つとともに、精神的に安定した状態で毎日を過ごすように心掛けましょう。