「おかえり」
ごく自然にそう言い放つソニックに、僕はむっと黙り込んだ。
散らかった部屋にジャンクフードが乗ったテーブル。断りを入れずその中からピザを一切れ頬張ると、シャワールームへ行って一日の埃を落とす。
疲れてるんだ、勘弁してくれ。
ざっと湯を落として、バスタオルを羽織ると、リビングを横切りベッドへダイブする。
「シャドウ」
遠慮も何もない。
ソニックがバスタオルをはぎ取り、僕の腰の上に乗る。
「やろうぜ」
「何を」
「抱いてくれよ」
甘い誘いの言葉。だが、僕から洩れるのはため息だ。
ソニックの腕を掴んでベッドに引き倒し、そのまま羽交い絞めにする。
「抱いてやるよ」
「え?」
「おやすみ、ソニック」
身体をよじって僕に腕を回そうとするけれど、それも許さない。
ソニックの身体はやわらかくて、こうすると安心するんだ。
「動くな」
「ちょ、俺はっ!そういう抱いてじゃなくて…」
もぐもぐと口をとがらせて文句を続けようとするけれど、僕の眠気が強くなるのと同じように、ソニックの動きも止まり、やがて、温くて深い眠りに墜ちた。
「おはよう、ソニック」
きれいに片付いたテーブルに、パンと炒ったソーセージ、サルサソースを並べていると、ソニックはむっとした顔で言うのだ。
「シャドウなんか…」
2010.02.19
今夜の月はやっと舟の形になったところ。
黒い皮膜が風を抱いて、薄明かりの空を舞う。
やがて城へたどり着くと、翼は黒いマントに変わった。
「だって、アイツ起きないし!」
人間の血も飽きた。
一歩、二歩、マントに風を含ませて庭を駆けると、露に濡れだした薔薇の甘い香りが身に染みる。
カーテンのはためく窓から寝室に戻り、暖炉の隠し扉から階段を下りると、彼の墓、黒く艶やかな棺桶がある。
軽く触れるだけでずりずりと石蓋が動いて、中に眠る彼が覗く。
「…シャドウ、まだ眠ってんだ」
つまらない。ひとりの時間が退屈で仕方ない。
キスをすれば目覚める姫の話があったっけ。けどコイツはそんなタマじゃない。
鼻を寄せると呼吸が止まってるのがわかる。頬に触れてもまったく熱を感じない。
それでも、生きてる、究極の魔物。
「早く、起きなきゃ俺が食っちまうぜ?」
そう言って、ちょうど心臓の上あたりにある白い胸毛に顔をうずめ、遠慮がちに牙を突き立てた。
ぷつり、赤い玉が湧きあがる。
ちつ、と吸う。
「んんんっ!! な、なんだよこれ、シャ、ど…」
身体を快感が貫いた。
甘い、美味い、そして、ぴりぴりと全身に痺れが走り、下半身に熱が集まりはじめ、薄い被毛から胸の突起も浮き上がる。
また、血の玉が浮かび、それを舐めとる。また痺れる。
ぺろぺろと、犬みたいにシャドウの胸を舐め続け、心臓の上は赤い胸毛に変わっていた。
「シャドォ…どうしよ…オレ、欲しくてたまんなっ…」
柔らかな後孔を指でぐりぐりと広げながら、零した涙がぽたぽたと棺桶に降り注ぐ。
その雨のせいだ。
すべての影が揺らぎ、城の主が薄く赤い瞳を覗かせる。
胸の傷を舐めながら昇り詰める恋人に、シャドウは口の端をななめ上に吊りあげた。
「しかし、棺桶は狭すぎるな」
待ち望んだ声音に欲情色の顔を向ける。
音もなく起き上がったシャドウにつんと尖った左側の胸に吸いつかれ、その牙が柔らかな皮膚を貫いた。
痛みではなく、全身が性感帯に変わった感覚に、ぐらぐらと目を回す。
「…ぁぁ、んも…イッ…」
「寝室へ戻ろう。キミを人間などに絶対に渡さない。僕のものだ」
シャドウの腕が、重い身体を抱いてくれる。
黒いマントを引きずらないように、墓場を抜ける階段を上がる。
夜薔薇よりも甘い香りで、
ねえ、
早く満たして。
また吸血鬼かwww
2010.02.23
「今日はキミの相手はしない」
「わかった。このテレビ番組が終わったら家に帰るよ」
シャドウの遠ざかる気配を背中で感じて、ソニックは長い息を吐いた。
さっきまで面白かったテレビは、今はただ音と光を出す箱だ。
帰りを待ってた、とは言えない。どう見ても押し掛けだ。
ソファーのいつもシャドウが座る場所に深く腰掛ける。
あした、
「明日?」
「明日は、一緒にいるから」
ドアを開け放したままの、隣の寝室からシャドウが声を張り上げた。
耳を澄ます、ベッドが軋む音がする。
疲れてるのに、明日の約束をしてくれる。それだけで満足じゃないか。
ほんの少し、浮上した気持ちで、ソニックはなんとなく自分の身体に触れた。
ぺたりとした胸は、そこに快感を得る部分はあるけれど、自分ではもっと感じるようにできない。
指は腹の上を滑って、形が現われた局部に触れる。形はあるけれど、柔らかく萎えたまま。射精感はあるのに、自分で気持ちよくしてやることができなくなっている。
足を開いて、奥の穴に指先を潜らせようとしたが、乾いた指が痛くて入らない。
指を手袋ごと口の中に入れ、シャドウを舐める時のようにしゃぶって濡らして、それからもう一度、尻へ触れる。
指が入っていく。その中はすっかり柔らかくなっていた。
「…んんっ!…く、…しび、れる」
柔らかな内壁の奥、シャドウはいつもそこに、彼の先端をぐりぐりと当ててくる。
思い出すたびに、甘い痺れが下半身に満ち、それが欲しくて痛みを感じるほどまでに指先でこすりまくった。
開いた足の間を、テレビの明りが照らしてる。こぼれた唾液や先走りが、赤やオレンジ色を反射させる。
「ひぁっ、やだ…、シャド…うぅ…」
「呼んだか?」
快感に夢中になりすぎて、気付かなかった。
シャドウは、呆れた様子で、でも眉間の皺は普段より浅い。
驚いて硬直したままのソニックの頬にキスをした。
瞬間、強い性の香りが、部屋に満ちる。
流しっぱなしのテレビの光が、パンドラの箱を開けたように、二人を照らした。
2010.03.13
ソニックが大きな鏡を買ってきた。
それをわざわざ僕の部屋へ持ち込む。
僕は、動くものに気を取られるから、落ち着かない。
ソニックは上機嫌でベッドの横へ並べるように置く。
「小道具さ」
どこでそんな馬鹿を仕込まれてくるのか知らないが、他のオモチャ同様、明日の朝には片づけられていることを望む。
鏡に映るモノを無視する。どうしても視界に入るが、無視をする。
苛立つ。
目の前のソニックに集中する。
ガツガツと貪って、全てを集中に収めたいのに、ソニックの視線は鏡の向こうから感じるのだ。
「シャ…んんっ! やっぱり、コレ、嫌いなのか?」
視線と、声が聞こえる方向が違う。
さらに苛立つ。
ソニックを四つ這いにさせると、僕は身体の向きを変え、鏡の中のソニックを見つめるようにしてやる。
僕のものをソニックの尻に埋めていく。
と、初めて中が嫌がるように絞めつけられた。
「ちゃんと鏡の中を見てろ、ソニック」
みるみるうちに頬が赤くなり、悔しそうに目を逸らそうとする。
けれど、僕はそれを許さない。
胸の尖りや、固くなったソニックに、ことさら優しく触れて蕩かす。
昇りつめてゆくソニックの表情を鏡越しにじつと見つめていると、確かにコレは悪くない、と思う。
「…もう、やめる」
注ぎ込まれた精の余韻に震えながら、ソニックはベッドに突っ伏した。
僕は、鏡をソニックの視界から消すようにして、その隣に転がる。
「シャドウ…オレだけ見てくれよ…鏡じゃなくて」
切ない声を聞きながら、僕は、明日からの鏡の置き場所を考えていた。
2010.03.15