タルト

                       

 

 

 

タルトとパイに似ているが、タルトにはパイと異なるいくつかの特徴がある。タルトのクラストの準備にベイカー(ペイストリィシェフ)が関わらないこと。タルトのクラストは平鍋(パン)の中で作り、背が低いこと。蓋をする、フィリングに肉や魚を入れるなどパイに似た料理方法を取ることがあるが、それは地域や、時代により変化する。順に、例を挙げて説明しよう。

 

1420年頃に編纂されたシカールによるデュ・フェ・デ・クイジーン(Du fait de cuisine)から;

28. アーモンドミルクのフラン

貴方が作ろうとしているフランの量に応じてアーモンドを用意する。しっかりと湯がき、洗わせて非常に強く潰させる。きれいな水を用意してアーモンドミルクを、フランの量に相応しい、きれいでしっかりとしたボール又は入れ物中に濾させる。

きれいなでんぷんを用意してきれいで新鮮な水で洗う。洗ったらきれいなボールの中に入れる。アーモンドミルクを用意して湿らせたでんぷんの中に入れる。色をつけるためにサフランを少量入れる。これをきれいなストレイナーで濾し、きれいで清潔なボールの中に入れる。塩を少量入れ、たくさんの砂糖を入れる。ここまでできたらクラストを作る。ペイストリィコックを呼んでオーブンの中に入れさせて少し固めさせる。ペイストリィコックにはしっかりとした木の、又は鉄の柄の付いたスプーンを使って上のフランの小さなクラストをオーブンの中に入れさせる。

 

フランはタルトでもパイでもないが、同じようにオーブンで焼く料理なので、この種の料理がどのように作られたかを知る上では貴重なレシピである。ベイカーとクックとの役割分担がはっきりとなされていたことが分かる。パイとフランのペイストはベイカーが、タルトのペイストは料理人が作った。

 

1390年頃に編纂されたイングランドの料理書、フォルム・オブ・クーリィでは;

 

164.タルト

 ボイルしたポークを切って潰す。そこへ卵、葡萄、砂糖、パウダージンジャー、パウダードウスを入れる。小さい鳥はラードをして入れる。プルーン、サフラン、塩を用意してパンの中にクラストを作る。そこに詰め物をしてよく焼く。サーヴする。

 

又、1300-1400年頃のイタリアのリブロ・ディ・キュシーナ( Libro di cucina/Libro per cuoco )から;

 

98.最も完全で素晴らしいマシュルームタルト

フィリングがたくさん入ったマシュルームタルトを作るには、よく洗ったホールのマシュルームの皮を剥き、大きなピースに切って水を絞る。溶かして濾した塩漬けラードにマシュルームを入れてフライする。焦げ付かないように水を加える。クックしたら平鍋から取り出し、鉢に入れてたくさんのチーズと卵を混ぜる。このバターを非常に薄くて丈夫なクラストを入れたタルトパンの中に入れる。クラストは薄くて黄色くて、そのフィリングはスパイスが効いていて、たくさんのマシュルームと少量の卵が入っていなくてはならない。しっかりとクックする。

 

タルトは薄くてパン又はタルトパンに入れて焼いた。

 

1450年頃のイングランドのハーレリアン・エム・エス4016HARLEIAN MS. 4016, ab. 1450 A.D.)から;

 

フルーツタルト

イチジクをワインで煮て挽く。入れ物に入れてそこにペッパー、シナモン、クローヴ、メイス、ジンジャーパウダー、松の実、フライしたレーズン、カラント、サフラン、塩を入れる。背の低いコフィンを作り、詰め物を入れる。松の実、四つに切ったデイツ、少し茹でた切った生のサーモン又は生のウナギを上に並べる。同じペイストでコフィンを飾り、コフィンの外側をサフランとアーモンドミルクを塗ってオーブンに入れて焼く。

 

パイは背の高いコフィンで作り、タルトは背の低いコフィンで作った。即ち、同じペイストでパイとタルトを作る。パイとタルトを分からなくしているのがフィリングである。タルトの中に肉を入れたのはイングランドではca.1450年までであり、それ以降はタルトには果物、パイには肉類を入れた。スペインではタルトには果物を、パイには肉を入れた。フランスではパイにもタルトにも肉を入れた。イタリアでは1380-1410の間にパイの中に肉を入れるレシピが数例あるだけで、タルトが主であり、肉、チーズを詰めて焼いた。ドイツはイタリアに似てパイのレシピが少ないが、タルトの種類はヨーロッパ一である。

 

Das Kochbuch der Sabina Welserin 1553年のレシピから;

17.       立派なバービィアニッシュタルトを作る

脂を1/2ポンド用意して平鍋の中で溶かす。その後クリームを1/4クオート用意して脂の中に入れていっしょにコトコトと煮る。その後卵を10個用意してドウが固まらないように小スプーン1杯の良質の小麦粉と、特にしっかりと混ぜる。その後材料を全て入れて混ぜる。全ての材料をいっしょによく混ぜてかなり濃くなるまで再びいっしょにクックし、そして甘くする。クックしたら少し塩をしてパイクラストの中に入れて焼く

 

南チロル地方

 

パイにはパイ専用のクラストが用意されていたが、タルトはパイのクラストを使ってタルトを作っていたのである。

この写真は現在のジャーマンアップルタルトである。ドイツは今も昔もタルトの種類が多く、作り方もほとんど変わらない。アップルパイとの違いを示す好例である。

 

1685年刊のThe Accomplisht Cookにタルトの形、作り方など、タルトの概念を示す記述があるのでここに引用する。

 

タルト又はパティパン又はディッシュの中でピピンタルトを作る

きれいなピピンを10個、ホワイトワインの中に保存しておいたもの、ホールシナモン、スライスしたジンジャー、クローヴを810個、しっかりと保存したもので色がうまくついているものをショートペーストの上に切ってのせる。又は焼いておいたところに入れて二枚のディッシュを使ってオーブンに入れて前述したように作る。

 

タルトはパイと同じようにフィリングを入れる入れ物ではあるが、縁を高くして蒸し焼きにするものではない。

 

        

 

別の方法で作るマルメロのパイ

マルメロを用意してそれをプリザーブにする。皮を剥いて芯を取る。細かい砂糖と泉の水でシロップを作る。同量のマルメロ、砂糖1ポンドに付ききれいな水1パイントを用意してプリザービィンッグパンの中でシロップを作る。アクを取ってシロップをボイルする。マルメロに入れる。しっかり色がつくまでボイルする。冷ましたらホール又は半分に切ってパイに入れて焼く。丸いタルト、ディッシュまたはパティパンに入れる。カットカバー又は1/4に切ったカバーを被せて焼く。焼けたら同じシロップを入れる。焼く前に細かい砂糖をもっと入れる。あとで入れるシロップを残しておく。砂糖掛けする。このようにするとどんなカーネルドフルーツでも、例えばセイヨウナシ、ピピン、ペア、ペアメイン、グリーンコッドリングまたはどんなリンゴでもタルトに入れて、又は切って入れてタルトを作ることができる。

 

これはパイのレシピであるが、マルメロをそのまま、又は半分に切ってパイに入れて焼くとパイができる。

マルメロを切って丸いタルト、ディッシュまたはパティパンに入れて、更に砂糖を追加して入れて焼くとタルトができる。とパイとタルトの微妙な?相違点を挙げている。上に示した3つの型はタルトに被せる蓋である。砂糖を上に振ってサーヴしたのである。

 

 

参考文献

 

Du fait de cuisine 1420

Satoh Yosinori, The Forme of Cury, translation 1390

John Russell,  The Book of Nurture 1460-70

Libro di cucina ca 1350

Harleian MS. 4016. ab. 1450

Sabina Welserin, Das Kochbuch der Sabina Welserin 1553