闇に舞う
ある屋敷にそびえる高楼の上で、酒を口に運ぶ一人の男の前で女が一人舞を舞っていた。 薄紅色に染められた裾の長い袖から徐々に淡い色に移るグラデーションが美しい衣を身に纏った女の舞は、 まるで詩に歌われた古の美女たちのようで、月が明るい今宵は、一層幻想的な雰囲気を醸し出していた。 「…ほう、そなたの舞は実に美しい。こちらへ来て酌をせよ。」 「承りました。」 屋敷の主に顔を向けて、にっこりと微笑んだ女は、ふわりと着物をたくし上げて男のほうへと歩き出そうとした。 しかし、その瞬間男の首が地面に転がった。おそらく声を上げる暇もなかっただろう。 だが、それを目撃した女は眉一つ動かさなかった。 「…いやぁ、悪かったな。」 静かな声がして、男が一人天井裏から降りてきた。 「いいえ、構いませんよ、猿飛上忍。任務に協力するのは義務でしょう?」 そう言ってくれると助かる、と女をねぎらった男…猿飛アスマは、いつもの忍服ではなく暗部装束に動物の面を つけていた。 「…楽しめなかったねぇ。」 つい先程まで、この屋敷の主だった者の背後に、もう一人の男が立っていた。どうやら首実検をしていたようだ。 面をかぶってはいるが、覗く銀髪で素性が知れる。――写輪眼のカカシだ。 血の付いたクナイを布に包みながら、仕事に対する不満をぶつぶつ言うカカシにアスマが渋い顔をした。 「バレる前にこの屋敷を離れるぞ。」 アスマの一言で三人の姿は消えた。薄暗い高楼には首と胴が離れた死体が残されていた。 「…あんた、それにしてもさっきの舞は見事だったね。あんなエロジジイでなくても見とれるかも。」 里にそれほど遠くない雑木林のふもとまで辿り着き、解散のために立ち止まったとき、軽い口調でカカシは女に語りかけた。 女はなるべく目立たないように薄藍の衣を被っていたが、衣から覗く唇が笑みを形作る。 「ありがとうございます。」 里へと連絡帳で任務報告書を送るため、少し離れた場所に立っていたアスマが、二人の会話を聞きつけて、にやりと面白そう に笑った。 「よし、ここで解散するぞ。…イルカ、そろそろ元の姿に戻ったらどうだ?」 女の意外な正体に絶句するカカシをよそに、アスマの言葉を聞いた女がカカシに振り向きざま、被っていた衣を脱ぐと、そこ には馴染みのイルカの姿があった。 「それではお二方、失礼しますよ。」 鷹揚に笑ったイルカは、白煙を残して姿を消した。 「ふふふ…」 しばし呆然としたカカシは突然笑い出す。気味悪がるアスマなどそっちのけで、カカシはうっとりと呟く。 「面白いヒトみーつけた!」 死んだ男に向けた氷のような目が、自分の劣情をそそったことを、イルカに言わなくて良かったと安堵する。 (こんどは何処で会えるかな?) ――出来ることなら受付所ではない、普段のイルカとは違った姿を見られる所で。 |