ひみリン Party Story



 王宮に近い街のバザールをぶらぶら散歩していると、お約束のような悲鳴が上がった。

「マジンよ!」
「マジンが出たー!」

 こりゃ一大事。
 食べかけのフルーツを放り投げ、逃げる人波に逆らって駆けつけてみると、女の子がひとり、猛然とマジンに立ち向かってゆくのが見える。

「アンタたち、いい加減にしなさいよ〜!」

 振り上げるハンマーに、彼女の顔を覆っていたヴェールが落ちた。
 鮮やかに翻るピンク色。

「Amy...エミーもいたのか!」

 ピコン!ピコン!と勢いよく壊されるマジンたち。けれど、その数は多い。
 加勢するっきゃないかな。
 風の力を解放し、マジンに次々とホーミングアタックを仕掛け、最後に残ったレッドジンがエミーの背後からファイヤーブレスを吹きかけようと背をそらした瞬間、脳天からスピンアタックでぶっ飛ばしてやった。
 パシュン、…魔法で作られた悪意の塊がかき消えた。
 人通りのなくなったバザールの真ん中で、一人で戦ってたエミーはヘナヘナとその場に座り込む。

「hey,大丈夫かい、エミー?」

 声をかけると、戸惑った表情のあと、ニッコリ笑って立ちあがりピョコンと頭を下げた。

「助けてくれてありがとう。私の名前はジャスミン。あなたは?」

 尋ねられて、似て非なる別人…にガックリする。
 さて、このお話はなんだっけ?

「俺はソニック。リングの精に呼ばれてコッチの世界に来たんだけど」
「旅人なのね。ねえ、さっきエミーって呼んだ人はあなたの恋人?」

 ってエミーそっくりな顔で聞くかなあ?

「No! 違うよ。と、ともだち」
「まあ、じゃあ良かったわ!」

 ジャスミンは輝かんばかりの笑顔で言った。

「ソニック、お願い! 私と結婚して!」
「Why!!!????????????????」

 あまりの出来事に、ピコピコハンマーで討ち死にするかと思った。



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「ああ、ジャスミン王女なら知ってるぜ。とんだおてんばで、結婚相手を次々となぎ倒してるって」
「でも次の誕生日までに結婚相手が決まらなかったら、大臣の魔法使いと結婚させられちゃうんでしょ」
「お気の毒だな」
「お気の毒だよね」

 シンドバッドとアリババが王宮の事情を教えてくれる。
 これはどうやらあの話。

「気の毒だと思うんなら、お前たちが助けてやれよ」

 すげー金持ちなんだし、と振ってみるが。

「オレは妻帯者だ。ヨメは3人いる」

 と照れ怒ったナックルズの顔でシンドバッドが言う。

「僕も奥さん2人いるんだv」

 とテヘヘと笑ったテイルスの顔でアリババが言う。
 ココロが爆死したかと思った…さすが一夫多妻の国。
 だけど、女性に奥手なハリモグラとあどけなさ残る8歳の子狐の姿でそれは、キツい。

 結局、王宮へ乗り込む為に必要な宝物の数々…ゾウ50頭とか、美女の奴隷50人とか、宝石の山たくさんとか、金貨の山たくさんなどなどは、シンドバッドとアリババが用立ててくれた。
 さすがアラビアンナイトの英雄、財力だってハンパない。

 せっかくだから、お話を楽しんでみようと、王宮の前へやってきた。
 たのもー!と声をかけようとしたら、

「ソニックさん、まってくださーい!」

 小さな女の子が駆け寄ってきた。
 どう見たって、ウサギの子供、クリームだ。

「おわすれものですよ。当家の主人が少々改造した、ともうしておりましたあ!」

 ハイッ!と手渡されたのは、魔法のじゅうたん。改造ってことはテイルスか?そしてテイルスが主人ということは…。

「Thanks Cream. じゃなくて、もしかして、モルジアナ?」
「ハイデス!ワタシもソニックさんにお礼を言わなくちゃ。40人のとうぞくのホネを返してくださってありがとうございます」

 確か、モルジアナっていえば、アリババの家の奴隷ですごく機転がきいて…

「あのとうぞくたちをぶっころしたのがワタシだってバレちゃったらタイヘンなんですv」
「Nooooooo!!!!!!!!」

 クリームがそれを言っちゃいけなーい!!!!



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「それで?ソニックとやら。お前がジャスミン王女が選んだ結婚相手だな」
「そうなの、お母様v」
「No! No! って…お母様?ブレイズが女王なのか!?」

 確かにもともと皇女だし、物腰優雅で真面目で誤魔化しが利かない雰囲気がよく似合っている、とは思うが。

「街で私と一緒にマジンと戦ってくれたの。すっごく強かったのよ!」
「我が国の魔法使いも強いだろう。私はお前の幸せを願って、法律に従って結婚を」
「イヤよそんなの!」
「Stop! 幸せってモンは他人や法律が決めるんじゃない。自分で決めるんだろ?」
「そうよ、お母様!だから私はソニックと結婚を」
「だー!それは違うって!」

 話は堂々巡りする。ブレイズな女王が飽きたように溜息ひとつ。

「ジャスミン王女のムコになるにしろ、この国の法律を破らせるにしろ、そなた、ソニックの持つ力をきちんと示してもらわなければ私は聞く耳を持たぬ」
「力って言われてもなあ」

 ずっとこのお話、アラビアンナイトの世界にいられるわけじゃない。今だけ力を示しても無駄だろう。
 じゃあ、何か残せるようなもの…

「そーだな、とりあえずこの魔法のじゅうたんを女王さまに」

 丸めてあったじゅうたんをバッと開く。と、なぜか、中央部分に白いモフ毛が付いている!

「ふむ。これは一体どういうものだ?」
「乗ると、飛ぶ…」
「このモフ毛につかまるのか?」

 女王がモフ毛を掴むと、じゅうたんが水色に輝きだしすっごーい勢いで浮き上がった。王宮中をぴゅーんと飛び回る。
 絶対アイツだ。PKを使うアイツに違いない。

「すごいわね、あのじゅうたん。お母様があんなに楽しそうに笑ってるわ」
「そーだな。オレも初めてみたよ。ブレイズがあんなに笑ってるの…」
「戻ってきたら、私も乗ってもいい?」

 戻ってきたら…まず最初にじゅうたんの精を引っ張り出してやる。まだまだ戻りそうにないけど。

 カツン、硬いものが床を叩く音が背後で響いた。

「君がジャスミン王女のムコ候補か?」

 振り返らなくてもわかる。けど、振り向きざまに言ってやる。

「出たな、悪い魔法使い!」



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「僕はジャファー。究極にして最強の魔法使い」

 クールに言い放つのはやっぱりシャドウ。だけど、額に青筋が立ってる。

「わりぃ!魔法のランプは封印しちまったから、もうここに持ってこれないな」
「ランプ?イレイザージンのことか。そんなもの無くとも、僕がこの世界で究極の存在であることは変わりない」
「あっちと同じかよ」

 思わずガックリする。この物知り顔にちょっとくらい文句が言いたくなってくる。

「大変だったんだぜ?イレイザーに炎の矢で刺されたり、世界リングを集めさせられたり」

 シャドウな魔法使いの目がギラン!と光って、手にした杖をブンと振りおろす。
 あ、あれ?何だ?めちゃくちゃ怒ってんのか?

「この僕が、イレイザー復活を阻止するために、世界リングを隠したというのに…お前がそれを集めただと!?」
「そそそそそ、そーりー、ごめんごめんっ!な、なんとかなったんだから許せよ!」
「ランプの守護を任せておいたリングの精はどうした?」
「ええと、シャーラのことか?」
「彼女と約束したんだ…『この消えてしまう物語を、もう一度誰かに読んでもらえるように』と

 言いながらジャファーは現実からどこかへ飛んで行きそうになってる。でも、どこかで聞いたことのあるセリフのアレンジだ。

「へぇ…。直接確認してみようぜ。…シャーラ!」

 指に嵌まった金色のリングをコシコシこすると、白い煙がモフンと上がって愛らしい妖精が姿を現した。

「はい、なんでしょうご主人さま」
「なあ、アイツ知ってる?」
「まあっ、ジャファーさま!お久しぶりです!シャーラ、ゴージャスモード発動しますっ!」

 ふわん、と光に包まれたシャーラは、白い肌、青い瞳、金の髪に変身。ああ、マリアがいるよ、マリアが。
 ジャファーは喜びを押し隠しつつも、さりげなくシャーラと手をつないだりしてる。
 くっそう、かわいいなシャドウが…別人だけど。

「なあ、シャーラとジャファーってどういう関係なんだよ」
「私を作ったのはジャファーさまです。ねっ♪」

 なんてこったー!
 なんだかもう、全部この見かけシャドウの悪い魔法使いに仕組まれた話のような気がしてきた。

「7つの世界リングを集めた、ということは、ソニック、君はこの世界の者ではないな。いずれ元の世界へ戻るときには、このリングの精は僕に返してもらうぞ」
「はいはい。もう、任せる。で?お前はジャスミン王女と結婚するのか?」
「えー!!!いやだあっ!!」

 突然話を振られたエミーなジャスミン王女が心底嫌がる。ジャファーはちょっとだけ傷ついた顔のあと、気を取り直して、ふん、と鼻で笑った。

「僕にはシャーラがいる。とはいえ、君も戻る場所のある身だ。君が体験しているこの物語には、真の主人公がいるはずだが?」
「随分話が変わっちまってるけど、心当たりはある」
「その名を唱えれば、君は元の世界へ戻る。そのあと、その者をここへ連れてくればいい。おそらく君と同じ姿かたちをして、性格もそう差はないだろう」

 エミーなジャスミン王女の表情がパッと輝いた。

「じゃあ、私と結婚するのはその人なのね!」
「魔法のじゅうたんを使って探せば、すぐにみつかるでしょう。ジャスミン王女」

 膝を折って作り笑顔満開で、王女の幸せ願ってます、みたいなシャドウはやっぱり悪い魔法使いだと思う。



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「遅い〜!俺の出番無いじゃん!」
「しょーがないだろ。女王とずっと飛んでたんだから」

 戻ってきた魔法のじゅうたんから真っ白なモフ毛をつかんで、くいっと上に引っ張ると、やっぱり出てきた白いハリネズミ。

「そんなに楽しかったのか?空の散歩が」
「よくわからないけど、あの女王さまって初めて会ったって気がしないんだよね」

 まあ、そーゆうこともあるだろうな。

「ついでに、シャーラの今のご主人さまのアンタも、前のご主人さまだったってヤツも、気に入らないって感じがするんだけどね」

 まあ、そーゆーこともあるかもね。

「ねえ、じゅうたんの精さん。私も乗せてもらってもいいかしら?」

 ジャスミン王女がすっごい期待のまなざしで、じゅうたんの精らしいシルバーに訴える。これは絶対、

「いい、けど」

 ほら、断れない。

「ソニックも一緒で!」
「ええー?そっちの青いハリネズミはリングの精のシャーラも一緒じゃないとヤだね」

 …シャーラは今もジャファーと絶賛仲良し中。切り離せる雰囲気じゃない。

「じゃあ、もう一人オマケで、あの悪い魔法使いも一緒に」

 って言うと白いハリネズミはあからさまに嫌な顔をした。コイツ本当に顔にでるよなあ。

「ああ、さすがのじゅうたんの精も人数が多すぎて飛べないかなー?」
「そんなことない!女王さまも一緒に乗っても平気で飛ばしてやるってのー!」

 そして挑発にも弱い。ブレイズに青い青いと言われるワケだ。

「みんな!魔法のじゅうたんが全員乗せてアラビアンナイトの空を一周してくれるってさ!」
「おいっちょっとまっ…」

 続きは、笑顔のブレイズ女王に負けて言えなかった。ちょっと哀れだな、シルバーって。
 でも腹をくくるとやることは早い。
 そぉい!の気合でじゅうたんのサイズを5倍くらいに広げると、全員を乗せて…PK使うポーズでじゅうたんを飛ばしはじめた。

「王宮の外に友達がいるからさ。見つけたらそいつらも一緒に飛んでくれよな」
「わかったよ、じゅうたん使いの荒いヤツ!」

 空を行く速度がだんだん早くなってゆく。

「ソニックー!」

 後ろからガツンとジャスミン王女が俺をホールドしてきた。やっぱりエミーと同じ技を使う。

「今だけ、元の世界へ戻るまででいいから、恋人になってね!私、あなたによく似た人、必ずゲットするから!」

 くわばらくわばら。
 こっちの世界の俺、がんばって逃げろよ。
 他人事だとは思えないけど、俺にできるのは祈ることぐらいだな。

 そして。
 やっと、この物語のエンディングが見えた。かな?









おわり。






ソニックのページを作って、最初の拍手小話でした。
「何か、拍手の話を書かなくちゃ、書かなくちゃ」と思って書いて、
書いてみたらえらい長い…改行とか入れたらさらに長いので、入れなかったらさらに読みづらい…。
グダグダな長さですが、私は結構お気に入りです。
ひみリン大好き!

2009.05.24


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