4.「障害児スカウティング」の沿革と現状」 1907年に始まったボーイスカウト運動は、その後から障害者と積極的 に関わってきた。 スカウト運動が始まった20世紀始めには、障害者は一般社会から 隔離され生きていくうえでの権利も持たなかった。この状況をみて、 スカウト運動は、その奉仕と助け合いの方針に従って、病院や施設 でのプログラムが取り入れられた。 1911年には、アメリカにおいて盲児を対象とするボーイスカウト隊が 発足し、1927年には、イギリスで組織的に障害児スカウティング部門 が置かれた。 その後、スカウト運動の広まりとともに、多くの加盟国において、この 運動がすすめられた。それぞれの国が取り組む障害児の福祉事業に 応える形で発展し、1961年には46の加盟国が、1970年にはすでに 78の加盟国がこの運動を実施していた。 世界組織としては、1954年にボーイスカウト国際委員会(後の世界 スカウト委員会)に「国際障害スカウト活動諮問委員会)(Intemational Advisory Committee on Scouting with Handicapped)が置かれた。 この運動は"Extension Scouting"(*1)とも呼ばれ、1969年には、世界 事務局から指導者のための手引書"These our Brothers Scouting"が 発行された。 また、世界事務局の下部組織小委員会の一つとして「エクステンション・ スカウティング小委員会」(World Extension Scouting Sub-Committee) が設置され「障害児のために」あるいは「共に」というニュアンスから 、 スカウト活動そのものを「拡張するという方向に重きをおいた運動が 推進された。 同年に西ドイツで初の「障害児スカウティング国際会議」も開催された。 その後、長年にわたり「障害児スカウティング」("Scouting with Handicapped"または"Extension Scouting")として活動が行われて きた。 しかし、それは障害者と共に行うスカウティングというよりも障害者の ためのスカウティングであった。 また、障害のある者と障害のない者が共に活動をするというより、 一つの奉仕活動といった意味合いが大きかった。 スカウト組織にも、障害者を問題視し、何か特別なプログラムが必要な 人々として考える傾向が強かった。 ボーイスカウト日本連盟は、1972年に組織的な活動を始め、「福祉 元年」といわれた。 1973年には、早くも第一回日本アグーナリーを開催した。 以来、熱心にこの分野に取り組み、過去9回「日本アグーナリー」を 開催するなど、スカウト運動を通じて、心身に障害のある青少年の 健全な育成と社会参加を重要な課題とする運動を進めてきた。 このような時代を経て、特に1981年の「国際障害者年」や1983年 から始まった。 「国際障害者の10年」の推進により、各国社会の障害者に対する 一般的な姿勢は大きく変化してきた。障害者が「施設」の中で生活する 必要はないという認識が広まるに連れ、彼らの地域共同体への参加を 認め、一般社会への統合を進めることが重要とされ、ノーマライゼー ション(*2)の実現が図られるようになっている。 この国際社会の動向は「障害児スカウティング」の概念にも影響を与え 世界を中の「障害児スカウティング」がそのような方向性を持って行わ れるようになっている。 *1."Scouting with Handcapped" や"Xetennsion Scouting"という 表現は特に障害児(者)のスカウティングと区別することになるため、 現在では"Scouting forall"という表現を用いることで、障害のある人 (the Disabled)ばかりでなく、恵まれない環境での生活を余儀なく されている人々(the under Privileged)や特別養護(Special Needs) を必要とする人々を含めて、スカウティングが全ての青少年に開かれた 運動であることをより強調するようになっている。 *2.高齢者も若者も、障害者もそうでない者も、全ての人間として普通 (ノーマル)の生活を送るため、共に暮らし、共に生き抜くような社会こそ が普通であるという考えである。 |