簡易ベルヌーイ式



 簡易ベルヌーイ式は次式で現され,弁狭窄などにおける狭窄弁口部前後の圧較差(ΔP)や三尖弁閉鎖不全の逆流血流から右室圧を推定するために用いられる。

ΔP=4×V


 右上図は,僧帽弁狭窄症例の心尖部長軸断層像上で左室流入血流に対して連続波ドプラを行い、その血流波形の周囲をトレースし、平均血流速度(V)を求め、これを簡易ベルヌーイの式に当てはめたもので、狭窄部での左室−左房間平均圧較差は5.4mmHgと算出されている。
 また、右下図は三尖弁閉鎖不全例の4腔断層像上で三尖弁逆流血流に対して連続波ドプラ法を行ったもので、この逆流血流最高血流速度(V)に簡易ベルヌーイ式を適応することにより収縮期右室−右房間圧較差が13.5mmHgと算出されている。これに、右房圧を約5〜10mmHgとして加算することにより非観血的に右室圧が推定されることになる。

 簡易ベルヌーイ式は,Eulerの運動方程式を変形して得られる3つの項からなる次式(詳細は成書を参照してください)を臨床での血行動態から簡略化したものである(ρ:血流の密度,ΔP:P−P)。

ΔP=ρ(V−V)/2+(流れの加速度による圧変化)+(圧力損失)

すなわち、

  1. 流速のピークの時相では加速度がほぼ0となるため第2項の加速度項は省略できる。また、ピークの時相でなくても狭窄部と計測部との距離が短ければ(通常連続波ドプラでの計測では狭窄部近位が最も流速が速いためこの距離は短くなる)加速度による圧変化が極わずかであるためやはりこの第2項は省略できる。

  2. 第3項の圧力損失も1.同様狭窄部と計測部との距離が短ければ圧力損失も極わずかであるため省略できる。

  3. 残った第1項においてVは狭窄部血流速度Vに比して著明に速いためV>>VとなりV項は省略できる、ここで血流の密度を代入するとΔP=4×Vが得られる。

 


以上のように簡易ベルヌーイ式は多くの省略によって導かれている。従って、この省略条件を満たさない状況では補正するか,利用しないようにする必要がある。
例1:Vが場所にもよるがおおむね1m/sec以下ではVが無視できなくなり省略前の式ΔP=4×(V−V)を用いる方が良いとの報告がある。
例2:逆に右図の様な形状の流路においてはVがVに近くなり例1と同様に無視できなくなる。