朱を奪う紫  閑話休題


   
   
アスマの場合

今日の任務を受け取るために、受付所へ赴いたアスマは、受付け係の中によく知った顔を見つけたとたん、 回れ右して帰りたくなった。視線の先には一人の中忍の姿が。
自分がうっかりと口を滑らせたがために、彼は非常識な上忍の迷惑を大いに被ったに違いない。しかし 他の係の列に並ぼうにも、受付所には彼ただ一人しかおらず、朝早くから任務をもらいに来たのも自分 しかいない。何故ガキどもを連れてこなかったのかと、アスマは悔やんだ。
「…おはようございます。」
「…おう。」
明らかに怒っている。任務書を手渡す手つきが荒々しいし、いつものにこやかな笑顔もない。無言の重圧に 耐えかねたアスマは早々に降参した。
「イルカ、悪かった。」
「…アスマさんまで、俺のことをしゃべるなんて思いもしませんでしたよ。」
両親を亡くした下忍時代より、三代目とそれに連なる血縁のアスマには目をかけてもらったイルカは、アスマ ならば口は軽くないと信頼していた。何より自分の過去を知る数少ない人物でもある。
「だから悪かったって…」
「で、…アノヒトは最近何してるんですか?」
イルカの嫌そうな表情で、アノヒトというのが何を指すのか気づいたアスマは肩を竦めた。
「さあな。イビキの任務に連れて行かれたっていうのしか知らねえよ。」
ぐっすり眠り込んでいたイルカは、周防とカカシ、そしてイビキの会話を知る由もなかった。ある意味幸せだ。 当分カカシが姿を現しそうにないことを知り、やや表情が明るくなったイルカを横目でちらりと見やる。
(カカシの奴も大変だな。)
物腰柔らかな外見とは裏腹に、イルカの芯は硬い。ましてや第一印象は最悪だろう。
「…だけどあいつの強引さはすげえからなあ…」
任務にしろ、爛れた関係の後始末にしろ、いつも自分まで巻き込まれるのだ。半分疫病神みたいなものだ。 アスマはやれやれと嘆息した。
「何か言いましたか、アスマさん?」
「何でもねえよ。ただ、お前の秘密を話すとお前にSランク任務を割り当てられるだけで済むが、カカシの 脅しを聞かないと隣からクナイを突きつけられるんだよ。」
それも脇腹にぐっさりと。
我ながら言い訳臭いセリフだなあ、と思ったが事実は事実だ。それじゃな、と手を上げてアスマは早々に退散した。
残されたイルカは、深いため息をついた。
(長年付き合ってきたアスマさんでも扱いに困るのか…)
それでは自分など絶望的だ。
立ち去るアスマの後姿には何処となく、一連の騒動に巻き込まれたことから来る疲れが漂っている。よく考えたら 台風の目のようなカカシと友人として、同僚として長年やってきたアスマは凄いのではないか。イルカはふとそんな風に思った。 そして哀愁の漂う表情で呟いた。

「……可哀想だからSランクではなくAランクで許してあげます。」



   アスマさん大好きなんですよ(笑)これからも可哀想な役回りで出てくるでしょう。
   Sランクで済むと言ってる辺りが彼の凄いところです。そして段々カカイルでなくなりつつあるような
   気がしてきました(汗)    2005 12 12 陸城水輝



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