短いからこそ、愛しい時代がある。少しでも君が多く笑えますように……




   炭酸少年



   
「あのさあのさ、イルカ先生。」
「なんだ、ナルト?」
愛しい元教え子の問いかけに、イルカは鍋をかき回す手を止めて振り向いた。
「…慰霊祭行かなくていいのかってばよ。」
「大丈夫だ。俺なんか行かなくても、儀式は滞りなく進むし、俺一人サボったって、気づかれやしないよ。」
それってばカカシ先生のセリフみたいだってば、と少しげんなりしたようにひとりごちるナルトに苦笑して イルカはコンロの火を止め、ナルトの元に行き、髪をクシャクシャとなでてやった。
「今日は、お前の誕生日だろうが。もっと嬉しそうにしてろ。」
そう、今日はナルトの誕生日。それは同時に里に災いが起こった日。毎年この日には夕方から夜にかけて大掛 かりな慰霊祭が行われる。以前とは異なり、自分に九尾が封印されていることを知ったナルトは朝から心持ち 沈んだ様子でイルカの家で過ごしていた。
「先生もお参り行きたいんじゃないのか?」
毎年誕生日をイルカの家で過ごしてきたナルトは、イルカの両親が九尾によって散ったことを知った。
「俺は夜中に行くからいいんだよ。お前を祝ってやるのが先なの!」
にっこりと笑いながら再びナルトの髪をなでてやると、やっと安心したのかナルトは満面の笑みを浮かべた。
「せんせー!今日の晩御飯何?」
「んー?ハンバーグだよ。」
たまにはラーメン以外の食事で祝うのもいいだろ、と言うとナルトは嬉しそうに笑った。実際にハンバーグだと小 さく刻んだ野菜も入れられるので重宝する。
「へへへ、オレがこねてもいい?」
好奇心満々で手伝い始めたナルトを見て、イルカはその切り替わりの早さに苦笑した。
ナルトがアカデミーに上がり、自分になついてから、イルカは毎年この日は一日中、ナルトを自分のアパートに連れて 来て共に過ごしていた。悲しみを思い出した里人に何をされるか分からないからだ。そして祝ってもらえない悲しみを 知っていたからでもある。
俺は、やっぱり甘いのかな。そう思いながらイルカが苦笑し、窓から外を見やる。さすがに秋となれば日の暮れ方も早く 辺りは薄暗くなっていた。窓の外からでも慰霊の灯火が慰霊碑のある丘を中心に、数多く置かれているのが見えた。
それはまさに幻想的な雰囲気で、昔の惨劇を思い起こさせる灯りとして一役買っていた。

突然、イルカの家の呼び鈴が鳴った。こんな日に誰が来るというのだろう。不審に思いながらも、ナルトに調理をまかせ、 イルカは応対に出た。
「どちらさまですか……と、サ、サクラ? サスケも?」
驚くイルカの前に立っていたのは、ナルトと同じ7班のサクラと、少し顔をしかめながらも律義に頭を下げるサスケだった。
「えっサクラちゃん?」
聞きつけたナルトが玄関に出てきた。
「えへへ。今日はナルトの誕生日なんでしょ。感謝しなさいよ。サスケ君と一緒にお祝いに来てあげたわよ。お参りの続き に来たからプレゼントが無くてごめんね。」
彼女らしいややそっけない言い方ではあるが、表情はとても柔らかで、いつものナルトを叱り飛ばしている時とは少し違っていた。
「サスケまで…」
ナルトの驚きようを見ると、よっぽど珍しいことのようだ。
「フン…。暇だっただけだ。」
それにサクラに引っ張られてきただけだ、と弁解気味に語るサスケは疲れた表情をしていた。きっと何かあったのだろう。
(なんだかんだでこのチーム、仲が良いんだよな)
それは彼らの元担任としてとても嬉しいことだ。
「よし、おまえらも晩御飯食べていくだろ?ナルトの誕生日祝ってやってくれ。」
イルカがにっこり笑ってそう言うと二人は頷き、家へと入っていった。
「ナルト、いい仲間を持ったな。」
二人の後ろについて、部屋に入ろうとしたナルトにそう言うと、ナルトは照れたように笑った。
「うん!俺の自慢のチームメイトだってばよ!」
 絶対サスケの前では言わないけど、と付け加えるとナルトはニシシと笑って二人の元へ飛んでいった。

   三人で騒ぎ合う姿を目で追いながら、イルカは願った。今年の誕生日は例年と違った特別な誕生日となるように。



    少し遅れましたがナルト誕生日記念です。相変わらず間に合わせられませんでした(苦)
   タイトルは自販機で発見したソーダ飲料から(一目惚れ)やや消化不足感が残りますが…
   後半である「炭酸青年」、カカイルの慰霊碑参りに続きます。
   2005 10 16 陸城水輝




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