僧帽弁狭窄症
Mitral stenosis〈MS〉


1)所見ポイント
a)弁尖自身の柔軟性
 拡張期に弁尖のドーム形成があれば柔軟性はあると考えられる。柔軟性があれば経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC)、僧帽弁交連切開術等の自己弁を残したままでの治療の可能性がある。
b)弁尖の石灰化の範囲
 石灰化が強い場合PTMCでは弁尖の亀裂を生じる場合が多く外科的治療の可能性が高くなる。
c)僧帽弁口面積
 弁口面積が1cu以下になるとPTMCや外科的治療対象となる。
d)弁下組織の障害の程度
 弁下組織の障害が強いと弁尖等の状態が良くても僧帽弁置換術の可能性が高くなる。
e)僧帽弁閉鎖不全の有無と程度
 閉鎖不全に関してはその項目でも触れるがカラードプラ法を用いると弁口部のどの部位から逆流が生じているかが観察できると共に逆流血流の広がりから逆流の程度を4段階に評価可能である (補足説明1)。
 僧帽弁閉鎖不全が4段階分類でV度以上あるとPTMCの適応外となり外科的治療対象となる。
f)左房内血栓の有無
 血栓が存在する場合脳や末梢血管への塞栓症をおこす可能性がある。また血栓が存在する間はPTMCの適応外となる。
右図は肋骨弓下アプローチで左房を観察したものであるが、左房内にもやもやエコーが認められる。このような状況下では、血栓の存在が強く疑われる。









 
また、下図のようにサイドローブにより血栓が隠されてしまう場合もあるので、肋間を変えるなどしてアーチファクトの影響を極小にすることも心がける必要がある。








さらに、血栓は心耳に生じやすいので注意を要する。

g)左房の拡大はないか
 左房の拡大があると血栓や僧帽弁閉鎖不全の存在の可能性が高いので特に注意を要する。また左房拡大例では僧帽弁輪の拡大もきたしている場合が多く弁輪縫縮術の必要性もでてくる。
h)肺高血圧はないか
 左房圧の上昇により肺うっ血、肺高血圧をきたす事がある。肺高血圧の評価は三尖弁閉鎖不全による逆流血流に連続波ドプラ法を用いて右室−右房間の圧較差として推定することが可能である(補足説明2)。

2)症例1
 本例は左室中央部での長軸断層像で観察ポイントのc)に異常を認める。
すなわち僧帽弁前尖のドーム形成より開放制限が認められる(図1)。
本症例を所見ポイントに沿って見てみると
(1)a)の弁尖の柔軟性に関してはドーム形成を認めることから弁尖の柔軟性はある。
(2)b)の石灰化に関しては後交連部にわずかなエコー陰影を呈し石灰化が認められる(図2)。

 

(3)c)の弁口面積は弁口部をトレースして求めると約1.7cuである(図3、補足説明3)。
(4)d)の弁下組織の障害に関しては後交連側腱索にやや癒合があるものの弁下組織の障害としては軽度である(図4)。
(5)e)の閉鎖不全の程度に関してはカラードプラ法にて弁口中央部からT度の逆流を認める(図5)

(6)f)の左房内血栓は僧帽弁狭窄症においては左心耳に認めることが多いが本症例では左心耳内やその他にも血栓を認めない(図6)。

(7)g)、h)に関しても本例では該当する所見はなかった。
以上のように所見ポイントに沿ってチェックしていけば大きな観察漏れは生じない。
以下の症例提示では紙面の都合上所見ポイントに該当する項目に関してのみ写真の提示やコメントを記す。

3)症例2
 本例では左房内に血栓様エコー像を認める(図7)。