アジア・アウトリーチ・AR227

試練の中の勝利―中国

リディア    

 私は、アジアから遠く離れた、人口三千人以下の小さな町で育った。そこは広々とした緑や青空に囲まれていて、 霜の降りる朝と静かな夜があった。そのような所から、面積も人口も大きく、食や言語において多文化的な所へと遣 わされるとは思ってもいなかった。
 現場で働いた最初の頃を思い出すと、安心して育った環境を後にして、五百万人以上の大都会に順応しながら暮ら すことは簡単なことではなかった。通りは交通と工事の騒音に満ちており、レストラン内や電車や船に乗れば大きな 声での会話があった。バスや電車に乗るためには長い列をつくらなければならず、押し合いながら座席を求めながら の乗車はまさに悪夢だった。今までの生活に比べるとスピードが百倍以上になった。しかしその中にも、私の心に は平安と興奮があった。それは、神様がこの時に私をこの場所に召してくださったと知っていたからだ。ここは私の 家となり、神様が私のためにご計画している将来に向けての大切な一ステップだと信じていた。召されたこの地に来 てから何が起こるかを事前に知っていたのなら、もしかしたらここに来ていなかったかも知れない。
 「わたしの思いは、あなたがたの思いと異なり、
わたしの道は、あなたがたの道と異なるからだ。―主の御告げ―」 (イザヤ55:8)

 宣教地での最初の数年は、ホザナ・ミニストリーの管理者として召された。当時働きの中心は、聖書を中国に持っ て行く働きだった。この働きの扉が閉じられた時、香港の若者と中国本土からの移住者向け英語キャンプや文化交流 キャンプの企画と運営業務を任せられた。この時期に神様は、中国南部にいる田舎から引っ越してきた英語教師のた めの研修プログラム「アクション・ラブ」という、AO 香港の社会福祉的な働きのドアを開いてくださった。私は、 海外から英語教師を招き、研修の企画と運営を任された。研修プログラムの中で、神様は少数民族に対する目を開か せてくださり重荷を与えてくださった。中国には56 の少数民族があり、研修プログラムに於いてそのうちの5つが 紹介された。それらの民族は「ドン」、「ハン」、「マオ」、「ヤオ」そして「ツァン」の民族だ。研修プログラムの一環と して、教師たちの暮らすいくつかの村を訪問する機会が与えられた。特に、「ドン」民族に対する愛が私たちの中で 強まっていくことを感じた。
 「ドン」民族に対する愛が強まる一方、香港におけるドアが次第に閉じていくことを感じていた。ある時、中国本 土から香港へ帰るために夜行列車に14 時間揺られて旅をしていた時だった。 窓から外を見ていると「わたしがあなたに行けと命じるところに行ってくれるか?」と神様からのチャレンジを受け た。一つの所にとどまり、そこに慣れると、新しい所に行くことは決して簡単なことではないと思う。神様が示して おられる町には一人も知り合いがおらず、もちろん、そこの言葉も私にとって大きな壁となりそうだった。しかし、 神様がここへ導いておられるのだから神様を信頼しようと決意ができた。

 「主は、すべてのわざわいから、あなたを守り、あなたのいのちを守られる。
主は、あなたを、行くにも帰るにも、 今よりとこしえまでも守られる。」(詩篇121:7-8)

 ドン族は独自の文化と言葉のほかに、ユニークな民族衣装と建築とを持っている。三百万人のドン族が広西自治区 と貴州省と湖南省の境界線地域に住んでいるが、クリスチャン人口は1% にも満たない。ドン族は川に囲まれてい る山岳地帯の村々に住んでいるので、それらの地域に行くのは難しい。彼らにとってアニミズムや偶像礼拝は宗教生 活の重要な位置を占めている。村から村へ通ずる山道を歩くと、道端に多くの偶像が設置されていた。ドン族に福音 を伝えるのは肉体的にも霊的にも簡単ではないが、あきらめたくない。神様のみことばが村々に川のように流れ、永 遠の命と希望を与えるように祈っていただきたい。
 2018 年、中国には多くの変化と課題があった。政府の法令に基づいて警察による取り締まりが厳しくなり、その 波紋は中国中に広がった。私の友だちが突如、国外退去となり、多くの教会が閉鎖されていくのを見た。私が拠点 を置いていた町の教会も閉鎖されることになり、それは大きなショックだった。社会の中で多くのことが目まぐるし く変化している。しかし、その中でも現地の信徒たちの信仰によって励まされている。彼らは神様のみことばに堅く 立って、神様のみ力によってこれらのことを乗り越えていこうとしている。このことから、教会は建物や目に見える 物だけではないことを教えられる。教会を構成しているのは神の人々であって、神様への愛とお互いへの愛によって 立っており、不確かなこの時代にさえも成長していこうとしている。

 「光はやみの中に輝いている。やみはこれに打ち勝たなかった。」(ヨハネ1:5)

 変化と戦いと不確かなことに直面している中でも、私はなぜここにいるのかを忘れないようにしている。私は、人々 のために、ひとりひとりのために、大きな群衆ではないかもしれないが、小さな民族の「ひとり」のためにここにい る。毎日、ここで出会っている人々とのつながりが、ここを私の家としてコミュニティーとしている。まだこの地に いることができるかぎり、町にいても村へ旅をしていても、私を通してキリストを現すことができるように願って祈っ ている。

 「私たちの推薦状はあなたがたです。
それは私たちの心にしるされていて、すべての人に知られ、また読まれてい るのです。」(Ⅱコリント3:2)

 日々、私の出会う人々のためにお祈りいただきたい。町や村は一日ずつ急速に変容しているが、人々の心は変わっ ていないと感じている。人々はうわべを気にしていて、豪華な自動車やブランド品を身に着けてはお互いに誇り合っ ている。権力と名誉心を満たしたいがために、相手よりも先頭に立つべく、毎日のように競争している。人々の心に、 父なる神様から与えられる真理に対する飢え渇きが与えられるようお祈りいただきたい。
 故郷にいても遠くで暮らしていても、人生には試練がやってくる。試練は私たちを地面にたたきつけてしまう。 試練の中で勝利者として歩むことを学ぶには、正しい選択をしなければならないだろう。これは簡単なことではない。 数年間ここで暮らしていてもまだまだ学ぶべきことがたくさんあると感じている。神様に信頼することを学び、私の 周りにいる人々から学びたいと願っている。神様が召してくださったこの地において、私にはまだ学ぶべきことがた くさんあるからだ。

 「しかし、神に感謝すべきです。
神は、私たちの主イエス・キリストによって、私たちに勝利を与えてくださいま した。」(Ⅰコリント15:57)




アジア・アウトリーチ・ジャパン・・・アジア・リポート No.227

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APRIL - JUNE 2019.