どれくらいの刻が動いたのか。
とても長い刻かもしれない、反対にほんの一瞬だったのかもしれない。
沈黙はリョーマからの行動により破られた。
「話ってなんスか?」
立ち上がると睨みつけるように不二を見る。けれどその瞳には佐伯の言うとおりどこ
か不安の色が混じっているのが、今の不二にははっきりと見て取れた。
(ああ、本当だ……。僕はちゃんと君のことを見ていなかったんだね)
不二の身体は勝手に動いていた。そして、優しくけれどしっかりとリョーマの身体を
抱きしめていた。
「ちょっ!? 何……」
「ごめんね。本当にごめん。僕はリョーマ君の気持ちを全く分かっていなかった。うう
ん、もしかしたら逃げてたのかもしれない。アイツのことを言い訳にして……」
「……」
突然胸に抱きしめられ、抵抗しようとすると謝罪の言葉。リョーマは一切の抵抗もせ
ず、言葉の中には疑問に思う単語もいくつかあったが、静かに不二の言葉を聞いていた。
取りあえず今は。
「リョーマ君、僕は本当に心から君のことが好きだよ。君は信じてくれないかもしれな
いけれど、一目惚れなんだ。僕自身も最初は信じられなかった。興味を持ったきっかけ
は英二と桃、覚えてるかな? 宇治の別荘にいた僕の幼馴染兼乳兄弟の彼らを」
コクンと軽く頷いて返事をする。
「その彼らの言葉だった。けれど実際会って、そして半ば無理矢理だったけれど一緒に
暮らして、もっともっと君のことが好きになった。今もその気持ちは成長し続けてる。
新しい君を発見するたびにね。だから君には君本来の自由な君を見せて欲しい。それが
僕の本当の気持ち」
自分の気持ちを告白すると不二はいつになく鼓動の早い心臓を落ち着かせるために深
い深呼吸を一つ。
リョーマもいまだ沈黙を守っている。
「……やっぱり僕の言葉は信用できない?」
その声は恐る恐るという感じだった。
「……自由でいていいなら、なんで外に出ちゃダメなわけ? “アイツ”って誰なんス
か? どうしてそれが俺に関係あるわけ? ホントに俺が好きなら、大事なら隠し事ば
っかりじゃなくて俺にも少しは話してくれてもいいんじゃないんスか? じゃなきゃ信
用なんか絶対出来ない!!」
「うん、そうだよね。ごめん。でもこれは僕の問題だと思ったからリョーマ君に迷惑か
けられないと思ったんだ。それが間違いだったんだよね。これからは何かあったら必ず
君にもちゃんと話すから。戻ってきて欲しい。お願いリョーマ君」
「……絶対話してよ」
「うん」
「それから、俺の嫌がることもしないでよ」
「嫌がること?」
「……っ。アンタが毎日毎日俺にすることだよ!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶリョーマに不二はわざと分からない振りをしている。
リョーマも不二が気付かないはずはないと分かってはいるが、どうしても叫ばずには
いられなかった。不二のいいように操られている……。
「……ああ、アレね」
白々しく呟く不二に忘れかけた殺意が心の深淵から甦ってくる。
守り刀が手にあれば確実にそれで切り捨てていただろう。
リョーマの様子に気付きながらも不二が返した言葉は懲りていないのか殺気を増長さ
せるもの。
「アレだけは譲れないよ。さすがの僕でもvv だって、じゃないとどうやって愛を確
かめあうの? あの行為が一番手っ取り早いんだから」
「別にあんなの必要ないっス!!」
「えぇ、何いってるの? そんなのは僕が絶対に許さないよ。他のことは譲ってもコレ
だけは絶対に譲れないよ。というかね、それを禁止させられたら僕本当に何をするか分
からないよ? きっとリョーマ君が足りなくなって、僕の側から一歩たりとも離さずに、
また誰にも会わせない。もちろん女房たちにもねv 部屋の奥に監禁して、そこから絶
対に出さないと思うよv 僕としてはそれでもいいけど、リョーマ君はどうしたい?」
「…………」
どうしたいと尋ねられてはいるが、リョーマにとっては拒否したいものしかない。そ
れでどう答えろというのか。
「どちらも遠……」
「全部拒否するのは認めないから♪」
一応自分の本心を言ってみようとしたが見事に先手を打たれ、言葉は宙に消えた。
「っっ……全部アンタしかいい思いしてないじゃん!! やっぱ絶対戻んない!! 俺
は旅に出るんだ!!!」
怒りは頂点に達し、熱く煮えたぎったマグマは遂に噴火した。
最初に戻ったのである。
今までの長い時間は全て無駄だったのだろうか?
「毎日しようとは言わないよ。だから、七日に一度くらいならいいでしょ?」
「…………月に一度」
何とか少しでも負担を減らそうと交渉に精を出す。
その表情は本当に必死である。
「じゃあ、半月に一度。これ以上は譲れないよ。これでもまだ駄々をこねるのなら、さ
っきの言葉実行するから」
しっかり脅し付け加える不二にリョーマは不満たっぷりだが頷くしかなかった。
「……………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
…わかったっス。でも、アンタ絶対おかしい」
「? 何が」
「そーゆー行為ってお互いの気持ち確認してからじゃないの?」
「でも、リョーマ君僕のこと嫌いじゃないでしょ? 本当に嫌なら、君ならとっくの昔
に御所出てるだろうし、東宮といえども僕も無事じゃいられないと思うんだけど、間違
ってる?」
「っ!? …………否定は…しないっス。でも、アンタのこと好きでもないから!!」
好きではない!と主張するも、不二の言葉に先ほど意識しだした自分の感情を思い出
したリョーマは顔を紅潮させているため、言葉は意味をなさない。反対に肯定している
ようなものだ。また、一番初めに会った時は確かにリョーマは自分は本当は女ではなく
男だと断る理由としては最もなことをはっきりと述べていたにも拘らず、現在ではその
ことは頭にないのか、不二に言葉巧みに言い含められたのか触れられることはなかった。
暴露すれば常識からというか世継の問題から考えて、なんとかなるかもしれないという
のに……。けれど必死のリョーマはそれに全く気付かない。
(やっぱり可愛いなぁvv 絶対アイツには、ううん、誰にも渡せないよね)
不二はというとリョーマは絶対に側から離さないと自分に再確認していた。
「佐伯」
「無事仲直りしたみたいだね」
「当然でしょ」
「……まあ、一応」
問いに対する答えは予想していた通り、正反対のものだった。佐伯からは当然の如く
笑みが零れていた。
「気を付けて帰ってね」
「それは馬鹿なことを考える連中に言ってもらわないと」
「……ああ、確かに」
リョーマと仲直りし、御所に帰るという段階になると、来た時とは打って変わって不
二の表情は穏やかなもので、佐伯と従兄弟らしく談笑している。
そんな二人を少し冷めた目で見つめるリョーマは自分が早まったことをしたのではな
いかと後悔し始めていた。
(……おやおや。仕方ないなぁ)
「不二、ちょっといい?」
「嫌vv」
「……」
「……嘘だよ。で、何?」
何かを不二に告げると、不二はちょっと行ってくるねとリョーマを佐伯に任せて、こ
の場を離れた。
「……」
リョーマの目は不二の後ろ姿を見つめている。
「言いたいことはちゃんと言わなきゃダメだよ」
リョーマは驚いたように佐伯の顔を振り返り何で?と見つめる。
「ほんと、君は言葉にしなくてもその大きな瞳が全て語ってるね」
「そうっスか?」
憮然とした物言いに佐伯は優しい笑みを浮かべながらきっぱりと肯定した。
「そうだよ。で、最初に戻すけど我慢し過ぎは良くないよ。だから、もし何かあったら、
話を聞いて欲しかったら遠慮しないでいつでも自分のところに来るといいよ」
「え?」
「厄介な従兄弟がお世話になってるからね」
「ありがと。佐伯さん」
ここに来て初めて見せた心からの笑顔。それはそれは綺麗なものだった。不二ですら
もほんの数回見たことあるのかないのか定かではない貴重な笑顔を奇跡的に、いや佐伯
の人柄からみて必然ともいえるだろうか――とにかくその貴重な笑顔を見ることができ
た佐伯は固まってしまった。不二がかえってくる時には復活して、不二に失態を見せる
ことはなかったが。
こうして、あの不二から冷静さを奪い、他人の前では表情を崩さない彼を見事に粉砕
した東宮妃家出騒動は、なんとか無事?解決に至った。
二人が真の夫婦になるのはまだまだ先だが、今回の件で少し、ほんの少しだが二人の
距離が縮まったのは確実だろう。これからも騒動は納まることなく、逆に更に周りを巻
き込んでヒートアップしていきそうだが、なんとかなるのではないでしょうか?
……おそらく………………
そして、佐伯の屋敷には頻繁に見目の良い牛飼い童が出入りしているらしい。
―― 第二部完 ――
room top
◆◆コメント◆◆
やっと終わりました♪
第二部無事完結です♪(←え!?)
ということで、上記の通り番外編から第二部に
題名変わりました(死)
すいませんm(__)m
嫌な予感が当たってしまいました……
それもこれも不二様が暴走して、余計なことを暴露したから!!
全くなんて迷惑な!!(怒)
サエですが、この後リョーマの兄的な存在になります。
寧ろ不二よりも懐くのではないでしょうか(笑)
管理人の中では、この設定の中で不二に唯一対抗できる存在
なのですが、表現力の乏しい管理人には本文中に入れれず
ここで言い訳させて頂きます……(死)
さて、話は変わりまして、
おそらく第三部書くことになる確率が高いです。はい。
まあ、また時間を置くことにはなると思いますが、
自分で自分の首絞めてどうするんだろう?
想像力はない。文章力もない。書くのは遅い。
なのに書きたい話はたくさん……
頑張ります。精一杯!!!
一先ず、ここまでお付き合い頂いてありがとうございました。
2005.06.26 如月水瀬