木漏れ日



 ソニックの部屋は散らかっている。
 僕の部屋と比べれば、だが、ごく一般的にも散らかってると言えるだろう。
 時折誰かが整理するのか、壁際の棚にぎっしり、それでも乱雑に、小物の類が並んでいる。
 僕のリミッターも、ひとつだけそこにあって驚いた。

「埃だらけだろ? お前の針が白くなっちまうぜ」

 家主は、床の上にまで散らかった、さまざまな「想い出」を、大きなモップを使って一気に押し流す。
 それらはまた壁際に寄り、時を経て埃をかぶるのだろう。決して捨てられることはなく。

「時間がかかりそうだ。そこに座って待っててくれよ」

 指差されたのは、クッションがひとつだけ乗ったソファ。間違いなく寝床だ。
 大きめのサイドテーブルには、金色のリング、緑色の石の付いたリング、卵型の目覚まし時計、羽飾りのついたマスカレード、それから冒険小説が5冊程。

「本を読むのは苦手じゃなかったのか」
「読めたのは2冊だけさ。…いや違う、ちゃんとした話は…」

 言いさしながらソニックは暖炉に首を突っ込んで、崩れかけた炭を掴むと、先ほど広く開けた床の上に座りこむ。
 そして、何か考えながら、木の床を黒く塗りつぶし始めた。

「キミが見た景色を、僕にも見せてくれるんじゃなかったのか」
「そう。とびっきりのヤツさ!」

 確かに時間がかかりそうだ。
 積み上げられた冒険小説の中から1冊を手に取る。
 人を信じられなくなった王様に、千夜一夜かけてシャーラザッドが紡いだ物語。
 最後に王様は人を愛する気持ちを取り戻すという。
 ・・・
 僕の物語の結末は、

「Finished!」

 顔を上げると、手袋どころか、靴も手足も、顔もところどころ黒く汚したソニックが得意げに僕を見ている。
 床は、一見、真っ黒だ。

「一体何を描いてたんだ、キミは」
「ココ! ちょうどこの位置に立ってみろよ」

 わからないまま、白い点に見える炭の塗られていない部分を踏んで進み、ソニックが示した位置へ、彼の隣へ立った。
 真っ黒な床には、白い隙間がいくつもあって、照明の光を鈍く反射していて。
 まるで、光と影のパズル。

「これが、今日俺が見てきた、一番の景色さ!」
「馬鹿だな、キミは」

 軽口を叩きながらも、昼の光のような感情が満ちてくる。
 こんなことを千夜一夜繰り返されたら、僕も変わってしまうのだろうか。

 箱庭のような部屋で、僕たちが見た木漏れ日も、いつかは埃を被ってゆくのだろう。















床の上に、絵を描くっていいよね。



2010.03.17


--- ブラウザ・BACKでお戻りください。 ---