マニキュア


  


『明日は、オレの家に朝10時に集合な!』





 自分の返事も聞かずケータイを切った相手に文句を言おうも、既にケータイは切れている。

「…………」

 掛け直すのも、メールを打つのも面倒だと思い、仕方なしに恋人・丸井ブン太の要求を飲んでやる

ことにし、本日はもうお休みモードに入ることを決めたリョーマだった。

 但し、明日のデートは全て丸井に奢らせてやる!!と心に誓って。











「おう、いらっしゃいリョーマ!! 早く入ってこいよ」

 チャイムを押そうとした瞬間、計ったように玄関から顔を覗かせた丸井にリョーマの手は空中で止

まってしまった。

「……ハァ」

 深い深い溜め息をつくと、リョーマは足取り重く歩きだした。

 玄関に入ると、ニコニコと楽しそうな丸井が待っていた。

 いつもリョーマと会う時は楽しそうな表情をしているのだが、本日はいつも以上。



(……ヤな予感…………)



 入るのを思わず躊躇すると、すかさず丸井の声が飛んでくる。

「何してんだよリョーマ。リョーマの好きなファンタも冷えてるぜ。新発売のヤツだ♪」

「お邪魔するっス」

 賄賂によりすぐに陥落したリョーマだった。

「オレの部屋、先に行ってろよ。ファンタとお菓子用意してくっから」

「うん」

 勝手知ったる第二の我が家。

 リョーマは玄関をあがってしまうと後は遠慮なく行動するのだった。











「お待たせぃ」

 片手にジュースと山のように積まれたお菓子を乗せたお盆を持った丸井がドアを開けると、リョー

マは彼のベッドに寝っ転がり、テニス雑誌を楽しそうに読んでいた。

 丸井が入ってきたことにも気付いているのか、いないのか……。

 部屋の真ん中辺りにあるテーブルにお盆をそっと置くと、リョーマを観察し始めた。

 そして、これからすることを考えると自然と笑みが浮かんでくるのだった。



(普通の日なら絶対断られて、すねられんだろーなぁ。でも今日はオレの誕生日だし、ちょっとぐら

いおねだりしてもバチはあたんねーよなぁ)



 そう、今日4月20日は丸井の誕生日なのである。







「面白かったか?」

「まぁ」

「そうかよ。ファンタ温くなるぜ」

「あっ!? 忘れてた」

 大好きなファンタを忘れるほど、集中していたというのに、感想は素っ気無い。

 リョーマらしくて苦笑するしかなかった。

「なぁなぁ、今日さぁ」

「ナニ?」

「実はオレの誕生日なんだぜぃ!」

「……聞いてないからプレゼントなんてないよ?」

 当然のように答える。

「うん、だから、今日一日オレのゆーコト聞いてくれ! ダメか?」

 不安を交えた瞳で少し首を傾げた状態でリョーマにねだる。

「…………」

「…………(ドキドキドキ)」

「…………仕方ないからきいてあげる。でも今日一日だけだからね!」

「おう! じゃあ早速だけどさ、両手出して」

「?」

「違う、違う」

 言われた通り素直に両手を出すと、丸井からは違うと言われ手のこうを上に向けられた。

 するとどこからか爪用のヤスリを取り出し、リョーマの爪の長さと形を綺麗に整えていく。その手

際は見事なものだ。あっという間に見違えるほど綺麗になった。

「よしっ! どうだ?」

「どうって?」

 一体丸井が何をしたいのかまだ分かっていないリョーマだった。

「爪の長さとか形だよ。もっと丸い方がいいとか、とがってる方がいいとか何かないか?」

「別にこれでいいけど、ブン太は何がしたいわけ?」

 首を傾げ、心底不思議そうな表情で尋ねるリョーマはそれはもう可愛いかった。

 そしてこれから自分がするコトを加えればもっと可愛くなるだろう。

 機嫌はどんどん好くなっていく。







「ブン太!」

 考えに集中していて、自分の質問に答えない丸井に対してリョーマが大きな声をあげた。

「ゴメン、ゴメン。あのな、マニキュア塗るんだぜぃ」

「は? 今なんていったの?」

「だから、マニキュア塗るんだ。で、乾いたらこの服に着替えてデートするんだぞぃ」

 またもや、どこからともなく取り出した服。真っ白のノースリーブのワンピースにデニムのレース

とリボンが施されたジャケット。それはどこからどう見てもスカート、つまり女の子が着る服だった。

「っ!? 何考えてんだよ!!」

「もちろん、リョーマとデートに決まってんじゃん♪」

「だったら何でそんな服着なきゃなんないんだ! 俺はれっきとした男だ! 絶対に着ないから!!」

「約束破るのか?」

「そんな服着るなんて分かってたら、約束なんてしなかった!」

「でも、ちゃんと了承したよな?」

「っ!?」

「今日だけでいいからさ。なっ、お願いだ!」

「……………………………………全部ブン太の奢りだからね」

「!? おう!」







 リョーマの了承を得ると丸井は嬉々として、続きに取り掛かる。

 丁寧に、けれど手際良く一つ一つ綺麗に塗っていく。最後にシルバーのラメ入りのトップコートを

塗って完成。

「出来たぜぃ!」

「……綺麗…かも……」

 薄いピンク色に塗られた形の良い自分の爪を見つめふと感想を漏らす。

「だろ?」

 誇らしげに返事をする丸井だった。

「後はコレに着替えたら完璧だぜぃ」

 一度躊躇するも了承してしまったし、今日はどうやら一応恋人である丸井の誕生日なので、丸井か

ら服を受け取ると隣の部屋で着替えるのだった。











「うわぁ〜。スッゲー似合う! 可愛いいvv リョーマ最高だぜぃ♪」

 力一杯抱き締め叫ぶとリョーマは顔を真っ赤にしていた。



(誕生日だし…………いいよね?)



 自分自身に問いかけると、





「HappyBirthday! ブン太vv」

 綺麗な英語とともにキスを贈ったのだった。











 その後、予定通り二人はデートをし、あまりの可愛さにリョーマは行く所々で注目を集めていたと

いう。
















   ◆◆コメント◆◆       誕生日おめでとう! ブン太。       ネタはつい最近、相方とネイルケアした時に思いつきました。       リョーマを女の子にしようかどうか迷ったのですが、結局男の子のままにしました!       どこにキスしたかは想像にお任せします♪       お好きな所をどうぞ。         2005.04.20 如月 水瀬