1.セイシュン暴走曲 朝。 必死で口の中にパンを詰め込む。手ぐしで適当に髪を整えると、鞄を引っさげて自転車に飛び乗る。 普段15分かかる道のりを10分で。ペダルが軋んで嫌な音を立てた。たしか、校門遅刻3回で、罰として 職員室の窓拭き一週間だったハズ。不公平だ。しかもやばいことにリーチがかかっている。 「ったく、朝は苦手なんだよ。」 誰にともなく呟くと、カカシはペダルを強く踏んだ。 ――…それはまだ、大人には満たない僕らの軌跡 2.教科書貸して (やべっ、教科書忘れた。) がさごそと鞄を引っ掻き回しながら、カカシが顔を顰めた。休み時間に気づいていたなら、隣のクラスに借りに行けた のに。残念ながらそんな時間はない。仕方なく隣の席のクラスメートに見せてもらえるように頼む。了承を貰って 机をくっつける。なんだか恥ずかしい。 「うみの、悪りぃな。」 「ああ、別に構わないって。」 小声で詫びると、屈託のない返事が返ってきた。隣の席に座っているのは、うみのイルカという生徒だ。頭も良いし、 クラスの盛り上げどころを知っている、誰にでも好かれるタイプだ。3年になって初めて同じクラスになったためか、 あまりしゃべったことはない。 (うみのイルカかぁ、変な名前。…女には喜ばれそうだけど) 正直言ってあまり人のことは言えないのだが。 先生の退屈な話を聞きながら、適当にノートを取る。ふと窓の外を見ると、他のクラスが体育をしていた。ソフトボールだろうか。 かすかな歓声が聞こえる。 (あー、オレも体育のほうが良いや) こんなふうに机にかじりついているよりも、外で体を動かす方が性に合っている。 ついつい見入っていると、近づいてきた先生に頭を叩かれた。…大失態だ。 「はたけ、お前今日遅刻ギリギリだったよな?だらしがないぞ!」 「はあ、すんません。」 先生の小言には、殊勝に謝っておくに越したことはない。 「遅刻しかけて、教科書忘れて、先生に怒られて…踏んだり蹴ったりだな。」 隣でうみのがくすくすと笑うのが、当たっているだけに妙に悔しくて、消しゴムの消しかすを隣へ向けて指で弾いてやった。 3.通学定期 「…おい、うみの!定期落ちたぞ。」 「ああ、ありがと。」 鞄から落ちた定期を拾って渡してやれば、うみのはにこやかに礼を言った。なんとなく照れて頭に手をやる。 「電車通学なのか?」 「うん。20分くらいなんだけどな。…イルカでいいよ、名前。」 「…オレも。カカシでいいから。」 気を遣われるのは苦手だ。そう言うと、うみの…いや、イルカはおかしそうに笑った。 多分イルカとつるむようになったのは、それからだと思う。 |