その日、エドワードは急遽慌てたように朝から出掛けて行った。
何でも現在セントラルで一人暮らししている弟のアルフォンスからどうし
ても来て欲しいと電話があったのだ。
ということでリョーマは一人(+一匹)でお留守番ということになったの
だが、好奇心旺盛なリョーマが家で大人しくお留守番だけしていられるはず
がない。案の定、リョーマはお昼前には家を飛び出していた。
「カルピン、ここでいいか?」
「ほあら〜」
「そうだな。天気も良いし、絶好の錬金術日和だよな。っし!! やるか」
教えてもらったばかりの錬成陣の書き方。
基本さえ守れば図柄は術師の自由。
リョーマは思い描くまま練成陣を書いていく。
「できた! カルピン。離れてろよ」
そして以前と同じようにエドワードの錬成の仕方と全く同じように先ずは
両手を合わせ、それから地面に手を置く。
しかし、リョーマは綺麗に忘れ去っていた。エドワードからまだ術を使う
なと耳にタコができるほど忠告されたことを……。
「えっ!?」
「ほあら!!」
「危ない!!」
第三者の声が聞こえたかと思うと目の前で爆発音を発したものは真っ赤な
焔に包まれる。最初は大きかった焔だが、次第に規模は縮小し、数分もしな
いうちに跡形もなく消え失せた。
「……失敗した?」
「ああそうだね。君は一体何をしたんだね」
「アンタ誰?」
「……それは私の台詞だ。君こそ一体誰だね? しかもその服は鋼ののもの
じゃないのかい?」
「“鋼の”? ……って何スか?」
「鋼の錬金術師のことだよ」
「???」
「…………エドワード・エルリックと言えば分かるかい?」
「あぁ、エド。で、アンタは? エドの何なわけ? 俺は越前リョーマ。エ
ドの弟子!! になるのかな……一応」
「私はロイ・マスタング。国家錬金術師で、二つ名は焔の錬金術師。階級は
大佐だ」
「国家錬金術師? 二つ名? 何それ? まぁどーでもいいけどさ。で、ロ
イさんはエドの何?」
「表向き私は彼の上司だよ。で、君は彼の弟子ということらしいがいつの間
に? それに弟子がどうして彼の服を着る必要があるのかね?」
「俺が服持ってないからっス。あとお金も」
「服を持ってない?」
「そう、俺この世界の人間じゃないから♪ なんか俺よく違う世界に飛ばさ
れる体質らしくて、今回はこの世界にきたんス。で、エドに最初に会って、
その時エドが錬金術やってたから俺もやりたいと思って、今教えてもらって
るんス♪ そういえば……」
「? 何かな?」
「ロイさんはエドの上司って言ったっスよね?」
「言ったね」
「じゃあ、エドよりも強いんスよね?」
「当然じゃないか」
「俺に錬金術教えて下さい!!」
「鋼のに教えてもらっているんじゃないのか?」
「エドは一々細かいことに煩いんス!! 俺はいつ元の世界に飛ばされるか
分かんないから、早くしないといけないんスよ!! 基本が大事なことは分
かってるんスけど期限があることも確かなんス。だから……ダメ?」
(うっ……私には鋼のが。私には鋼のが。私には……。まてよ、彼に錬金術
を教えるということは彼の側にいる=鋼のの側にもいられるということだ。
一石二鳥ではないか!?)
「よかろう。但し、私の教えは鋼のよりも更に厳しいぞ」
「平気っス!! 望むところ!!」
(上手くいったなぁ〜vv 二人から学べば俺最強?)
お互いにそれぞれの思惑を胸に宿し、それを相手に気付かせないまま新た
な契約は結ばれた。
今朝早くに出発し、夜中に帰宅したエドワードを待ち受けていたものはと
んでもない決定事項だった。しかし、リョーマの暴走を止めることができな
い未熟なエドワードにはどうすることもできなかった。夜中に近所迷惑にな
ろうとも叫び、抗議するが決定は覆らない。
こうして、また一人新たな仲間がエルリック家に増えたのだった。