trap


  



「あ〜ぁ、お前びしょ濡れだな」

「桃先輩だって人のコト言えないじゃないっスか」

「「「「「「「確かに」」」」」」」

 桃城を除く全員がリョーマの言葉に声を揃えて賛同すると桃城は言葉に詰まるしかなか

った。けれどそのおかげか目の前で偽物のハリボテだったが、見た目は豪華客船だったも

のが炎を勢いよくあげ、海の藻屑となろうとしているのを見てさすがに気落ちし、雰囲気

も確かに沈んでいたのが少しだけ浮上していた。

 ようやく陸地に降り立った青学レギュラーたち。

 波乱万丈な一日を過ごし疲れはピークに達しているだろうに誰も帰路に着くための一歩

を踏み出そうとしない。海上では赤々と辺り一帯をオレンジ色に染めていた夕日も沈み、

世界の支配は太陽から月へとバトンタッチをしており、辺りには闇と静寂が訪れようとし

ていた。

「明日、明後日は部活は休みだ。今日の疲れをしっかりとれ」

 解散の指揮は当然ながら手塚が取る。そしてそれを合図にようやく彼等は帰路に着くの

だった。











「ただいま〜」

「よぉ! 遅かったなチビスケ」

「すみません。家間違えました」

 そう謝罪すると開けた戸をガラガラガラときっちり締め直し、いつもは絶対にしない行

為、表札を確認したのだった。しかし、そこには「越前」とはっきり書いてあり、リョー

マが間違えているわけではなかった。

(……見間違え…だよね。うん、きっとそうだ。親父と間違えたんだ。今日はゆっくり風

呂に入って、早く寝よう!)

 自分を納得させるための理由を一生懸命考えて、必死で言い聞かせていた。そして意を

決して、もう一度戸を開けると……。

「ひっでぇ〜なぁ。お兄ちゃんの顔見るなりいきなり間違いなんてよ」

「……間違いじゃなかったんだ。で、何でここにいるわけ? アンタ夕日に向かって水上

バイク走らせてなかったっけ?」

「ん? まぁ、アレだ。途中で考えが変わったんだよ」

「余計なことを……」

「何か言ったか?」

「別に」

 態と聞こえていない振りをしているのか、本当に聞こえていないのか。微妙な態度であ

る。

「いいかげん上がってこいよ、チビスケ。でないとお兄ちゃんがお前の分も飯食っちまう

ぞ?」

「アンタが邪魔なんだよ!!」

「そうか? 悪い、悪い」

 全く悪いと思っていないように見えるのは気のせいだろうか?

 疲れて帰って来て、お腹も空いているのに、家に上がる前に更に疲労しなければならな

いなんて冗談じゃない。しかしそれが現実なのだから受け入れるしかなかった。もの凄く

不本意だが……。





「おぉ、おかえり。しっかし、遅かったなぁ。リョーガと一緒だったんだろ?」

「何で知って……って、まさか最初から!?」

 南次郎の言葉にリョーマの頭にはある推測が浮かぶ。が、次の瞬間には否定された。信

用出来るかどうかは別として……。

「んなわけあるか。俺もお前が帰ってくるまでにリョーガから聞いたんだよ」

「……」

 嘘か真かを確かめるようにジッと南次郎の瞳を睨みつける。

「信じろよ、お父様を」

「アンタの何を信じられんのさ?」

「全てに決まってんだろが」

「全て信じられない!!」

「……」

「貴方の負けね、南次郎♪」

「日頃の行いが悪いからですよおじ様」

「相変わらずなんだな〜」

「酷いわ! 皆して。南次郎ショック!!」

「「「「……」」」」

 ふざけているとしか思えない南次郎の態度に四人は白い目を彼に向けるのだった。







「は? 今何て言ったの……」

 南次郎の言葉にリョーマは食事の手を止め、聞き直すが、返る言葉は先ほどと全く同じ

もの。

「だから〜。リョーガも青学通うことになったっつーたんだよ。良かったねぇお兄ちゃん

と一緒で♪」

「聞いてねーぞ、バカ親父!」

「アラだって、決まったのさっきだものvv」

「……死ね」

「やだ〜、リョーマ君たら怖い顔。お父様はそんな子産んだ覚えはないわよ〜」

「俺もアンタから産まれた覚えはない!! 大体……」

「ハイ、そこまで! 南次郎、リョーマをからかうのもいい加減にしなさい。リョーマも

一々お父さんの言うことに反応しなくてもいいから。で、リョーガが青学に通うことはも

う決定事項なの。あなたもいい加減諦めなさい!」

「「…………はい」」

 越前家で一番の権力者は倫子である。誰も逆らうことは許されない。いや、逆らうこと

など出来ないというのが正しい表現だろう。

「良かったですね、リョーガさん。リョーマさんも納得してくれたみたいですし」

「まぁ……」

 どう見ても納得などしていない。有無を言わさず肯定させられただけだ。しかし、最高

権力者である倫子が認めいるのだから決定は覆ることはない。

 リョーガはこれからの生活を考えると楽しくて仕方がない。その表情は自然と笑みが溢

れていた。







 慌ただしかった食事をなんとか終え、リョーマは安全地帯と思われる自分の部屋にかけ

込もうとして、阻止される。

「……何?」

「これから宜しくな、チビスケvv」

「なっ!! アンタっ……」

「ごちっ♪」

 どうすることも出来なかった鬱憤を少しでもリョーガで晴らそうと振り返ったのが間違

いだった。気付けばあと数センチで触れるだろう距離にリョーガの顔があった。思わずそ

れに見惚れてしまったリョーマは避けることなど考える暇もなく、何をされたか気付いた

時にはソレはリョーマの唇から離れていたのだ。そうリョーマはリョーガに本当に一瞬だ

ったが確かに唇を奪われたのだった。

「アンタ何すんだよっ!!」

 漸く叫んだのだが、強奪犯は既に隣の部屋に消えていた……。

「母さんが認めても、俺は絶対認めないからっ!!」

 リョーマの憤怒の叫びがその夜越前家に響き渡った。









     −END−

     
   ◆◆コメント◆◆    半年以上振りのリョガリョです……。    第二弾の後すぐにUPしていく予定だったのに気付けばもう……。    しかもありがちなネタだし(-_-;)    でも、書きたかったんです!! この後のプロットも既に出来ています。    かれこれ半年ほど前に(笑)    10月くらいからケータイで書き始めて漸く完成。    次も忘れた頃にポンッとUPすると思います(^_^;)           2006.1.7 如月 水瀬   room top