Review No.G-009

ミルル タイトル
(C)かんな久,2001
BGM by メロリーナ

※画像、BGMは著作者の許諾を得て使用しております。
 転載、配布等の行為は一切禁止します。




 秋の夜長、ふと物思いにふけりたくて、ネット上でサウンドノベルを探しているとき、目にとまったのがこの 『ミルル』 だった。今から思えば、『ミルル』の登場人物である 「エスナ」 と同じように、 「夢の伝達者」 に導かれてこのサウンドノベルをダウンロードしたのかもしれない。

 で、ソフトを起動して、ソフト上での「1日目」。フリーウェアをプレイするときに一番最初に気になるのは、そのソフトが「当たり」か「はずれ」かということだ。『ミルル』はほとんど考える間もなく判定が下りた。 このソフトは「当たり」だ!
  決して派手さはないが、少しずつ少しずつ着実に読者を物語の中へ引き込んでいく語り口。 パズルのように精巧に組み合わされたシナリオ。 ごく平凡な出来事で、それでいて印象に残るイベント を散りばめながら進むストーリーは、 読者の感情移入を誘うのに十分すぎるほど感動的 だ。
 そしてその先に待つ物語の結末。私が感じた感動はおそらく作者が伝えようとしたものと同じものだと思う。 わかりやすくストレートな主題 、それは読み進めていくうちに誰でもすぐに気づくはずだ。

 このサウンドノベルは、2人の登場人物の視点から物語を読むことができ、最初に 「シュウ」「エスナ」 のどちらを主人公にしたストーリーにするかを選ぶことができる。これからプレイされる人のために一言だけアドバイスするならば、それは 「シュウ」 の立場から見たストーリーを最初に選ぶべきだ という点だろう。計算され尽くしたストーリーだからこそ、読む順番を間違えると感動も半減してしまうからだ。

 さて、シナリオ以外の要素にも目を向けてみよう。最初、 CG はモノクロだと知って、正直言って一抹の不安を覚えずにはいられなかった。しかし、 キャラクターのCGが表示されたところで、その不安は一瞬にして消え去った。 丁寧に描き込まれていることはもちろん、 微妙な表情の違いまで描き分けていた からだ。 台詞に合わせて細かく表情を変えていく登場人物 は、 下手な動画を見るよりずっと効果的 だと感じた。マニュアルの中で「ボイスがない」ことを作者は弁解(?)していたが、もしかするとこのサウンドノベルは、このまま「ボイスなし」のほうが、登場人物の心の動きがよく伝わるかもしれない。

  BGM に関しては、フリーのMIDIデータを使用しているということで、本来ならレビューの対象外としたいところだが、あまりに私の感性に近いメロディなので、少しだけ書かせていただくことにする。
  メロディラインがはっきりしていて、かつ情景描写力に優れている 楽曲は、私の最もお気に入りとしている種類のBGMである。 少し切なくなるような繊細な響き をもっている点も聞き逃せない。『ミルル』のために書き下ろしたと言ってもわからないほど、ぴったりマッチしているのには驚きを通り越して、不思議でさえある。いったいどうしたら、これほどまでにぴったりの音楽が見つかるのだろうか?もしかすると、これも「夢の伝達者」の導きなのだろうか?


 先ほどから何度か出ている 「夢の伝達者」 とは『ミルル』の副題でもあるが、エンディングでも「その正体が何者か」、はっきりとは語られないままである。もっとも、ストーリー上の出来事から80%ぐらいは推測できるのだが。
 しかしそれにしても、 なぜにこのような不思議な出来事が 「エスナ」「シュウ」 の身の上に起こったのか?それは永遠に謎のままのようである。
いや、

謎のままでいてほしい。
もともと「夢」を見ることそのものが謎であり、不思議なのであるから。

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