拍手・日記 log  全部で10コ






背後から忍び足で近付く気配に、指を止める。

「…あ、止めるなよ」
「他人に聞かせるモノじゃない」

眼下にハイウェイが流れる吊り橋の主塔のてっぺんで、出会う者なんて限られている。
後から来た方が、前にいた方の隣に立って、へへっと笑う。
手に持っている物は、同じ、銀色の笛。
唇にあて、強い風に音を乗せる。
やがて、追うように、もうひとつの笛が重なる。

風と、二つの笛。
わずかの間、競い合ったセッションは、奏でた者以外、誰も知らない。


2009.05.04




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その口で、五題


1.災いを呼ぶこと悪魔のごとし


「結局オレよりも仕事の方が大事なんだろ」

キスの途中で入った緊急callを無視しようとしたら、思いっきり腕を突っぱねて避けられた。
エージェントなど知るものか。今はキミの視線をボクに向けさせることが最重要任務だというのに。
横を向いた顔、ヘの字に曲がった口元。
キミが見ているのは、しつこくcall-bellが鳴り続ける通信機。

「早く出ろよ。お前の飼い主サマからの呼び出しだぜ?」

ボクの立場はボクが熟知している。それを解っていて、キミがそれを言うか。
全く、強い毒を持ってるハリネズミだ。
ボクは耳障りな電子音を掴んで、そばに置いてあったコーヒーの中にそれを沈めた。
ふてくされた顔に、もう一度、キスをする。
口付ける直前。キミの唇が悪魔のように楽しそうに歪むのが見えた。

2009.05.06
お題サイト  : Fortune Fate




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その口で、五題


2.「やだ」しか言わない


何があっても我を通すキミが、極端に嫌うものが何なのか。
途中で投げ出すこと。
無理矢理終わらせること。
それから。
別れ。

「…やだ」

閉じられた眼の横側へ落ちる涙を舐めとって、震える体をそっと撫でる。
独りで耐えずに頼ればいい。キミが他人に言うほど、キミは誰かを頼ったりはしない。
消化しきれない思いは、こうやってボクの夜まで浸食しているというのに。
ボクもキミも、必ず帰ってきて、必ず抱きしめあうから。不安に思うことなど無い。
そう言ってやれればいいのに。
もう二度と、離れたくなどないのに。
泣いて、眠りつづけるキミを抱いて、

「ボクも嫌だ」

とつぶやいた。

2009.05.07
お題サイト  : Fortune Fate




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その口で、五題


3.言って欲しいこと


「シャドウ、好き!好き!アイシテル!」

ニッコニッコ笑ってるキミの額を小突いて、長い溜息を吐く。
体中をホコリまみれにして、傷だらけにして、まるで子供。

「ボクと、冒険と、どちらが好き?」

うーん、と呻いて考える。眉間の縦皺がぎゅーっと深くなるくらい考えている。
そんなに考えないと出ない答えなのか。
ボクが選ばれても、ボクが選ばれなくても、どちらでもガッカリする答えだ。
選べるわけがない。
キミは急に真顔になって、ボクを正面から見つめた。

「オレさ…いつか、オマエと二人で冒険したい」

絶句した。
黙ったボクに、キミはわっと飛びついた。

2009.05.08
お題サイト  : Fortune Fate




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その口で、五題


4.してほしいこと


互いの薄い被毛を汗で湿らせ、ゴールの草原で寝転がる。
キミと走る時は他のどんな時よりも全力で、脱力感さえ心地よい。
絡みつくように、キミが覆いかぶさってきて、ボクにキスをする。
耳の中は鼓動のリズムでいっぱいだ。
酸素が欲しくて口を開けば、入ってくるのはキミの舌。それごと、キミの呼吸も全部ボクがもらう。

は。

短い呼吸とキミの唇が離れて、代わりに押しつけられるしなやかな身体。

「こんな場所で?」

陽光と青空と草原。
キスをして、舐めあって、抱きあって。
キミはいたずらっぽく笑う。

「Shadow... smile」

…それは、高くつくぞ?

2009.05.09
お題サイト  : Fortune Fate




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その口で、五題


5.カタルにオチル


好きと言えだとか、愛してると言えだとか。
どんなところが好きだとか、嫌いだとか。
それを確認してどうするのか。
全く無駄だ。
取り合わずにいたら、「まあいいや」とあっさりあきらめたらしく無駄話が始まる。

朝は何が食べたいだとか、その前にどこかへ走って行きたいだとか。
気だるさの漂う寝具の上で、ふわふわと夢の続きをみているように。
遺跡のある島まで行こうとか、青い飛行機を追いかけようとか、桃色の少女に見つかったらどうするとか。
無邪気を装って、そのくせ計算高いキミの、策略に乗るものかとそれも取り合わない。
けれど、腹は立つ。
黙らせたくて、ひとつ、口の端にキスをする。

明日の朝には別れるボクとキミの道。
ボクには新しい任務があり、キミは冒険を続ける。
風を捕まえることなどできない。そう言われてる。
けれど。

「どこまでも走ってゆけばいい。どんな遠くでも構わない」
「いつかこの星を飛び出して、宇宙の果てまで走っていくかもしれないぜ」
「キミに追いつくのはボクだけだ。必ず捕まえる。覚えておけ、ソニック」

一瞬遅れて、キミの頬から湯気の立つ温みを感じた。
ボクは今何か変なことを言っただろうか。

2009.05.10
お題サイト  : Fortune Fate




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「ねえソニック。今日はシャドウの所に行かないの?」

 夜空の散歩を楽しみながら、眼下に見えるステーションスクエアの街明かりをテイルスが指さした。
 後部座席を飛び出して翼の上にまっすぐ立ち、空に飛びこまんばかりに身体を折って地上の星空を眺める。
 あのともしびのどこか、なんて言わない。シャドウがいる場所、その部屋の窓くらい、どんなに光があってもたったひとつ、ソニックにはわかる。

「前に戻る日の話をしてたでしょ?ルージュにも会ったから、帰ってきてるのは確実だよ?」
「そーだな。でも今日はオレのことなんて見向きもされない日だぜ?」

 テイルスは「まさかあ?」と言って取り合わない。
 でも本当なのだ。
 任務明け、特になにかしらの感情が湧くたぐいのものの後には、シャドウはひそかな趣味に没頭しているのだ。無心、というのはこういうものだろう。
 邪魔しちゃ悪い。
 それに手伝えって言われるのも困る。

「明日、一緒に行こうぜ。きっと美味いモンが出てくるからさ」

シャドウは今頃、メレンゲを立ててる頃かもしれない。
テイルスは、ボクはクリームの家でごちそうになるから、と答えた。


2009.05.18




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(前後の何があったのか、とかモロモロを全く考えていない小話。)


薄い青が流れて見える。
あれが空なら、どんなに良かっただろう。
こぽり、こぽり、泡が舞いあがる。
沈んでゆく身体と、反対向きにふわふわと形を変えて昇ってゆく吐息。
空が遠くなる。
光の軌跡を横切ってゆく自由な魚たちの行列。
遠くなる。
暗くなる。
視界は闇に包まれるのに、酸素を失くした脳はチカチカと光を見せ始める。
思わずその光に手を伸ばした。



ごぽ。

自分でも信じられない音が、口から飛び出した。
はっと目を覚まし体を動かそうとして、胸や腹をつぶす勢いで押されて痛い。文句を言おうとして、また口と鼻から水が噴き出す。

「ゴホッ!ガッ…! い、痛いっ!」

やっとの思いで絞り出した声は汚れて酷いものだった。
手を確かめる。手袋がぐっしょり濡れている。いや、全身が。
そして、腹部の嫌な感じのふくらみを強烈に抑えていた手が外れた。自身の体に跨るように見下ろす彼は、逆光で見えにくいはずなのに、赤い瞳をやけにくっきり輝かせている。
そして、彼も、水滴を散らしている。

「Thanks... 助かったぜ」

笑おうとした頬から、ぱしん、と軽い音がした。
痛みは胸の奥でした。
彼はそのまま何も言わずに去ったけれど、意識のない時に唇に残された彼の気配は、胸の痛みと共にいつまでも感じられることができた。


2009.05.20




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(電脳コイル見てたらどうしてもパロりたくなった12話ヒゲをハリネズミで!)


「オ、オレだって!もうすぐシャドウみたいなモフモフがいっぱい生えてくるに違いないさ!」

 ふろ上がりのソニックは、鏡の前で胸のあたりをごしごしとこすってみる。その部分だけ青く固めの小さなトゲもなく、まるっきり地肌が透けて見えるほどしか生えていないのだけれども。
 ちょっと悲しい気持ちになって、今度は鏡の中の自分を見る。

「ひょっとしたら、こっちが先かな?」

 つるんとした頬から顎にかけてのラインに、テイルスのような白いモフモフが生えるのを想像してみる。
 あんな感じならいいのに。きっとダンディなハリネズミになると思う。
 なんて考えつつ、鏡についた汚れをタオルで拭いてみる。が、黒い点々が取れない。
 おかしい。
 よくよく、鏡を覗きこんでみた。
「…Noooooooo!!!!!!! ボッサボサ!!!!!」

わからないひとには意味不明すぎるwwwww
黒いヒゲ状生物がびっしり生えるんだよ♪
しかも伝染する。ちゅうで移るwwww
だから最初はシャドウに…
感染力が強くなると、触れただけで移る。
エミーとかルージュにも移るから、殺されそうな勢いで怒られたらいいwwww

2009.05.21




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雨の気配に目を覚ました。
春の少し冷たい風にまぎれて落ちてくる水滴はほとんど音を立てない。
すっと胸に沁みこんで、中にあるものを育ててゆく。
少しずつ膨らんで、朝になれば開く花のような。

でも、朝なんてもう待ちきれない。飛んでゆく心を抑えられない。
思い切り走っていれば、春の雨なんてすぐに乾いてゆく。
ふと、隣を見れば、さっきまでみていた夢の続き。
何も知らなかった、子供のころの自分が問いかける。

「この雨はどこまで続いてる?」

そりゃあ、想いを潤おしてくれるひとのところまでさ。
おいおい、不思議そうな顔をするなよ。

部屋が見えた。明かりがついている。うれしくなる。
けど、迎えにくればいいのに、とも思う。
きっと渋い顔をしてるだろう。
部屋を濡らして汚されることを怒るだろう。
大きなタオルでオレを包みながら。

なんて言い訳すればいい?
雨の中に問いかける。
何も知らない、子供のころの自分が答えた。

「雨音を聞きたくなったから」

Good-Idea!
可笑しくて笑うと、不思議そうな顔をして水に遊んで消えていった。

シャドウに夢の話をしよう。
子供のころの自分に会えたら、これが恋だと教えてやりたかったのだ。

あたたかな胸に耳をあて、ほとんど音を立てない、しずかな、しずかな、雨音を聞きながら。


2009.05.26







拍手の話はだいたい過去日記のサルベージwww
日付はサイトかミクシかどっちかが初出。


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