Review No.A-007

耳をすませば
1995年 徳間書店、日本テレビ、博報堂、スタジオジブリ
監督/近藤喜文、脚本/宮崎駿
原作/柊あおい
(2000/11/10 日本テレビ系TV放映)
月島雫 天沢聖司



遠く離れていても、
一緒に頑張れる人はいますか?

イラスト提供:泰麒さん

  『風の谷のナウシカ』 『となりのトトロ』 『もののけ姫』 ・・・と、ジブリの名作の陰に隠れてしまいがちな本作品であるが、実は私のオススメのタイトルだったりする。特に、 学生生活を終え、社会に出られた方 に見ていただきたい 。それは単に中学時代の昔を懐かしむという意味ではなく、 ちょっとしたことにも感動したり、反発したり、そして涙したりできた頃の自分を思い出してほしいから である。
 ここでは ストーリー については触れないが、 「主人公の聖司や雫と同じ経験を持つものほど、共感できる部分が多くなる作品」 であるとも言えるだろう。裏を返せば、それゆえに見た人によって、評価に差が生まれることになったのかもしれない。

 また別の見方をすれば、 学力偏重で崩壊の危機にある学校教育への警告 の意味も、この作品に込められているかもしれない。雫が姉に、テストの結果が下がったことについて追求されて、思わず口にした台詞 「勉強より大事なものがあるんだから!」 にそれが端的に表れているといえよう。もっとも、「勉強より大事なもの」が何かについては、人それぞれ考えるところがあるだろうし、もしかしたら「勉強より大事なもの」がやっぱり「勉強」であると結論づける人もいるだろう。そのへんを考慮してか、そのあとの雫の父を交えた3人の場面では、雫が 「勉強がどうでもいいなんて言ってない!」 と言い直す一幕もある。一見矛盾しているかに見える2つの台詞が、どちらも同じ重さで発せられていることは、この作品を見た人ならわかるだろう。どちらに重きをおくか・・・それは見た人の判断に委ねられているわけである。


 いずれにしても全編を通して、一点の曇りもない思春期の少年少女の姿が描かれていることは誰の目にも明らかである。それを 「感動の恋愛物語」 ととるか、それとも単なる 「現実離れした作り物」 ととるかは、見た人の心の純粋さによるのである。
 さてジブリの作品の中に、 エンディングに仕掛け を凝らしているものがチラホラ見られるが、この『耳をすませば』もその一つである。
 本編中にも、あの 『魔女の宅急便』「ほうきに乗ったキキ」 がチラッと出てたり、雫が 「誰でも知っている某栄養補助食品」 を食べるシーンがあったりするが、 「高台の住宅地の一日」 を描写したエンディングには、いろんなストーリーがあって、見ていて飽きない。
 たとえば、 結婚の約束をした後の雫たちが自転車に二人乗りで帰っていったりヤマト運輸の宅急便の車が走っていったり ・・・といった具合である。その中に、雫や聖司にその友人たちまで巻き込んだ、三角関係ならぬ、 「四角関係(夕子→杉村→雫←→聖司) の結末 がこっそり描かれていることに気がついた人はどれくらいいるだろう?
 雫と聖司は、ラストで結婚の約束をするから、この二人が結ばれたことは一目瞭然だが、なんとエンディングのスタッフロールが終わる直前に、 夕子と杉村が付き合い始めたことがわかるシーンが描かれている のである!これは芸が細かい!
 一度、エンディングも気を抜かずに見てみてほしい。
(2000/11/30)

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