アマゾンの花火!!
 ピーコックバス




 私がアマゾン入りしたのは雨期真っ盛りで、魚は餌を求めて水没した森に入っていくという。そのため、魚が散ってしまい釣りにはまったく不向きな時期なのである。で、どうしようと考えた結果、どうにも考えが浮かばなかったので、マナウスにある日系の旅行会社ATSツーリモに相談する。ここには、釣り好きが講じてアマゾンに移り住んだという山本さんという人がいる。アマゾンの釣りなら任せとけ!という頼りになる人でいろいろと相談にのってもらった。
 で、やっぱり彼も今の時期はどこでも難しいといっていたがバルビーナダムなら何とかなるのでは、と紹介してくれた。
「さっそく明後日から行きますわ。」と言うと、「ラインは30ポンド以上のを持って行きや」。え、、、そんな丈夫なのがいるんかいな?。
 

 私は日本のバスフィッシングではいつも8ポンドの強さのラインを使うのだが、本当にそんなのが必要なのかと不思議そうな顔をしていると、「あそこは立ち木だらけで大物もたくさんいる。メーター級のピーコックや3メーターのピラルクもいる。おまけにブラックピラニアの50センチもいる」と山本さんがすかさず答える。
 
 私は開いた口がふさがらなかった。なんせ、アマゾンをなめていたのだ。日本からは12ポンドのライン(糸)しか持って来なかったのだ。

バルビーナダム


 さっそく釣具屋を求めて町を散歩することにする。マナウスの釣具屋はどこもふた昔前の釣具しか置いていない。もしこれからアマゾンを目指す人がいれば日本からの持参をおすすめする。なんせ、一番マシなルアーがラパラなのだから。
 私が行った店には1メーターくらいのピーコックバスの剥製があってしばらく茫然とする。それまでの私はピーコックバスは日本では悪名高いブラックバスの熱帯版で、日本のバスと同じく大きくなってもせいぜい60センチくらいだと思っていたからだ。驚きとともに興奮しまくった。「あー早く釣りにいきたいなー」なんて思いながら安ホテルで寂しい夜を過ごす、、、。

 次の日の午後4時にバスに乗り、揺られまくって4時間、ようやくポウサダと呼ばれるコテージについた。ここの名前が洒落ていて、経営者であるビンセント(VINCENT)とアナ(ANNA)の夫婦から名前を取ってビッカーナスという。こんなところにもブラジル人の愛妻家ぶりを見ることができる。

 ここの受付に2メーターくらいのピラルクを満面の笑みで抱きかかえている男の写真や、80センチくらいのピーコックバスを釣り上げた少年の写真が飾ってある。


 子供のように心が興奮し、どうしようもない状態になっていた。 明日からの釣りに備えてその日は早めに床に着いたのだが、そんな状態で寝られるわけがなかった、、、、
 寝不足のまま、朝6時に出発する。
 
今回のタックル
ロッド  スコーピオン 1601R4
リール スコーピオン 1701
ライン 28ポンド
ルアー 子供の靴くらいのペンシルベイト
 平日のせいもあるが、漁師3人を除いては回りに誰もいない。桟橋には6メーターくらいのアルミボートが繋留されてあり、さっそくガイド兼船頭の男と乗り込み出発する。
 立ち木だらけのダムを進むこと40分、ようやくポイントについた。
 一目で大物がいると直感できるほどの空気があった。顔がニヤついてなかなか元に戻らない、、、。
 興奮する自分を抑えながら釣りの準備にかかる。そして、子供のころからの夢だったアマゾンでの釣りが始まった。

 開始して10分、私はアマゾンの洗礼を受けることとなる。トップウォータープラグという水面に浮くルアーをチョコチョコといやらしく動かしていると、「バシャッ」とアタリがあり、瞬間に合わせると竿が気持ちよく曲がる。「なかなかええ引きするやんけ」と、どんな大物があがってくるかとワクワクしていると、まん丸い黒い魚体が上がってきた。ブラックピラニアだ!でかい!!こんなでかいピラニア始めて見る!40センチはゆうに超えている。アマゾン上陸後、記念すべき第一匹目がアマゾンを代表するピラニアとは話が出来すぎてる。

ブラックピラニア 41センチ こわいっす!!

 それにしても歯がすごい!釣り上げた後もバクバクと噛み付こうとする。私は怖くて針をはずせなかった。まじまじとピラーニャ(現地ではピラニアをこう呼ぶ)観察する。これぞ熱帯!これぞアマゾン!再び自分はアマゾンで釣りをしてるのだと実感する。
 リリースする(逃がす)と思いきや昼飯にするからと船頭がクーラーボックスに入れた。初の獲物がこんなでかいピラーニャなのだから、ますます心は興奮してしまった。気をよくした私はさらにルアーを投げ続ける。
 まもなく、またまた38センチくらいのブラックピラーニャが上がってきた。引きが強く釣れると面白いのだが、ただルアーがつぶされる。1匹つるたびに1つルアーが使い物にならなくなってしまう。ルアーのボディに穴を開けられフック(針)をペシャンコにされるのだ。日本から持ってきたルアーも少ないので仕方なくピラーニャのいない場所に移動してもらう。
 言い忘れたが、私のターゲットは一応ピーコックバスである。目標は60センチと控え目にしておいた。でも、来る者は拒まず。ようは釣れれば何でもいいのだ。
 場所を変えしばらくすると、ようやく姿を現した。ピーコックバス、現地名ツクナレ。あの開高健がアマゾンの花火と絶賛した名魚だ!大きさは41センチとまずまずで、しばらくその美しさに心を奪われる。形はブラックバスと瓜二つなのだが他は全く別物である。その風格、パワー、美しさどれを取ってもすばらしい!!

ようやく会えたぜ! 
ピーコックバス(現地名トクナレ) 41センチ

 その後、立て続けにヒットし午前中は45センチを筆頭に10匹程釣れ大満足していた。ちなみに全部40センチ以上です。
 ここは、写真のように立ち木だらけなのでトップウォータープラグでしか釣りにならない。潜るルアーでやるとたちまち根掛かりである。スピナーベイトでもOKだが、私は日本から持っていくのを忘れて、現地にも売ってる訳ないので、ここでの釣りは終始トップウォーターであった。

 12時に岸にボートを付け、昼食の準備にかかる。ガイド兼船頭が手際よく先ほど釣ったブラックピラーニャとピーコックをさばく。その間に岸釣りで1匹釣り上げ、その後大物が掛かり健闘するもばれてしまった(逃がしてしまった)。「今のは50センチはあったな、、」と嘆いていると、飯ができたぞとガイドが呼びにくる。
 ブラジル入りして1週間を過ぎたあたりから下痢が続き、薬を飲んだのだがどうにも直らず「この魚を食えば間違いなく下痢が悪化するだろうな、、」と思う。しかも過去に琵琶湖のブラックバスを食べたとき食中毒を起こしたことがあるので、できるなら食べたくなかった。しかし、船頭が一生懸命作ってくれたし、腹も減ったし、しかもそれしか食い物がないので仕方なく食べることにする。
 まずはピラーニャを口にしてみる。これがなんともうまい!身が引き締まっており噛み答えがある。いままで食べた塩焼きの魚で1,2を争う美味である。下痢のため少しだけにしようと思っていたのだが、ペロリと半分平らげてしまった。お次はピーコックバス。こちらも絶品である。泥臭い日本のブラックとは違い、ほんのりと甘く噛むほどにうまみが出てくる。名船頭であり凄腕料理人のガイドに「ゴストーゾ(おいしい)ゴストーゾ」といってむしゃむしゃとかぶりついた。そして、不思議なことに今まで続いていた下痢がこれを契機にぱったりと止まってしまった。

 午後からもサルのようにルアーを投げまくる。日中で、太陽がカンカン照りにもかかわらず、トップウォーターによく反応する。ペンシルベイトをこぎみよく、それでいて、ねちっこくドッグウォークさせていると、「ドゥオボーン!!!」と水面が爆発する!瞬間心臓が止まり、アドレナリンが大量に分泌された!「グランジ!!(でかい!)」と船頭が叫ぶ。体をのけぞり思いっきりあわせる。竿がキリキリと曲がり、ドラッグがうなる。立ち木に巻かれまいと必死に格闘する、、が、、、、次の瞬間引きがなくなる。立ち木に巻かれたのだ。こうなったらもうどうすることもできない。肩の力が一瞬に抜けてしまった、、、。ルアーがからまった立ち木に向かいルアーを回収しようとするがそれもできず、ダブルショックに襲われた。山本さんが言っていたことが的中。もっと太いラインにすればよかったと後悔しながらその日の釣りが終了した。   
 「初日やからええか」、と自分を慰め明日はどう攻めようかと戦略をねった。しかし、なんせ日本から持っていった道具がとぼしいのだ。竿は1本、ルアーは15個(うち5個はロストした)しかなく、ラインも細い、、、。しかも、こんな田舎に釣具やなんてあるわけないのだ。これはもう、ある道具で戦うしかないなと腹をくくり眠ることにする。 

チャレンジ2日目

 昨日と同じ時間に出発する。少し雨が降っていたが、そんなことはどうでもいい。はやく釣りがしたい、、その気持ちでいっぱいだった。今日は大物を求めて少し遠出することとなった。立ち木の枝と格闘すること1時間半、ようやくそのポイントについた。同じようにトップウォータープラグを投げつづける。「がーがー」と、奇妙で汚い声を発しながらきれいなオオムが2匹寄り添って飛んでいる。しばらく上を向いてポカンと眺める。そんなことでもいちいち「自分はアマゾンにいるんだ、、」と、自分に酔ったりする。
 昨日と同じくトップウォーターへの反応はすこぶるいい。特にこいつらはひかりものに弱いのだ。で、キラキラ光るメッキ色のルアーを使うと3匹4匹が後を追ってゆらゆらとついて来る。ボートの目の前で食いつくものもいれば、「プイッ」と振り向いて去っていくものもいる。また、こいつらの登場の仕方がそれはもうすごいの一言である。「どぼーーん!!」と、10キロくらいある石を水に投げ込んだ時にする爆発音とともに水面を割って出て来るのである。その度に心臓が本当に止まりそうになるのだ。日本のバスは、「ばしゃ!!」というくらいなので、ピーコックと比べると、それはもう爆竹と地雷くらいの差がある。全く別物なのである。
 午前中は推定50センチを2匹もばらしてしまい、かなりおちこんだ。原因はやはり立ち木に巻きつかれてラインが切れたのである。しかし、さらに太いラインを持っているはずもないので、不本意ながらも釣りを続ける。

 気分転換に小さめのルアーにチェンジしてみると、熱帯魚屋でも見たことのない魚が上がってきた。見た目とは異なり、こいつは歯が鋭く、ラインのリーダーとして使っていたワイヤーを噛み切ってしまった。

 昼食後、気を取り直して釣り始めるが、釣り上げることが出来るのはせいぜい45センチまで、これくらいのサイズは3匹あげたのだが、それ以上が上がらない。午後も2匹の50センチオーバーにラインを切られてしまい、「もっといい道具を日本から持ってきて釣りがしたかった、、、、」と思いっきり後悔しながらその日の釣りが終わった。この日の釣果は18匹だったが、その代償にルアーをさらに5個ロストした。手持ちのルアーが残り5個になってしまったので、これではもう明日は釣りにならない。万事休すか、、、と泣きそうになった。
 宿に帰る車の中で、宿のオーナーであるビンセントに「もうルアーがない、、ラインもこんなんでは役に立たない、、」と話してみた。彼は「知り合いの釣師に何とかなるか聞いてみるから明日まで待っていろ。」と言われはしたが、こんな田舎にいい釣具なんかあるわけないと半ばあきらめていた。結局大物を釣れないまま俺の釣りは終わるのか、、と本当は泣きたい気分だった。
 私は熱帯魚マニアでもあるので明日は釣りをやめて水に潜って魚を観察しようかなぁ、なんて考えながら眠りについた。 

チャレンジ3日目    

 今まで会ってきたブラジル人と違い、彼らは必ず時間通りに集合場所に来た。仕事だからか、それとも釣り人だからか。私は釣師は万国共通釣りの日に朝寝坊することがないと思うのだが。やはり、朝はおいしい時間なので、それを逃すことは1日の釣果にもつながるだ。そのため、私も今までどんなに疲れていようとも必ずそういった時間は逃さない。体内時計が早くおきっちゃえよ、と後押しするのである。
 最終日はしとしとと雨が降る釣りには絶好の条件だった。しかも、ビンセントが36ポンドのラインとルアーを2つ持って来てくれた。1つは10センチのポッパーで、もう1つは子供の靴くらいある大きさのペンシルベイトであった。彼の親切さに十分感謝し、その気持ちに答えようと俄然やる気が沸いてきた。もちろん今日は初めから大物を狙うつもりだ。小物は結構釣り飽きたが、大物はことごとく逃してしまったので、目標の60センチを狙いルアーはこの巨大なペンシルベイトを終始使うことにした。

 釣り始めて10分、突然水面が爆発する!!「出た!!」これはでかいと瞬時にわかるほど派手で豪快な登場の仕方に一瞬平常心を無くしそうになる。ラインのたるみを巻き取り思いっきりアワセると乗った。
 強烈な引きに竿はきれいな弧を描きラインはドラッグをうならせビービーと出て行く。立ち木に巻かれまいと必死に抵抗する。今まで味わったことのない脳天を突き刺すようなパワーに頭が真っ白になる。ラインが太くなったため、力任せに強引に巻き取りにかかる。

 53センチ!やったぜ!!

 そして、ようやく上がってきたその大物は、頭に貫禄を示すようなこぶを付けたランカーだった。直後に足が震える、、、いつも、、いつもなのだ。大物が釣れた時には必ず足がガクガクになり震えてしまうのだ。琵琶湖で57センチのブラックバスを釣ったときも、パンタナールでドラードを釣ったときも決まって足が震えた。
 心から感動した時、興奮した時にはこういった現象が起こるのだ。震える自分を抑えつつメジャーをあてると、どうどうの53センチ。朝1発目から大物が来た。私はすっかり気を良くし、更なる大物を求めてルアーを投げ続けた。
 30分後、水深30センチくらいの浅瀬にルアーを投げ、5秒待ってからワンアクションをつけたとき、再び「ドゴーン!!!」と、水面が爆発する。気を抜いていたときにカウンターパンチを食らったようで、心臓が凍りつきそうになった。ラインを信じて力任せに格闘する、、が、立ち木に巻きつかれてしまった。引っ張ってもピクリともしなかったので、仕方なく立ち木にボートを寄せルアーを回収するため立ち木を折るとルアーが外れ、瞬間ラインが走り出す。まだ魚がルアーに引っ掛かっていたのだ。そのままラインを巻き上げ姿を現した大物は、なんと、57センチのランカーであった。

57センチだ!!  まいったか!!!

 その後、午前中に51と50を釣り上げた。笑いが止まらないとはこのことだ。釣れる魚がことごとく50センチオーバーなのである。日本では全く考えられない。
 昼食は50センチのピーコックバスである。日本でこんな大物をリリースせずに殺すなり食べるなりすればヒンシュクものだなと思いながらごっつい身にかぶりつく。
 午後からも引き続き同じルアーで粘ったのだが、どうやら大物は昼になるとパッタリと気配を消してしまった。で、小物2匹を釣り最終日は幕を閉じた。






 本日の釣果

 左から57,53,51,50





名ガイド兼すご腕料理人




 今日という日ほど面白い釣りができた日はない。目標の60センチには届かなかったものの、これ以上ない満足感を味わえたのだ。なんせ50オーバーが4匹も釣れたのだから。
 今回のアマゾン釣行で1番残念だったのは、ルアーをちょっとしか持って行かなかったことと、ラインが細すぎたことである。これらが初めから揃っていれば、もっといい釣果につながった気もするが、まあええか。
 最後まで読んで下さったそこのあなた!死ぬまでに1度アマゾンに行ってみなさい。あなたが遠い昔に忘れてしまった子供の笑顔が取り戻せますよ。