ザシュ… 静かに刃を暗闇に閃かせれば、音もなくターゲットが倒れるのが分かった。 「任務終了ーっと。」 警護の忍びの数が多かったからちょっと手こずったけど。 小さく伸びをしたら、首元に下げたドックタグがじゃらりと音を立てた。ちゃんと任務につけていく オレって律義だねー。暗闇の中、僅かな月光に照らしてみれば、金属に刻まれた無機質な己のナンバーが、ひどく虚しい感じがするけれど。 「…死んだら、イルカ先生に大事に持っててもらおう。」 何も遺せないからこそ、せめてこんな金属の欠片でもオレが生きた証として、アノヒトの側に居続けたい。 「嫌がるだろうなあ…」 まっすぐな視線がどこまでも清廉で、自分にはないものを持っている、けれどもどこか似ている不思議な人、イルカ先生。 馬鹿なことだと分かっていても考えてしまうもしもの事。けれど、死ぬことさえ、あなたを想うと怖くないんだ。 刀を背負うと胸元から、じゃら、と金属音がした。 「…邪魔だなあ、これ。」 ドックタグ…もしも任務で殉職したとき、唯一自分と判断できる物。けれど、自分が殉職したときにはこのタグも一緒に消して欲しいと思う。 何も残らない最期。完璧な消滅。それが叶うならば… 「カカシさんは、案外寂しがりやだから…。」 何も偲ぶ物がないほうが、きっといい。自分はきっと淡白な人間だなあ、とイルカは苦笑した。よいしょ、とベッドから立ち上がると、 自分の部屋を後にする。背中に背負った刀の重みが、いつもの自分とは違うという違和感をもたらす。 「だけど、まだ死ねない。」 今回の任務はそこまで難易度の高い任務ではない。けれど、以前に比べると、里の多忙さのためか、任務に借り出されることが多くなった。 教師である自分にまで、里外の任務が回ってくる。 カカシほどではないにしろ、死が身近になりつつある。けれど、きっと自分はカカシのために、どんな窮地に陥っても帰ろうと願い、 そしてみっともなく足掻くだろう。――その結果がどうであれ。 「……愛してますよ、カカシさん。」 祈りのように囁いて、イルカの姿は闇へと溶けた。 |