多分飢えていたのだ。力に、血に、戦場に。――…そして愛に。


   蒼い渇望


   
暗部をやめて、下忍のガキどもを預かることになった。曰くのある少年二人と、 頭の回転の速い少女一人のスリーマンセルは、なかなか自分を楽しませてくれる。
今日もそんな三人とDランクの任務だった。何度やっても、人に何かを教えるのは 難しいと思う。

「ハイ、今日はここで解散ー!」
カカシが歩きながら読んでいたイチャパラをパタンと閉じて、三人に呼びかけると、 三人は、やっとか、という表情をした。おつかれ、と声を掛ける暇もなく、ナルトとサスケ は喧嘩しながら修行へと連れ立っていく。サクラはサクラで、早くシャワー浴びたいと言わんばかりに 去っていった。一人残されたカカシは、三人の個性あふれる様子に苦笑した。

「…平和だね。」
歩きながらカカシは、ため息をつくように一人ごちた。同僚のアスマなどはこの状況を楽しんでいるようだが、 自分はまだ慣れない。長年の暗部生活の性だろうか。


報告書を片手に受付所を訪れると、とてもすいていた。自分以外に報告書を持ってきている忍びはいないようだ。

「カカシ先生、お疲れ様です。」
「あれ、イルカ先生?」
カカシを迎えてくれたのは、担当下忍たちの恩師であるイルカだった。禁忌の子供に敢えて関わる数少ない大人。 そして、誰からも好かれる先生。引継ぎ時に挨拶はしたものの、あまり言葉を交わしたことはなかった。
「ああ、カカシ先生はご存じなかったですか。俺はこちらで受付を兼任しているので。」
朗らかに笑ったイルカに、カカシはなるほど、と相槌を打ち報告書を提出した。

それからしばらくの間、たわいもない話をした。ナルトの様子だとか、チームワークについてだとか。 イルカと話すたびにカカシはイルカの観察眼に驚かされた。…よく見ている。生徒一人一人の長所も短所も 、イルカは熟知しているようだ。さらに、火影直伝なのか、いろいろな知識もよく知り得ている。
ただの中忍ではない、やはり三代目のお気に入りだけはあると妙に納得する。


――そして、それは突然だった。
ピィ―――
受付所内に警戒音が鳴り響いた。
「侵入者ですね。」
カカシは肌身につけているクナイの数をざっと確認した。そのまま外へ出ようと受付所のドアに手を伸ばした時、イルカに呼び止められた。
「カカシ先生が行かれる必要はありませんよ。暗部が出動するでしょうから。」
「このオレに黙って見過ごせと?…侵入者がいると分かっていてもですか?」
やや不機嫌な声で聞きとがめると、イルカはおもむろに、受付机の下から小型の通信機を引っ張り出した。
「こちら受付のうみのです。侵入者の生存状態での捕獲お願いいたします。」
受信機の向こうからくぐもった声で、『了解』と聞こえた。
「イルカ先生、暗部飼ってるんですか?」
「違いますよ。受付って一応任務などの重要的役割を果たしてますからね、 緊急事態が起これば、こちらから通信できるようになっているんです。 他の受付職員も機器を扱うことが許されてます。こちらには時々火影様がいらっしゃるので、 何かあったときに役立つでしょうし。」
それに、里に何かあった時、動かない暗部なんて役立たずなだけですよ。
倣岸にも取れる台詞をあっさりと吐き、不遜な笑みを浮かべたイルカを、カカシはぽかんと見つめた。
「……イルカ先生ってそんなことも言うんだ。」
カカシが感心したように呟くと、口が過ぎたと感じたのか、イルカはあわてて首を横に振った。何と言うか面白い人だ。
「そういうつもりでは…」
「でもそういうところは気に入りましたよ。また飲みにでも行きましょう。」
一方的に言葉を残して、カカシは受付所を出た。
ただの中忍でないところがいい。柔軟で、理知的で、でもどこか感情的な男。
(抱いてみたい…かも)
侵入者は無事捕まったのか、辺りは静かだ。けれどこの胸がざわめくのは何故だろう。


――…あぁ、そうか。恋をしてみたかったのかもしれない。



   拍手お礼文から。まだイルカがカカシに好意的です(笑)
   なんだかまとまりのない感じですね…まだカカシ先生はこれが恋だとは
   思ってないみたいですが。
   2006 01 06 陸城水輝




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