空に祈る 自宅で次の日の授業準備をするのは毎日の日課だ。 余った紙でひこうきを折る。幼い頃に何度も折ったその形は、1分もしないうちに出来上がった。 縁側に出て紙ひこうきを飛ばした。シュッと小気味良い音を立てて、手の内から外へ滑り出していったそれはふわりと風に乗り、ゆるやかに空へと舞い上がる。 「…早く帰って来い。」 恋人も、教え子も、今は里外の重要任務に借り出されて留守だ。置いていかれることはとうの昔にわかっていたことで。 それでも何も出来ない自分がもどかしい。 「早く帰って来い。」 もう一度同じ言葉を呟いた。 ただ真っ直ぐにしか進めない紙ひこうき。それはがむしゃらに戦いに生きる彼らに似ている。 だからどうか、地に落ちる前に、風や空の気まぐれで軌道を変えて手元に戻ってくるように。 夕闇の迫った空に厳かに祈った。 同じ速さで 今日のオレは非番。珍しく五代目から呼び出されることも、悪友に絡まれることもない一日。 朝は滅多に帰らない自宅へ行って埃だらけの部屋を片付けて。 昼はイルカ先生の家へ戻って洗濯して。すでにオレの中では、イルカ先生の家が帰るべき場所になっている。 夕方、イルカ先生を職場まで迎えに行く。今日のイルカ先生の仕事場はアカデミー。 授業はとっくに終わっているけれど、宿題の採点や明日の授業の準備、教師会議など先生業は忙しい。今も多分職員室で居残っているに違いない。 そんなことをつらつらと考えながら校舎裏まで歩いていくと、見慣れた人影が立っていた。 「イルカ先生!」 いつもの里支給の忍服に、恐らく教材の詰まった黒色の布鞄。帰り支度の整ったイルカ先生がそこに立っている。 「どうしたの?今から職員室に迎えに行こうと思っていたのに」 「あなたが来ると他の先生に気を遣わせてしまうんですよ。あんたいつも暇そうに待ってるから」 うーん、それを言われると反論の余地がない。 さっさと歩き出したイルカ先生の後を慌てて追い、歩幅を合わせて隣に並んで歩く。 「…仕方ないでしょ、オレは少しでもイルカ先生の近くにいたいんだ」 俺のほうを向いたイルカ先生の顔をじっと見つめて想いを告げる。こんな時は口布が少し鬱陶しい。だけど大丈夫、オレの気持ちはちゃんと伝わってるから。 イルカ先生はしばらくの間歩みを止めて固まって、その後ぼっと顔を赤くして、小さな声で呟いた。 「…それは俺も同じです」 そしてどちらからともなく手を繋いで歩き出した。 |