答 え

 通常,我々は右室腔や左室腔内の三尖弁や僧帽弁,それに連なる腱索,壁在(特に心尖部)の肉柱以外は心腔内には超音波心エコー上構造物は存在しないと理解している.これら以外の構造物は異常構造物として解釈し例えば血栓や腫瘍などを疑う.しかし,ときおり超音波心エコー検査で右房内でヒラヒラする線上あるいは膜様の構造物が描出されることがある(図1).


図1.水平4腔断層像(左図)とM-モード像(右図)において右房内に線上あるいは膜様のヒラヒラと動く構造物が認められる(矢印). RA:右房,RV:右室,LA:左房,LV:左室,TV:三尖弁

 これは腫瘍であろうか,はたまた急性肺性心を起こしやすい静脈血栓であろうか? はたまた・・・
しかし,異常構造物とした場合,この様な症例に遭遇する頻度が多すぎはしないだろうか?
この時,この線上あるいは膜様の構造物を詳細に,即ち探触子を回転させたりして多方向の断面から観察していくと下大静脈壁や冠状静脈壁近くにつながっていることが多い.ここで,胎生期の心臓形成とくに心房中隔形成時期(体長
10から40mm)頃の下大静脈や冠状静脈の右房開口部付近の構造を調べてみると体長10mm頃の右静脈洞弁が体長40mm頃から下大静脈弁(Eustachian valve),冠状静脈洞弁(テベジウス弁:Thebesius valve)を形成するとともに網目状の形態を示す(図2).


図2.体長10mm頃の右静脈洞弁(左図)が体長40mm頃(右図)には下大静脈弁と冠状静脈弁となり網目状を呈するようになる.

この遺残組織が生後キアリー網として2から3%に認められるとの報告がある.すなわち異常構造物様心エコー像が下大静脈弁あるいは冠状静脈洞弁あるいは両方へと連なる場合,キアリー網と考えられる.
本例ではこの右房内線上あるいは膜様エコー像は下大静脈壁および冠状静脈洞壁へと連なることが観察されキアリー網と考えらる(図3).


図3.右室流入路断層像(左図)で線上あるいは膜様エコー像は下大静脈弁へ,右図では冠状静脈洞へと連なっている(矢印).
RA
:右房,RV:右室,IVC:下大静脈,LV:左室,CS:冠状静脈洞

 キアリー網は胎生期の遺残組織であり通常問題はないが,キアリー網を有する患者に高率に卵円孔開存症を認め,また脳塞栓症例も認めるとの報告もある.従って,すぐにキアリー網として片づけてしまわないで有意な異常構造物である可能性や卵円孔開存症の合併などを常に疑うことも必要である.