幸せにまつわる -5題-









青い鳥の真偽



「キミはいつでも幸せそうだ」

それが気に入らないとばかりに、シャドウはオレを責め立てる。
背中を抑えつける腕の力は、狩りの獲物を捕えてるみたいだ。
身勝手に始められた行為に、慣れた身体がすぐに追いついてしまうから。

「ahh... I'm happy...」
「殺してしまいたいほど…!」

勢いよく打ちつけられる間から、熱い飛沫が散った。
ねじ伏せられて、とうとう崩れ落ちる背にも、生命のカケラの雨が降る。

「…殺されたって、それがオマエなら、オレは幸せなんだよ、シャドウ」

それに、この瞬間が一番幸せなんだぜ?
行為を終えて、離れていくシャドウを寝転がったまま見送る。
オレの喉元からは堪え切れない笑いが漏れて、閉じられない眼には奇妙に潤う。

「そんなわけ、無いだろう?」






幸せはすぐに逃げて行ってしまうもの。
2010.07.12




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四つ葉のクローバー



どこかの国が戦争に勝ったらしい。
やっと故郷へ帰れると、疲れきった顔の兵士たちが列をなして輸送機へ乗り込んでゆく。
それを見送る群衆がいる。
滑走路脇のフェンスを押し倒しそうな人の波だが、ひとたびこちら側へ踏み込めば撃ち殺されてしまうと知っている。

シャドウは輸送機の影から、群衆の中にいるソニックを見つけた。

戦争は終わらない。
火に焼かれた街は、憎しみの煤で汚れていることを知っている。

ソニックもシャドウに気付いたようだ。
場違いなほど嬉しそうに笑って、こちらに手を振っている。

「馬鹿だな」

そうシャドウが呟いたのも、ソニックには聞こえたかもしれない。
引きあげ兵の最後にシャドウが輸送機に乗り込むと、動き始めたそれを追って群衆が押し寄せてきた。



砂の中の金の粒のようでも、彼を見つけることだけは簡単。
2010.07.13




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君は優しい嘘を吐く


ボクが図書館から出ると、外で待っていたソニックが女の子に囲まれていた。
咄嗟に隠れて様子を伺うと。
真正面に立つ子が俯いて頬を真っ赤に染めていて、他ふたりが餌をねだるヒナのようにピチピチとソニックに何かを訴えている。

「Oh... sorry. オレは冒険の方が楽しくてさ、とても恋なんてできないんだ」

正面の女の子が顔を上げた。
ソニックの冒険で助けられたような縁なんだろう。
あの時はありがとう。そう言うと、納得しない友人を連れて走って逃げて行った。

「恋愛する余裕もないのか、キミは」
「見てたのか?」

ガックリと力が抜けていくソニックを、わざと無視して先を歩く。
そう、あれは嘘だと知っている。
でも、もしも嘘じゃなかったとしたら。

「待てってば! オレを置いて行くなよ!」

後ろから腕を引かれ、持っていた本がバタバタと落ちる。
振りむけば、きっと真意が解っただろう。
それが、怖かった。

「キミは、優しいウソをつくから…」



2010.07.14





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零した幸せの涙



危険な任務だと解っていたし、それをキミにも伝えていた。
帰還が4日遅れたのも、防ぎきれなかった事故で傷を負ったのが原因だった。
ボクのミスだから誰にも文句は言えない。

やっと自分の部屋へ戻ることが許可されて、そこにいる青いハリネズミからも無言の攻撃を受ける。
任務の詳細は話すことができない。
ボクも何も言えない。

「なんで、怪我なんかしてるんだ」
「ミスをした」
「だからなんで、ミスなんかしたんだ!」

何を怒っているのかボクには想像もつかない。
危険な任務だと最初に言っておいたはずだから。

「焦ったんだ」
「何を」
「任務終了予定の日には、キミは必ずボクの部屋へくるからだ」

怪我をした時には1日の遅延があり、即帰還できる状況でもなかった。
戻れないと解っていたけれど、早く帰りたかった焦りでミスをしたんだ。

「…ば…バカだな、お前」

そう言うと、ボクの視界は青でいっぱいになる。
抱きつかれた腕に締め付けられる。
見ることができない彼の顔からは上気した熱がボクの頬に当たる。
もう怒っていないのだろうか。
キミの突然の行動は、ボクには読めないことが多い。

「傷、痛むか?」
「痛みなど感じない」
「そうか?」



2010.07.15





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大好きと大嫌いの用法



ソニックが歌っている。
50年以上前に流行った歌だ。
ボクは、それをマリアが歌っていたから知っている。
涙を堪えていれば、幸せの在り処が見つかる、そんな歌だった。

「ボクは嫌いだ。大嫌いだ」

ソニックはボクに構わず最後まで歌った。
はじめは誰もいなかった彼の周りから、拍手が起こり、足元に置かれた空き缶に小さなコインが入れられてゆく。

「今日は随分あるな。ジェラートでも食うか?」
「ボクは要らない」
「シャドウ、お前さ」

何かを言われる前に、ボクは路上へ視線を移した。
暑さに滴り落ちる汗と、瞳から落ちる水滴が、同じに見えるように。

「また歌ってやるよ。お前が大嫌いなあの歌を」

ソニックは、自慢の足でどこかへ行き、戻ってきた時には二つのジェラートを手にしていた。



2010.07.16


お題は「ligament」様よりお借りしました。











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