「さて、任務終了っと…」 軽く口笛を吹いてカカシが向かった先は、里の外れを流れる小さな川だった。 久しぶりに請け負った暗部の仕事は、なんとかチャクラ切れを起こすこともなく無事終わった。 たいした怪我はないものの、暗部服にはべっとりとターゲットの血が付いていた。夜明けが近い こともあり、この格好を他人に見られるわけにはいかないので、カカシは汚れをひとまず洗い流そうと、 川の上流へと向かった。 カカシがしばしば利用している場所は、川の流れが緩くなり、少し深めの淀みが出来ている場所だ。 辺りを茂みが囲んでおり、人目につかないこの場所は、カカシが獣から人へと戻れる場所でもある。 ところが今夜は、その場に他人のチャクラが満ちていた。 (…あれ、先客?) 一瞬警戒したカカシだが、同じ里の者であると認識すると、警戒を解いた。暗部は自分だけではないのだ。 仕方なく近くにある大木に登り、空くのを待つ。 (報告が遅くなっちゃうけどまぁいいか。どうせ二、三日は休みがもらえるだろうし) のんびりと木の幹にもたれると、視界に先客の姿が目に入った。その均整の取れた肢体に目を奪われる。 若い男だろうか。細身ではあるが、無駄なく筋肉の付いた上半身を滑らかに水が滑ってゆく。下衣をつけたままの行水が、 かえって艶やかなように思われて、カカシの背中をゾクリと何かが這い上がった。 そんな思考を止めたのは背中に残る大きな傷。滑らかな肌が台無しになっている。その傷を持つのは、カカシの記憶にある人物だった。 気配を殺して近くに降り立つと、カカシの無遠慮な視線に気づいていたのだろう、静かな声がした。 「そこのタオルください。カカシ先生。」 言われるままに足元のタオルを拾い上げ、男の元へ軽く放ったカカシは、にこりと底の知れない微笑を浮かべた。 「いやーっ色っぽかったですよ、イルカ先生。」 「若い女性でもあるまいし、ご冗談を。」 カカシの軽口などものともせずに、イルカはさっさと服を着込みだした。里の支給服のようだが、ベストはない。 「…何の任務だったんです?そんな物騒な太刀なんか持って。」 服と共に置いてあったのは、鞘も柄も黒塗りの一振りの太刀。カカシにも分かるくらい価値の高い逸品だ。 慣れた手つきで髪を結い上げたイルカは、とっておきの営業スマイルを閃かせた。 「……内緒です。」 それではごゆっくり、と言い残して姿を消したイルカに溜息を付いて、カカシは水面を覗き込んだ。 「つれないねえ…」 言葉とは裏腹に楽しそうなカカシの背後には、ゆらゆらと薄れゆく月が映し出されていた。 ――本当の自分を隠しているのは、いったいどちらだろう? |