君という光 番外編


  





「二人とも明日あいてる?」

「当然じゃねぇか」

「当然だよ〜」

 いつものようにいつもの如くファーストフード店での会談はリョーマのこの会話から始まった。二

人はリョーマの問いにあけとくのが常識だというように答える。それもそのはず、明日はクリスマス

イブ。世間では恋人たちや家族が一緒に過ごすある一種特別な日。けれど三人にとってはそれ以外に

も、いやそんなコトよりも特別な日だった。そう、跡部と千石が何よりも大事にしている存在リョー

マの誕生日なのである。それを忘れるなど有り得ないこと。だから当然のように二人は前もってプレ

ゼントを用意していたし、リョーマに先を越されてしまったが、二人からも話を切り出すつもりだっ

た。明日の予定について。



「まぁ、知ってるとは思うけど、明日は俺の誕生日だから家でお祝いするんだ。別にしなくてもいい

って言ってるんだけど母さんが煩くてさ。逆らったら家で平穏に過ごせなくなるから仕方なく付き合

ってるけどさ……」

「そうだねぇ。倫子さんは強そうだからねぇ♪」

「……まぁそーゆーわけで、景吾とキヨも呼べっていうことなんだけど」

「もちろん行くよvv 跡部君も当然だよね?」

「あぁ」

「じゃあ、明日の昼過ぎに家に来てね」











 いつもなんだかんだと賑やかな越前家。しかし本日は昼過ぎからは更に賑やかだった。

「……あ」

「どうした?」

「ファンタがなくなった……」

「仕方ねぇ、俺が買って来てやるよ。何味がいいんだ?」

「ん〜。いいよ。景吾たちはお客さんなんだからゆっくりしてて。自分で行ってくる。母さんお金」

「はいはい。そうそう夕飯用のこれも一緒にお願いねvv」

 そう言って渡されたメモ。そこには肉、野菜などが並んでいた。

「ちょっ、これコンビニじゃ買えないじゃん」

「頑張って行って来てねvv」

 有無を言わさず締め出されたリョーマだった。確か今日はリョーマの誕生日なはず……。しかし、

母には逆らえず、足取り重く近くのスーパーに向かうのだった。

「いいんですか?」

「いいのよvv だって、わざとファンタを切らしたんですものvv」

 笑顔でさらっとリョーマが聞いたら爆発するだろう事実を述べる倫子。跡部と千石は思わず顔を引

き攣らせる。

「まだまだ甘ぇぞ、青少年。この先リョーマと付き合っていくならこんくらいで驚いてたら身がもた

ねぇぞ♪」

 そういってガハハと笑う南次郎。こんなことは日常茶飯事なのだろう。

「あはは。さすがリョーマ君のお母さんだね〜」

「…………。で、リョーマを遠ざけてまで話したいことって何ですか?」

「あら、さすがね。切り替えが早いわね。ふふ」

「おばさま、私リョーマさんの後追いますね。一人じゃ大変でしょうから。跡部さん、千石さん楽し

んで下さいねvv」

「「??」」

 菜々子の言葉は二人に疑問を残した。



「えーっと、倫子さん?」

 さすがに訳が分からず、千石は全てを知っているというか、おそらく全てを企てた張本人であろう

倫子に問いかける。

「ねぇ、二人とも。リョーマのこともっと知りたくない?」

「「もちろん(です♪)」」

「そうよねvv リョーマが今よりもまだ小さい時の話とか聞きたいでしょ?」

「「是非!!」」

 二人の心は正しく同調していた。

(さすがだなぁ〜倫子の奴)

 と南次郎は三人の傍観を決めていた。

「私たちが日本に来たのはリョーマの中学進級に合わせてなのだけれど、それまではアメリカにいた

の。………………次はねぇ。そう、まだあの子が5才くらいの時に南次郎の親戚の子どもを預かるこ

とになったの。名前はリョーガって言ってね、リョーマより2つ年上、跡部君と千石君と同じ年齢だ

ったわ。二人は顔立ちも良く似ていて本当の兄弟のようだったわ。見た目だけは」

「見た目だけなんですか?」

「そう、見た目だけはねvv といっても仲が凄く悪いわけじゃなかったんだけど、ほら、あの子あー

ゆー性格でしょう? だから何をするにしても負けたくなかったのよね。小さい時の2つ差って凄く

大きいけど、リョーマはそれでも負けたくなかったの。だからいつもリョーガに喰ってかかっていく

んだけど、リョーガは当時にしては妙に達観した子どもだったから軽くあしらってたのよね。それで

リョーマが拗ねたり、泣いたりで大変だったわぁvv」

((見たかった……))

 もの凄く楽しそうにリョーマの過去を語る倫子。跡部と千石は羨ましくて仕方なかったというのが

正直な感想だった。けれどお土産も貰ったことだし、過去のことを今更嘆いてもどうにもならない。

これからたくさんのことを三人で経験していけばいいのだ。時間は無限ではないが、少なくとも三人

にとってはまだ十分あるのだから。







「ただいま……って何してんのさ!?」

 リョーマの目は跡部、千石の手の中にある物に釘付けとなった。

「おかえり〜、リョーマ君♪」

「遅かったな。ちゃんと買えたのか?」

「お帰りなさいリョーマ。ご苦労様vv」

 明るくにこやかに返される労いの言葉。それとは反対にリョーマの気分は沈んでいく。

「…………ソレ」

「コレ? さっき倫子さんに貰ったんだよ♪ ね、跡部君?」

「あぁ」

「……返して」

「「?」」

 俯いた状態での小さな呟きは二人には聞こえていない。

「返せって言ってんだよ!!」

「えぇ〜〜。ヤダよ」

「これは倫子さんから貰ったんだ。リョーマに返せと言われる筋合いはねぇな」

 リョーマが爆発してまでも取り返したいもの。

 二人がリョーマの言うことに反発してまでも欲しいもの。

 それは……。



「リョーマ」

「何?」

「これはわざわざ来てくれた二人に対するお礼なの。私からのね。分かるわね?」

「……」

「分かるわねvv」

「…………もう寝る!」

 内心では分かってたまるか!!と思っていても実際には言葉に出来ない。

 したら最後どうなるか……。

 なのでリョーマは返事をせず、自分の部屋に逃げ込むのだった。

「まだまだねvv」

 息子をからかって楽しむ母親。やはり彼女はこの家で最強だった。

「俺たちもリョーマの部屋に行きます」

「あら、もう?」

「ほっといたらリョーマ君が可愛そうですし、俺たちも本来の目的を果たさないと今日来た意味がな

いですから♪」

「そうだったわね。今日はあの子の誕生日ですものね」

「はい。では、失礼します」

 倫子に退室の挨拶をすると二人はリョーマの部屋へと移動した。











「「リョーマ(君)」」

 コンコンとノックをして、一応声をかけると返事は聞かずにドアを開けた。そこにはやはり不貞腐

れているリョーマがベッドに寝転がっていた。

「……何しに来たのさ」

 その声は怒っている以外にどう取ればいいのか分からないほど冷たいものだった。

「いつまで不貞腐れてんだ? あーん?」

「うっさい!!」

「リョーマ君。倫子さんも悪気があったわけじゃ……」

「母さんはただ俺で遊びたいだけだろ!!」

 ご尤もですと千石は思わず口に出そうとしたが、跡部の手によってそれは防がれた。

「いい加減に機嫌直さねぇとプレゼントやんねぇぞ」

「! ……あったんだ」

「トーゼンでしょ!! 今日は大事なリョーマ君の誕生日なんだから♪」

 塞がれていた手から逃れ、千石は会話に割り込んだ。

「それにしては扱いが酷いと思うのは気のせいなわけ?」

「気のせいだろ? ったく、手間かけさせんじゃねぇよ」

 言いながらリョーマの機嫌が浮上していることに気付いている跡部はベッドに遠慮なく腰掛けた。

千石はもっと強引にベッドの上に乗りあがった。全く以って微妙に息の合った素早い行動で、リョー

マには止める隙さえ与えない。

「誕生日おめでとうリョーマ君vv」

「おめでとうリョーマ」

 二人から同時に祝いの言葉を述べられ、更に同時に同じような手の平に乗る小さい、けれど綺麗に

包装されたものが差し出された。

「ありがとう、景吾。キヨ。開けてもいい?」

「あぁ」

「もちろん♪」

 了承を得るとリョーマは綺麗に包装紙を剥がしていく。そこから現れたのは黒のベルベットの布で

シンプルに装飾された小箱。所謂アクセサリーが入れられる箱だった。慎重に開けられた小箱の中に

は小さな宝玉が付いたシンプルなピアスが納まっていた。けれどそれは……

「ピアス……だよね? 何で一つ??」

 そう、ピアスは一つしか入っていなかった。リョーマが首を傾げるのは当然だ。普通は二対で一つ

なのだから。

「もう一つあるだろ?」

 跡部に促されリョーマはもう一つの小箱を手に取り、これもまた慎重に開けた。そこには先ほどの

ピアスと全く同じものがやはり一つ納まっていた。

「何でいちいち分けてんの?」

 リョーマには何故分けられているのかがどうしても分からない。

「その石の色分かる?」

「……青みのある灰色…ブルーグレーだよね?」

「あぁ。青灰色だ」

「あれ? それって……」

 リョーマには聞き覚えのある単語だった。少し前突然飛ばされた国で予言の中にあった単語。そこ

でリョーマは何故かその予言の人物に間違えられ殺されそうになったのだ。忘れたくても忘れられな

い。

「青灰色はリョーマ君にとってとても大事な色。そしてこれからも危険がないとは言い切れないから、

この小さな石に僕たちの力を込めたんだ。あって欲しくはないけど、もし僕たちがリョーマ君の傍に

いられない時に危険が迫ったら、少しでもリョーマ君を護ってくれるように」

「俺たちの力は本来は反発し合う属性だ。だから一緒には力を入れることは出来ない。が、別々にな

ら可能だ。俺からのには氷の力が、千石からのには炎の力が込められている。きっとお前の護りにな

るはずだ」

「うん。サンクスvv 景吾。キヨ」

 天使の笑顔でお礼を言い、更にそれぞれの頬にキスを贈るのだった。











 次の日からリョーマの耳には青灰色のピアスが付けられ、青学のレギュラー陣に質問攻めに遭った

が、頑として口を割らなかった。

 それが更に厄介な人物たちに火をつけるとも知らずに……。












      ◆◆コメント◆◆
       ……スイマセン(>_<)
       おもいっきり誕生日過ぎてます。
       でも、誕生日SSなのです!!(死)
       ちゃんと誕生日までには書き上げてました。これだけは!!
       
       本当はこれの前にもう一つ番外編を書く予定だったのですが
       管理人がどうしようもないため誕生日が先にUPすることになりました。
       この話も書きたかった話の一つです♪
       二人の力を込めたピアスを贈るというのは、
       跡部たちの世界(リョーマの世界でもあるのですが……)へ
       行く前にどうしても入れておきたかったので、
       今回誕生日ということもあり番外編で書いてみましたvv
       楽しかったです。とてもvv
       倫子ママ最強ですvv 誰も逆らえません(笑)
       
       感想とか頂けると励みになります。
       どうぞよろしくですm(_ _)m
       

             2005.12.28  如月 水瀬