ココロのそばに



 起床のアラームが鳴り、睡眠カプセルの蓋を開く。
 午前6時。
 衛星軌道上にあるアークに昼も夜もないのだが、研究署員の健康維持管理の為、生活リズムは24時間周期と決められている。
 僕にも「睡眠」が与えられている。強靭な体を持ってはいるけれど、生物として活動するためには休息は必要なものだった。

 目覚めて、まず最初に機械計測で行われる身体チェック。
 それが終わるとProf.ジェラルドに「頼まれ」ていること、マリアを起こしに行く。
 けれど、昨日からマリアは部屋にはいない。
 おそらくまだ戻ってはいない。
 シャドウは医療センターへ足を向けた。

 昨日の朝、普段通りを装うマリアだったが、顔色が優れないことに気がついた。
 おかしいと触れた手のひらは、力が無くひんやりとしていた。
 すぐに治療が始まったのだが、夕方には高熱が出ていた。
 マリアの身体にある免疫は、発熱の原因に抵抗することができない。投薬でなんとか命をつないでいるけれど、少しの遅れ、小さなミスひとつで、彼女の命は終わってしまう。
 とても脆い。
 徹底的な滅菌を施して、マリアのそばに立つ。プロフェッサーでさえ、入れない場所に、シャドウは入れる。

「だいじょうぶ、よ、シャドウ」

 そう言ってマリアは笑う。
 壊れそうなほど早く心臓は脈打っているのに、シャドウの前では苦しい息を抑えようとする。
 こんなとき、なんて言えばいいのか、まだわからなかった。





 昨日と同じ場所に、マリアは眠っていた。
 まだ苦しそうにしている。注射が使えないので、薬剤は転送装置で体内に入れているけれど、その時の僅かな衝撃が首筋に赤く残っている。

「マリア、おはよう。朝だよ」

 薄く、青い瞳を覗かせて、マリアが目を覚ました。
 いつもの朝と同じように笑おうとする。
 が、今朝は違った。口元が、シャドウ、と呼んでいる。

「おねがい、いかないで」

 そう言った後、マリアは、ごめんね、うそよ、と笑う。
 未だ、高熱は彼女の体力を奪い続けている。

 僕は、今日も様々な訓練や学習の予定が組まれている。
 行かなくてはならない。
 けれど、昨日の僕は、マリアのことが気がかりで、訓練を途中で切り上げることになったのだ。署員にも迷惑をかけた。
 きっと、今日も同じことになるに違いない。
 だから。
 ・・・
 いや、違う。

「そばにいるよ、マリア。ずっとそばにいる」

 汗ばんで、そこだけ氷のように冷たいマリアの手を取り、僕の頬にあてた。
 すると。
 さっきの笑みとは違う、本当に嬉しそうに、マリアは静かに微笑んだ。涙がすっと落ちる。

 ずっと、そばにいたいんだ。





 モニターでその様子を見守っていた、Prof.ジェラルド・ロボトニックは、プロジェクト・シャドウのメンバーに本日のプログラム中止を伝達する。
 政府系の息のかかった署員から不満の声が上がったけれど、プロフェッサーは彼らには意味のわからない言葉を口にする。

「これでいい。プロジェクト・シャドウは完成に近づくのだよ」

 モニターの向こうで眠る彼の孫娘は、とても幸せそうに見えた。










ソニックバトル(一周目)終了きねーん!
ソニバト・シャドウ編の、ルージュもビックリ発言に続けばいいなと思って。

2009.11.19


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