それは本当に偶然だった。
偶々ダブルスのパートナーである鳳が、せっかくの誕生日だからとどこかへ遊びに行き
ましょうと言われ、特に先約があったわけではなかったため了承しただけだった。
それがあんなコトになるなんて……。
「どこへ行きます? 宍戸さん」
ブラブラと街を歩きながら、何も決めていなかった本日の予定を決める。
「そうだな。見たい映画があるんだが構わないか? 長太郎が嫌なら辞めるが……」
「映画ですか? いいですね。そう言えば最近は見に行ってなかったですからね」
意見が一致したことで先ずは映画に決定。
「で、宍戸さんは何が見たいんですか?」
「あぁ、アレだ」
タイミング良く目の前に映画館が現れ、今話題の映画が大きく看板に取り上げられてい
るその作品を指す。それは江戸時代の忍者たちの一族存亡を賭けた戦いの話。始まって約
一月ほど経過しているため、チケット販売所には長蛇とはいかないが、やはり休日という
こともあり結構な列が出来ている。
これではいい席は取れないかもしれない。次回の分にするか、多少は見にくいかもしれ
ないが今回の分を見るか二人は悩む。
「もしかして氷帝のダブルス1の人たち?」
「そういうお前は青学の越前リョーマ」
「おはようございます、越前君。越前君も映画見に来たんですか?」
「そうっス。アレ見に来たんス」
リョーマが指した先にはやはり宍戸が指したものと同じ看板。
「へぇ〜、奇遇だな。俺たちも同じやつ見に来たんだ。だが、人が多いからな、どうしよ
うかと思ってな……」
「コレ、要るっスか?」
ヒラヒラと差し出されたものは映画のチケット。しかも良くみると席は真ん中辺りの一
番見易いとされる場所だった。
「いいんですか?」
「誰か、青学の奴等と待ち合わせしてんじゃねーのか?」
「別に。コレは母さんと従姉妹の分なんスけど、二人とも急な用事が出来たから。貰って
くれると助かるっス。勿体ないでしょ?」
「じゃあ、お言葉に甘えましょうか宍戸さん?」
「でもな、長太郎……」
「勿論ただで貰うんではなくて売って貰うんですよ」
「あぁ」
その言葉で漸く宍戸は納得した。
「じゃあ宍戸さんの分は誕生日なんで俺が払いますね? はい越前君」
差し出された二枚のお札。けれどリョーマは受け取ろうとしない。
「越前君?」
「……アンタ今日誕生日なの?」
視線は宍戸に注がれている。
伺うように首を微かに傾げるさまは何とも言えないほど可愛らしかった。
宍戸は無意識に視線を反らし、頬は僅かに紅い。
「正確には今日じゃねぇがな……」
「ふ〜ん。じゃあいらない」
「あ?」
「え?」
宍戸と鳳の声が綺麗に重なる。
「だから、チケット代いらないって言ってるんスよ。誕生日なんでしょ? だから奢りっ
ス。一人で見るのもいいですけど、俺今日一日フリーなんで一緒に遊びましょ? ダメっ
スか?」
「「……」」
無言で見つめ合いアイコンタクトを交す二人。さすがコンビを組んでいるだけある。
「これも何かの縁だ。一緒に見るか」
「決まりっスね」
それから三人は話題の映画を存分に楽しみ、お昼を食べながら感想を言い合った。その
後はボーリングをして、最後はなんとなく初めて会ったストリートテニスコートに足を運
んだ。リョーマがいるからこそのコース。
三人という中途半端な数なため、2対1での打ち合い。試合ではないため、ラリーは続
く。今、この瞬間だけはポイントを取るよりもいつまでも続けていたいという気持ちが強
かった。こんな偶然は次あるかどうか分からない。あったとしても他に余計なおまけが付
いているかもしれない。二人の気持ちはお互い気付かないが同じだった。
それに気付いたのはどれくらい続いた後だろうか?
一瞬だけ気を反らした鳳は気付いてしまったのだ。
考える必要はない。タイミング的にも頃合い。
「宍戸さん。越前君」
「「?」」
「俺、今日は親に早く帰ってこいって言われてたの忘れてました。だからお先に失礼しま
すね」
そう言って鳳は振り向くことなく帰って行った。
残された二人の間には沈黙が流れる。仕方ないだろう。ライバル校同士であり、まとも
に喋ったのは今日が初めて。更に二人とも自分から進んで喋る方ではないのだ。
沈黙は当然。
「……帰るか?」
「そっスね」
二人取り残されて、漸くした会話は別れの合図だった。否やを唱える口は二人にはやは
りない。暗黙の了解の如く宍戸はリョーマを送るつもりらしい。帰る道を聞くだけの会話
をしながら静かに帰途につく。
「越前?」
角を曲がればすぐに家という所でリョーマは足を止めた。
「もう、すぐそこっス。ありがとうございました。本当は反対なのかもしれないっスけど
ね」
「別に。映画奢って貰ったしな。それもほぼ初対面に近いのにな」
「それもそっスね」
忘れてたとばかりに苦笑すると、宍戸もつられるように微かに笑う。
「……なんかアンタの鳳さん以外に向ける笑顔初めて見たかも」
「ちょっ!? 誤解すんなよ! アイツはただの後輩だ。犬にも見えるがな」
「あ〜〜、うん。なんかそんな感じ。大型犬?」
「あぁ。だから変な意味に誤解すんじゃねーぞ!」
「? 何で俺にそんなしつこくゆーんスか?」
「…………」
「え?」
あまりにも小さいがため、リョーマの耳には届かなかった。
聞き返すと、宍戸は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「誤解されたくねーんだよ! お前が好きだから!!」
「…………///」
言葉を理解した瞬間、リョーマの顔も宍戸に負けず劣らず熟れたトマトのように真っ赤
に染まった。
「……」
「……」
「……頼む、何か言ってくれ…………」
沈黙に耐えきれず勢いで告白してしまった宍戸が先に根をあげる。
「……」
「……おい」
「……俺もスキ」
「え? あっ、おい!?」
止める間もなくリョーマは走り去ってしまった。
暫くその場で固まってしまった宍戸だったが、いつまでもここにいても仕方ないため、
自身も帰途につく。
「期待してもいいんだよな……?」
微かに耳にしたのは自分に都合の言い幻聴だったのか。それとも……
次の日。
部活を終えて門を出ようとした氷帝レギュラーの前にライバル校の青学の制服を着た小
柄な見目麗しい少年が待ち伏せしていたのだった。
◆◆コメント◆◆
亮ちゃん誕生日オメデト〜vv
まさか自分が宍戸リョを書くとは思ってませんでした。
本当に。
書きたいなぁとは思っても、管理人が書くと
亮ちゃんのイメージが崩れるんじゃないかと……
それでも、書いてしまいましたがどうなんでしょうか?
こんなん宍戸じゃねーよ!!
と非難の声がたくさん返ってきそうです(>_<)
でも、管理人は一応満足してます(死)
なので怖いもの知らずでUPしました〜♪
感想とか頂けると泣いて喜びますので、どうぞ宜しくです。
2005.09.29 如月水瀬